第十三話
何処にでもありそうな数階建てのセキュリティマンション。
「結局、車で送らせてしまってごめんなさい、彰良くん。
(また押し負けちゃった……何でこんなに彰良くんに勝てないのかしら……?)」
「……いえ、自分も用事がありましたので。
(……此処が先輩の自宅……一人暮らしの若い女性が住むにはセキュリティが甘過ぎないか?)」
車内から見えるベージュの外観、オートロック式のエントランスに彰良は内心で眉をしかめる。
「……そう言えば、葵先輩は聞かないんですね。」
「……え、何を?」
「自分のことを、です。
……疑問を持たれても可笑しくないかと。」
「…………」
ジッと見詰めて来る彰良の静かな瞳。
「それは……彰良くんは、聞いてほしいの?
(いや、気にはなるけど……ね。
静かなるドン的な稼業だったら踏み込む勇気は無い、し……それに……)」
嘘は付けない。
彰良に、嘘を付きたくない。
「……人には触れて欲しくないことって有るでしょう?
私は……人の傷を広げる真似も、無理矢理に秘密を暴くことも好きじゃないもの。
それに……私を助けに来てくれたり、世話を焼いてくれた彰良くんの優しさは……本物だから……」
思い出せば、暖かくなる心。
「……それで、良いと思うの。」
愛しげに微笑む葵。
「葵先輩は……卑怯だ……」
大きなため息を付いて口元を押さえ、彰良は微かに朱に染まった顔を逸らす。
「確かに……詮索されるのは好きではありません。
……ですが、葵先輩ならば……隠すつもりはありません……。」
熱の籠もった瞳を細め、彰良は微笑む。
「……葵先輩が知りたければ話すつもりでした……ですが、無理に知ろうとしない葵先輩の心が……自分は好きです……」
「っ……卑怯なのは……彰良くんだと思う……!」
葵の頬が赤く染まる。
彰良の瞳から隠すように俯き、ぎゅっと服を握る。
「あの……昨日も、今日も、本当にありがとうっ!
えっと、彰良くんが居てくれて……良かった、と思ってます……!」
誤魔化すように慌てて助手席を降りる葵の動作は何処かぎこちない。
「葵先輩」
「……は、い……彰良、くん」
「……また、月曜日に。」
「っ……うん、また……月曜日に、ね……。
(……どうして……そんな顔をするの……!)」
零れ落ちそうになる問い掛けに口を閉ざし、葵は何とか言葉を絞り出す。
「………………」
彰良の見透かしたような視線を感じながら、葵は見慣れたエントランスへと足早に進んでいく。
そんな葵の背中を彰良は見えなくなるまで見送るのだった。
振り向きたくなる心を制し、後ろ手に扉を閉めて座り込む葵。
「(……私、どうしちゃったんだろう……!
あ、きら君は……ただの、後輩のはずなのに……!)」
熱を持った頬を両手で押さえ、瞳を潤ませる。
「親切にしてくれたからって……あき、犬飼君の優しさに甘えちゃ駄目だわ……!」
しっかりしなければ、と己を奮い立たせる。
「……そう、まだ終わっていないもの。
今度の勝負は……月曜日だわ。」
一度大きく深呼吸した葵の瞳に、今までの甘い熱は消え失せた。
「…………犬飼君に、後輩には負けてられないもの。」
覚悟を決め直した葵は、バックの中から太めのペンのような物……ボイスレコーダーを取り出すのだった。




