≪付録・急9≫
アカシッコレコードによってコスタニコ・ジドラジドという人物の、その素性・その使命・その行動原理などといった一切合切が偽りである事が明らかとなった。
彼女は、叩けば埃が出る人、どころではなく、叩いてみたら人の形をした埃の塊、だったのである。
そしてコスタニコは、自身が埃の塊である事を全く知らなかったのであった。
彼女は騙されていたのである。
「……」
コスタニコは沈黙し、俯いていた。
顔には陰が差し、その表情はわからない。
コスタニコはその状態から、大怪柱より人類史の謎に対する解答を聞かされた時のように「アハハハハ」と哄笑したりはしなかった。
「……」
彼女は流れるような挙動で跪き、指を揃えて両手を地面に着け、頭を下げて額を地に擦りつけたのである。
土下座であった。
「…皆様…大変申し訳ございませんでした……」
コスタニコは土下座で私達に謝罪したのである。
「…私が愚かだったばかりに…皆様にご迷惑をおかけしてしまい…あまつさえ恩を仇で返し…取り返しのつかない事を仕出かしてしまいました……」
地に蹲る彼女の体はブルブルと震えていた。
「…もはやお詫びのしようもございません……。…私の事を…煮るなり…焼くなり…蒸すなり…揚げるなり…殺すなり…好きにしてください……」
残留組ジンコ派に欺かれ、妄執を植え付けられてしまっていたコスタニコであったが、アカシッコレコードで真実を知った事により、その洗脳から解放されたのである。
「いいよいいよ、そんな事しなくて。結局のところ、コスタニコは一生懸命がんばっていただけなんだから。取り返しのつかない事にもギリなってないし。なあ、皆」
イェンがそう言い、私達に同意を求める。
誰も異論はなく、私達は頷いた。
「ほら、皆もいいってよ。だからもう頭上げて、ほら」
イェンがそう促すが、コスタニコは、
「…いえ…私は地虫です……。…地虫は頭を上げられません……。…地面に這いつくばっているのが、お似合いです……」
と自身を卑下して、土下座を止めようとしない。
そんな彼女をイェンは優しく強引に起こして、体に付着した土汚れを払ってあげた。
「……」
立ち上がったコスタニコは、横分けにしていた髪が解けて顔を覆ってしまい、ゼンカクレになっていた。
尊大さとふてぶてしさは失われて、内気で気弱で大人しい雰囲気をまとっており、猫背気味で、喋りは先ほどの土下座の時からボソボソとしている。
神君ドラジドの末裔にして正当な王位継承者であるコスタニコ・ジドラジド、という人物は虚構である事が明らかとなったため、彼女のその人格も崩壊してしまい、偽装キャラクターであったはずのコスタニコ・セクスタが本人格となってしまったようであった。
「あら~、私達の知っているコスタニコが帰ってきましたね~」
マクシアが嬉しそうにコメントする。
「……うぅ」
コスタニコが呻いた。
その足元に水滴がポタリポタリと落ちる。
ゼンカクレのため視認できないが、彼女は泣いているのだ。
「…これまでの私の人生は…すべて無意味だった……。…大人達から…ドラジドの遺志実現のためと言われ…物心ついた時から課せられた地獄の修練の人生は…すべて無駄だった……。…大人達が誰もいなくなって…独りぼっちとなった後も…孤独の中で…必死に足掻き続けてきた私の人生は…すべて無益だった……。…ううぅぅ…、クソみたいな人生だった……」
さめざめと泣くコスタニコ。
自分の人生は、無意味で、無駄で、無益で、クソであったと儚んでいる。
彼女を慰めてあげたいところであるが、誰も言葉が見つからない。
コスタニコの嗚咽の言葉は否定できない事実であり、下手な慰めでは気休めにもならないどころか侮辱にさえなってしまうからである。
しかしそんな中で、慰めにいく者が現れた。
オウタであった。
彼はコスタニコの背中を軽くポンと叩き、
「この世界には人類保管計画があります。人の人生はデータとしてすべて収集され、目的のために有効活用されるのです。その事を考えれば、どれほど無意味な人生であろうと、どれほど無駄な人生であろうと、どれほど無益な人生であろうと、どれほどクソみたいな人生であろうとー」
オウタは力強く言い放った。
「全て平等に価値がある!」




