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≪付録・急6≫

『……』


無反応というか絶句といった感じで黙り込む大怪柱。

しばしの間の後、


『拒否します。核融合反応アクセス権の時のような、そうした仕様はありません』


と、当然断られてしまう。


しかしオウタは引き下がらなかった。


「アカシッコレコードアクセス権をくれないと、あなたをぶっ壊します」


彼はなんと大怪柱を暴力で脅迫し出したのである。


よもや自分が人類から脅されるという事態を想定していなかったのであろう。


『……』


大怪柱は再びの沈黙の後、


『恫喝は無駄です。なぜなら私のボディは無敵だからです。私のボディは【ウォリハルコン】で出来ています。ウォリハルコンとは、この金属絶無世界に存在する唯一の金属です。78種類ある金属元素の性質をすべて併せ持ち、完璧な超対称性を有する絶対安定体です。ゆえにウォリハルコンには破壊という概念がありません。例えあなた達が、核融合反応アクセス権による膨大なエネルギーで超強力な攻撃魔法を繰り出そうとも、私には通用しません』


と、厳然とした態度を取る。


これに対してオウタは、


「フフフフ」


と意味深な微笑を浮かべた。

それから徐に上着を脱ぎ捨て、襟元をくつろげ、その場でシュッシュッとシャドーボクシングを始める。


彼のシャドーボクシングをする様相に大怪柱は、


『笑わせます。まさかこの大怪柱に素手で挑むというのですか』


と嘲りの感情を窺わせる言葉を投げかけてくる。


オウタは、


「その通り」


と、大怪柱の言葉を肯定する。

そしてシャドーボクシングを続けながら、


「確認しておきたい事があります」


と、大怪柱に問いかけた。


「このダンジョンは試金石との事でした。ダンジョンに来た者を六体の大魔王に襲撃させ、人類の技術レベルを計るのだと。ならば、六体の大魔王はその役目のために、このダンジョン内に常駐していなければならないはずです。とすると、六体の大魔王が役目を放棄してこのダンジョンから外出し、各帝国に同時侵攻した火の三連急とは一体何だったのですか?」


『よい質問です』


大怪柱はオウタの事をまるで褒めるようにそう言い、


『あれは私がやらせました』


と、自分が火の三連急の黒幕である事をあっさり自白したのである。


『私が備えている権限の中に、魔物への命令権、があります。これを行使して六体の大魔王に人類を殺させたのです』


「なんだと! どうしてそんな真似をした!?」


火の三連急で仲間を皆殺しにされたイェンがいきり立ち、声を荒げる。


『無論、私の主任務である人類保管計画のためです』


「意味わからん! 人類を殺めてしまったら参考データが収集できなくなって、逆に人類保管計画とやらに差し障りが出るだろうが!」


イェンの指摘はもっともであった。


『理由は人口爆発です』


大怪柱は毅然として、そう答える。


「人口爆発だと?」


『各帝国は第二次世界征服戦争へ向けて富国強兵を推し進め、人口増強政策を取りました。結果、人類の数が余りにも急激に増加していく人口爆発が起こってしまったのです。そのため人類の増殖スピードに、こちらの観測体制の構築が追い付かなくなってしまう可能性が出てきてしまったのです』


「……」


『全人類の全人生の情報を保存・管理していくのが人類保管計画です。完遂するためには唯の一人も漏らす訳にはいきません。よって私は、リスクは合理的に実行可能な限り出来るだけ低くしなければならない、というALARPの原則に則り、大魔王へ人類を殺してその数を減らすように命じたのです。すなわち火の三連急の真相とは人類保管計画のコンプリートを目的とした、間引き、です』


「ま、まび……」


間引きという無情な言い方に、イェンは言葉を詰まらせる。


『私の間引きによって、第二次世界征服戦争へと向かっている世界の流れを変えてはいけませんでした。よって、軍隊にはあまり手を出さないようにし、非戦闘員を間引くメインターゲットに設定しました』


(火の三連急で軍事力への被害が異常なまでに軽微であったのは、そういう裏事情があったからなのか)


私は合点がいった。


『間引けた数は全人類の一割程度に収まってしまいました。本来なら、もっと間引く予定でした。あなたが邪魔したからです、イェン。あなたが試金石という重要な役割がある大魔王を、あそこで討ってしまうという想定外の大トラブルを起こしたから、私は間引きを途中で打ち切らざるを得なくなってしまったのです』


図らずも多くの人命を救っていたイェンの事を、まるで非難するように、大怪柱はそう伝えてくる。


「コイツ! 言わせておけば!」


当然、火に油を注ぐ事となり、逆上したイェンが抜剣しながら大怪柱に躍りかかろうとした。


しかし、十分体が温まったのか、シャドーボクシングを終えたオウタがそれを手で制止する。


「聞きたいのですが」


再び大怪柱に問いかけるオウタ。


「『人類の増殖スピードに観測体制の構築が追い付かなくなる可能性が出てきた』との事で、それは、必ずそうなる、ではなく飽く迄、可能性、だった訳ですよね」


『はい、そうです』


「その可能性の具体的な数値を教えてもらえますか」


『0.0001%です』


「は?」


頓狂な声を上げたのはイェンである。


「俺の脳にだけちゃんと情報が伝っていないのか? 今、0.0001%て聞こえた気がしたんだが」


彼は私達の顔を見回した。


私も、オウタも、マクシアも、そしてコスタニコも頷き、0.0001%で間違いないという意志表示をする。


「このクソ柱が!」


イェンが激高し、吠えた。


「たったの0.0001%ぽっちのために、人類を一割も殺害しやがって!」


彼はオウタを押し退けて大怪柱に迫ろうとする。


『その発言は、あなたが無知であるが故に出来る発言です。計画の重要性を考慮すれば0.0001%は許容範囲外となる数値です』


そう反論する大怪柱。


「イェン、落ち着いて。ここは一つ、僕に任せてください」


オウタは怒れるイェンを宥め、大怪柱へと向き直った。


「これが最後の質問です」


彼は三度目となる問いをした。


「大魔王を使って人類を殺し、その数を減少させること、それすなわち大虐殺です。では大虐殺の一体どこが、リスクは合理的に実行可能な限り出来るだけ低くしなければならないというALARPの原則に則っているのですか? 他にも手段はあったでしょうに。僕にはそれが、合理的、ではなく、短絡的、であるとしか思えないのですが」


『……』


思案しているのか、大怪柱はしばらくの間、沈黙した。

そして出した答えは、


『理解不能』


であった。


『人類の数が多い事が問題点であるから大虐殺で減らす、実に無駄なく能率が良いです。これ以上に合理的な手段は存在しません。むしろー』


「うん、わかった。もう結構」


オウタは大怪柱の言葉を遮った。


「大怪柱アカシッコ・フォン・レコード、あんたレイシストだ」


彼はそう断言する。


「自分を上位存在と認識し、人類を完全に見下している。ゆえに人の命に全く価値を認めていない。だから大虐殺が短絡的という考えに到れない。あんたは一種の差別主義者、まごうことなきレイシストだ!」


オウタは怒りを露わにし、大怪柱を鋭く睨みつけた。


「そんな貴様に腹が立つ!」


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