第二十六話
お昼休憩が終わった社員たち。
それぞれに自分たちのデスクへと戻っていく。
その社員の中に、お日様の香りを纏った葵と華乃もいた。
「葵先輩!
また、一緒にお昼ご飯を食べましょうね!
……お弁当の交換、とても楽しかったです!」
「私も、とても楽しかったです。
華乃ちゃん、また一緒に食べましょうね。」
「ふふ!
葵先輩……なんだったら、お泊り会とかします?
二人っきりで、コンビニスイーツを持ち込んで女子会とか、絶対に楽しいって思うんです……!」
「……確かに……私、女子会とかしたことないけど……華乃ちゃんとなら、楽しそうですね。
(女子会……!
私には縁のなかった言葉……!
えー……どんなことをするんだろう?
修学旅行じゃないから枕投げとかじゃないし……パジャマパーティ的な……?
その場合は、菖兄さんのお下がりトレーナーじゃ駄目かしら……?
ダボッと着れて楽なんだけど……)」
そこはかとなくワクワクとした雰囲気の葵は、楽しげに想像を膨らませる。
「…………ほんとに、鈍いっていうか……。
(……葵先輩って危機感が死んでない?
備品室で私にキスされたこと、絶対に忘れてるよね?
……まあ、いっか。
油断しているところを、食べちゃえば……そういう雰囲気に持ち込めば良いんだし。)」
ほわほわと花を飛ばしている葵。
華乃には油断しきっている葵に見えていた。
「…………そんな真似を許す、と?」
舌舐めずりする肉食動物に勘付いたのか、彰良が割り込んだ。
「あれぇ、犬飼さんどうしたんですか?
そう言えば、どうでも良いですけど、お昼ご飯は食べれました?
それにぃ、私が葵先輩と女同士で楽しんでいる間に、犬飼さんも佐山先輩とでも友情は育めましたかぁ?」
「別行動だが?
第一、なぜ佐山先輩と友情を育む必要がある?
必要性を感じない。
……それよりも、昼は兎も角、夜まで立花先輩の時間を独り占めさせると思うか?」
「させるかどうかじゃなくて、するんですぅ。
え?もしかしてぇ……犬飼さんも参加したいんですか?
じょ・し・か・い・に!」
「…………」
バチバチと火花を散らす二人。
「(犬飼君……苛立ってる……?)」
葵に見えない角度を計算した華乃の意地の悪い微笑み。
華乃に対峙する彰良の空気が普段よりも刺々しいと葵は感じた。
「……犬飼君、お昼ご飯を食べましたか?」
「……は?」
「私たちが引き留めたので、お昼が間に合わなかったのかと思って……」
葵に見えないように吹き出す華乃。
そんな華乃を一瞬だけ睨む彰良。
「……心配してくれてありがとうございます。
自分は昼食は摂っていますので、問題はありません。」
「そう、ですか……。
では、華乃ちゃんが言ったように犬飼君も女子会に参加したかったのですか?」
「……違います。」
「……?」
何処からともなく哀愁が漂い始めた彰良。
「犬飼君……広報誌の作成も追い込みですし……通常業務も並行してますから疲れているんですね。」
「…………いえ……」
「もし良かったら、疲れには甘いものと言いますから……手作りが苦手でなければ……如何ですか?」
「…………自分には必要ありませ……っ!」
言葉が途切れる。
「……やはり、手作りは苦手ですよね」
自分のデスクに置いていたカバンから取り出したタッパー。
その中には、ラップで一つ一つ包まれた小麦色の何か。
「立花先輩、すみません。
前言を撤回しますので、自分にください。」
「ええっっ?!
犬飼さんだけズルいです!
私も葵先輩の手作りオヤツが欲しいです!」
前のめりで詰め寄る彰良と華乃。
「え、あの……そんな、大したものじゃ……余ったホットケーキミックスで作った……ただのアンコ巻き、ですし……」
二人の迫力にタジタジな葵。
「ちょっと犬飼さん!
葵先輩が大きいだけで、特にメリットの無い背丈に怖がってるじゃないですか!
あと一メートルは離れて話してくれませんかぁ?」
「距離を取るべきは貴女の方では?
……甲高い声を不快に感じる人種もいると思うが?」
「……デリカシーって言葉を知ってますかぁ?」
「……貴様よりは知っている。」
葵が手に持つタッパーを前に争う二人。
「(そろそろ休憩が終了するんだけどなぁ……どうしよう……。
このままフェードアウトしたら……怒られる?)」
周囲に助けを求めるように視線を向けるが、誰一人として葵と目を合わせてくれる人はいなかった。
「そうそう……屋上で葵先輩とお弁当を交換して食べたんだけど、ね。
葵先輩って料理上手だわ。
エノキの豚肉巻きも、金平も、卵焼きも!
とっっても美味しかったの!」
「…………」
「大好きな人の手作りって、心がこもっていて……とても美味しいわよ。」
「……調理した時点では、兼子さんのために作った弁当ではないと思いますが?」
「でも、美味しいのはホントよね!」
羨ましいだろうと言わんばかりの華乃。
額に青筋が浮かぶ彰良。
「吉村課長っ!」
一触即発な二人。
そんな二人に構わずに飛び込んで来た人物。
「佐山くん?
そんなに慌ててどうした?
総務課の二大怪獣頂上決戦よりもヤバいことでも起こったか?」
「大怪獣スマッシュブラザーズよりヤバいっすよ!」
「……何があった?」
肩で息をする佐山へ吉村がやる気のない声音で、だが……真面目な目で問い掛ける。
「営業部が大パニックです!
何か黒木達が関係してることらしくて、営業部の部長が此方に向かってます!」
「……あの牛頭部長が動くほどのことが起きた、と……?」
普段の気の抜けた吉村の空気が一瞬で切り替わる。
誰が音頭を取ることもなく、吉村の空気に従い、総務課の社員達は自分たちのデスクに戻るのだった。




