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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第十九話



 地下から地上へと戻れば、差し込む夕陽。


 燦々と降り注ぐ白い光よりも、柔らかで暖かい夕焼け色。


「…………」


「…………」


 以前より半歩だけ近付いた二人の距離。


「……犬飼君、備品ファイルは棚に戻しておきますので。」


「……ありがとうございます。」


 ―――だが、まだ半歩の距離がもどかしい。


「(……今日は……疲れたなぁ……うん。

 絶対に、残業はしたくない気分だわ。

 ……あー……焼き鳥食べたい……)」


 地下でのやり取りを匂わせないように。


 そして、残業をしないためにデスクに置かれた書類のチェックを開始する。


「せーんぱいっ!」


「っ……!」


 音もなく近寄り、ぽんっと軽く叩かれた肩。


 一瞬だけ強張った身体。


「……かね、こさん……」


「あはっ!

 そんなにビックリして、どうしちゃったんですかぁ?」


 普段通りの明るい笑顔。


「何か……ありました?」


 唇に指を添えた、笑顔。


 笑顔を裏切る、猫科の瞳。


「…………」


 華乃の背後には、課長に捕まっている彰良の姿。


「(……怖い……怖かった、けど……なんでだろう……)」


「……先輩?」


 ジッと華乃を見詰めて、固まっている葵に怪訝な表情を浮かべる。


「……兼子さんって……可愛いな、って……思うの。」


「……え?」


「あ、急にごめんなさい。

 その、以前から猫っぽい子だなって思ってて……。

 (……甘えるのはシャム猫っぽくて……時々、ライオン……)」


 零れ落ちた笑顔。

 脳裏には悪戯っ子な猫の姿。


「……………先輩の……笑顔、初めて……」


 目を瞬かせ、微かな声は淡く消える。


 初めて向けられた素の表情に、華乃の心に喜びが満ちる。


「……兼子さん?」


「……何でもありませんよ、先輩!」


 首を傾げる葵に、華乃は満面の笑顔を向けた。


「何か、用事があったのでは……?」


「あ、そうでした!

 ちょこおっと、先輩に相談と言いますか……お願いがありまして……」


「お願いですか……?

 業務的なことならば、相談には乗りますが……」


「お願いしますっ!

 私と二人で来月の広報誌の担当をして頂けませんか?」


 先輩だけが頼りなんです!と拝む華乃。


「広報誌……?

 でも、それって……課長から担当者が振り当てられるはず……?

 しかも、担当は二人一組だから私は必要ないと思うの。」


 二人で十分な仕事量しかない広報誌。

 相方も決まっているはずの仕事に、果たして自分は必要だろうかと首を傾げる。

 

「うっ……それにはぁ……海よりも深ーい事情がありまして……」


 苦虫を百匹食べたような表情の華乃は、瞳を潤ませる。


「……課長には、無愛想で圧迫感の塊が隣にいたら広報誌なんて無理だと不服を申し立てようかなって……」


「無愛想な塊……?」


「そうなんです……!

 私には、塩対応極まりない相手なんですよぉ!」


 然りげ無く葵の両手を握りしめて、顔を近付け訴える。


「もうっもうっもうっ!

 女心がわからない穆念慈!

 あの人と二人の空間なんてっ!

 私の繊細な胃が死んじゃいますっ!」


「…………えっと……この部署に、そんな人いましたっけ……?」


「います!

 いるんですよぉ……!」


「(……なんか……猫に擦り寄られてるみたい……。

 ……えー……キスして来たとき……もっと、うん……怖かったはずなのになぁ……)」


 怖かったはずの華乃。

 しかし、今……目の前にいる華乃を怖いとは思えなかった。


「(なんでだろう……可愛い、って思っちゃう……)」


 自分の意識の変化に内心で苦笑する。


「先輩!

 聞いているんですかぁ!

 本当に、お願いしますよぉ……」


「……うん……ちゃんと、聞いていますよ。」


 恐怖が萎む。


 可愛いという思いが溢れる。


「……ほぇっ……せ、せんぱい……?」


「……兼子さんは……頑張っているんですね。」


 母が娘を慈しむように。


 伸びた手が優しく華乃の頭を撫でる。


「……っ……!?」


 頬に集まる熱。


 ずっと求めていた優しさ。


「……葵先輩……って……ずるい……」


「え……?

 あ、ごめんなさい。

 急に、嫌だった……」


「嫌じゃないです……!

 ……だから……もっと、して……?」


 潤んだ瞳。


 赤く上気した頬。


「っ……え、あの……」


「おねがい……葵、先輩……」


 香り立つ色香。


 不安げな……切望する眼差し。


「う……うん……」


「……嬉しい……」


 細められた目。


 全身から溢れ出す歓喜。


「葵先輩、大好きです……!」


「……うん……あ、りがとう……」


 掌に刷り寄せてくる丸い頭。

 しばらくの間、頭を撫でる手が止まることはなかったのだった。


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