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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第十四話



 普段と変わらない会社のエントランス。


 出勤した社員たちが行き交い、エレベーターを待つ者。


 足早に階段を駆け登る者。


「おはよう。

 金曜日はお疲れさまでした!」


「あ、おはよう!

 お疲れー!

 めっちゃ楽しかったね!」


 口々に挨拶を交わす社員たち。


「おはようございます。

 (……名前呼びなんてしたら犬飼君に迷惑が掛かる。

 それに、これ以上の男女の面倒事なんて御免だわ。)」


 いつも通りの出で立ちで、葵も総務部の扉をくぐれば、返ってくる挨拶。

 

「あ、犬飼君。

 おはようございます。

 金曜日は、お疲れさまでした。

 (いつも通り、いつも通り)」


 自分のデスクへと向かえば、少し離れた席に見間違えることのない大柄な背中。


「…………おはようございます……立花先輩……」


 確かに週末に一緒に過ごしたはずなのに、変わらない葵の態度。


「…………」


「犬飼君……?」


「いえ……何でもありません。」


 黒縁眼鏡の奥の瞳が、不服そうな色を宿している。


「(……犬飼君……不機嫌……?

 感情が出てるって……珍しい……。

 もしかして……体調が悪いのかしら……?)」


 首を傾げた葵が、彰良へ問いかけようとしたその時。


「おいっ!

 アレ、見たか!」


 総務部の同僚の一人が駆け込んで来た。


「どうした、佐山?

 アレってなんだよ、アレって。」


「掲示板だよ!一部の!

 営業の黒木の写真が貼られてて騒ぎになってる!

 管理職のパソコンにも黒木の写真が出回ってるらしくて……」


 佐山の言葉に総務部の全員が頭上にハテナを飛ばす。

 

「掲示板は分からんが、管理職ってことは俺にも……………なんだこりゃっ?!」


 総務部の課長が自分のパソコンを操作すれば、現れた写真と告発文に素っ頓狂な声を上げる。


「えっ課長、どうしたんす……うわぁ……」


「コレ……ヤバいだろ……」


「あの噂って……本当だったんだ……」


「賭けって……やっぱり……」


 課長の反応に気になった者達がパソコンの元へと集まる。


「(これは……)」


 葵も控えめにパソコンを覗く。


 そこには、金曜日の件のバーで絡んで吐いている拓矢の写真と音声が添えられていた。


 告発文の内容も女性の尊厳を踏みにじる賭けが営業部内の一部の社員で共有されている事実を訴えるものだった。


「(送信元は……営業部?

 いったい……誰が……?)」


 チラリと彰良へと視線を向ければ、無言で首を横に振られる。


「(…………あの性悪女)」


 彰良は葵にバレないようにため息をつく。


「おいっ!

 お前らっ退けっっ!

 あのクソ女っ葵はいるかっっ!!」


 荒々しい怒鳴り声に総務部に緊張が走る。


「先ぱ……っ!?」


「犬飼君、悪いけど……彼は私をご指名です。」


 危険を感じ取った彰良が葵を背中に隠そうとする。

 しかし、葵は燃え上がる瞳で前に出た。


「何か御用ですか、黒木さん。

 業務以外のことで二度と話しかけるなと忠告したはずですが。」


「五月蝿いっ!

 よくも俺をハメやがったな?!」


「何の話ですか?」


「惚けるなっ!

 お前以外に誰がいるんだよっっ!!」


 近くのデスクにバンっ!と叩きつけられた写真には拓矢の醜態。


「取り柄もない地味子のクセにっ!!

 この俺が哀れんで遊んでやっただけでも有り難く思うべきだろうがっ!!

 それをこんな舐めた真似をしやがってっっ!!」


「…………」


 掴みかかる勢いで怒鳴り散らす拓矢に、葵の心は冷たく凍っていく。


「救いようもない馬鹿ですね。」


「何をっ?!」


「救いようもない馬鹿だと言ったんです。」


 聞こえませんでしたか?と嗤う葵の纏う圧に、拓矢は鼻白む。


「一つ、この写真は私がバーを去った後に撮影されています。」


 叩きつけられたシワだらけの写真を指差す。


「二つ、社内メールで管理職へ一斉送信したアドレスは、営業部の共通アドレスです。

 総務部の私には使用できません。」


「は?

 営業部だとっ……?!」


「他部署に怒鳴り込む前に、そのくらい確認するべきでは?」


「ぐっ……だがっ!

 あのバーに俺がいたと知っていたのはお前とアイツだけだろうっ!」


「……そうですね。

 私の腕を掴んで無理矢理ホテルに連れ込もうとした貴方を、見兼ねた彼が止めてくれました。」


 彰良の名前を出したくなかった葵は、一瞬だけ視線を揺らす。


「……三つ、もしも私が貴方を告発するならば、他人の手など借りません。

 ……私は、私自身の武器で戦いますから。」


 ジャケットから取り出したボイスレコーダー。

 葵は自分の意思で再生のスイッチを押した。


『さようなら、黒木さん。

 今後は、業務以外のことで二度と話しかけないでください。』


『……ま、てよっ!』


『っ……!』


『うるっせぇ女だなっ!

 賭けが、あんだよっ……だまってホテルに行ってっ……ヤラせろよ……っ!』


『いたっ……やだ、離してっ……!』


 カチリとボタンを切れば、顔面蒼白な拓矢。


「ご理解して頂けましたか?

 私には別の証拠があった。

 ……だから、この写真などに頼る必要はありません。」


「(…………先輩……)」


 堂々と真っ直ぐに拓矢へと告げる葵。

 だが、その指先は微かに震えていたことに、彰良は気が付いた。


「……ひどい」


「酔い潰してって……」


「賭けって……最低っ……!」


 葵の提示した証拠に、その録音内容に周囲がざわつく。


「ぐっ……ちがっ……!

 こ、これは……な、にかの間違いでっっ!

 そ、そうだ!

 これは葵と喧嘩してしまって……」


 頭に血が上っていた拓矢に、少しだけ理性が戻る。


「黒木さんが……そんな人だった、なんて……!」


 口元を手で覆った華乃が、怯えた視線を拓矢へ向ける。


「か、華乃ちゃん……!」


 周囲に味方が一人もいないことに気が付けば、しどろもどろに拓矢は自分を弁護しようとした。


「黒木君」


「ひっ……ぶ、部長っ、ち、違うんです!

 コレはっ俺のほうが被害者で、はめっはめられたんですっっ!!」


 葵がボイスレコーダーを取り出した辺りから聞いていた部長と営業部の課長を前に拓矢は冷や汗を流す。


「言い訳はよしたまえ。

 ……警察の方も来ているんだ。」


「けっ、警察……っ?!」


 そして、警察という言葉に拓矢は目を見開き、責めるような視線を葵へと向ける。


「言っておきますが、私ではありませんよ。

 ……貴方の被害者達に色々と教えて頂いたことは認めますが。」


 事前に拓也の手口を賭けの被害者達に聞いていた葵。

 拓矢にわざわざ伝えることではないが、賭けの証拠を取りに行くことだけは伝えていた。


「(おそらく、その事実を知っていた誰かが先手を打った……そう考えるのが自然ね。)」


 部長たちに連行されるように、遠ざかって行く拓矢の背中。


「(三ヶ月……やっと、終わった……)」


 張り詰めた弓が緩むように。

 微かなため息を葵は吐き出すのだった。


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