≪付録・急8≫
アクセス権を得たオウタがアカシッコレコードから検索したのは、イイトモン帝国初代皇帝ドラジド・サンタモ・ジドラジドの全人生に関するデータであった。
すると彼に関する新事実が次々と明らかになったのである。
ドラジドが掲げたレイシズムという思想について、彼はその内容に全く無関心であった。
人間は最も優れた最高の生物であるとか、この世界は人間のために存在しているとか、そんな事はどうでもよかったのである。
ドラジドにとって最重要であったのは、種族統一、であった。
彼は、同じ種族同士が、信条・価値観・習慣、といった文化の違いで殺し合いをする、序論において言及した民族戦争の戦災者だったのである。
民族戦争によって家族を全員失い、さらに右目を失明するという悲惨な目に遭っていた。
ドラジドは民族戦争を酷く憎み、どうにかしようとした。
彼は同志達を集め結束し、民族戦争を終わらせるための手段を模索して、試行錯誤を重ねていった。
そうして大ヒットしたのがレイシズムを基にした、
「人間とは我ら有無種である。ゆえに有無種同士で争う事は大いなる過ちである。世界は有無種という人間のために存在しているのだから、我々はこの世のすべてを手に入れるため、団結し、世界征服事業を断行しなければならないのである」
という、有無種の自尊心を満たし優越感に浸らせてくれる主張だったのである。
これによってドラジドは悲願であった種族統一を成し遂げ、民族戦争終結に成功したのであった。
つまり彼にとってレイシズムは目的達成のための方便でしかなかったのである。
ある意味、レイシズムの善用であった。
ドラジドは、
「世界征服事業を断行しなければならない」
と唱えたものの、彼にそのつもりは皆無であった。
ようやく一つの戦争を終わらせたというのに、新たな戦争を始めてしまっては元の木阿弥である。
よって帝国は成立させたが、以後は、征服戦争を実際に起こさぬよう、思想転換〈パラダイムシフト〉に腐心していく所存であった。
これはドラジド一人の意思ではなく、同志達との当初からの総意であった。
だが、その同志達が翻意してしまったのである。
圧倒的に進歩した魔法技術を持つ有無種が団結し、その総力を結集して行使できるようになったので、ジスモード大陸制覇という歴史的偉業も達成可能である、という野心に同志達は目が眩んでしまったのであった。
歴史上にてよく見受けられ悲惨な結果しかもたらさない、手段の目的化、であった。
ただ一人、当初の予定を貫こうとするドラジドはその皇帝という立場を利用して、征服戦争を始めようとする、貴族の身分となっていた元同志達を、
「やる気のある者は去れ!」
と指弾し、権力の座から追放しようとした。
しかし逆に幽閉される事になってしまい、お飾りの立場とされてしまったのである。
よって当然、第一次世界征服戦争始動時の、魔血演説もドラジドは言っておらず、元同志達が勝手に彼の言葉として捏造し、布告しただけなのであった。
始まってしまった征服戦争を止めるため、ドラジドは自力で幽閉から脱し、反逆罪で元同志達を罰しようとしたが、再び失敗してしまった。
ドラジドという存在が、もはや邪魔でしかなくなってしまった元同志達は、彼を抹殺してしまったのである。
これがドラジド暗殺という大事件の真相であった。
コスタニコの話では、元同志達の内のダイマ派が犯人であるとの事であったが、それは嘘だったのである。
ダイマ派・ジンコ派双方合意の上でドラジドを葬り去ったのであった。
そしてアカシッコレコードにて確認したところ、ダイマ派が自身の血縁者をドラジドの血縁であると偽称して次期皇帝の座に据えようとし、ジンコ派が本当の血縁者を擁して対立して権力闘争となったというのも偽りであった。
ジンコ派もダイマ派と同じく、自身の血縁者をドラジドの血縁であると偽称して次期皇帝にしようとしたのである。
という訳で、権力闘争に敗北したジンコ派が身を隠してドラジドの血縁者を守ったりもしておらず、つまりコスタニコが彼の末裔にして正当な王位継承者であるというのも虚言であった。
では、ジェノサイドがドラジドの遺志である、という話は、一体どこから出てきたのか。
これもアカシッコレコードで調べてみた。
すると、権力闘争に敗れ、仲間からも裏切られ、落ちぶれ、滅んでいこうとしていた残留組ジンコ派の者達のねじけた妄念が生み出した、世迷言、に過ぎなかった事が判明したのである。




