≪付録・急4≫
『続いて、人類とは何か、に対する解答です』
大怪柱は淡々と事を進めていく。
『解答を伝える前に、先に述べた、人類がデザインされた目的であるプロジェクトについて解説します。そのプロジェクトの目標は【最高の生物】を創り出すことです』
最高の生物、それは我々にとって非常に耳馴れたワードである。
「人間は最も優れた最高の生物であり、この世界は人間のために存在している」というドラジドが掲げたレイシズムにあるワードで、このレイシズムが現在の世界の在り方を決定づけたのである。
(もしかして創り手が最高の生物として人類をデザインした。けれども、人類はお互いに争い合ってばかりいる愚かな失敗作になってしまった、ていうオチなのか)
私はそんな悲劇的な予想をしてしまう。
が、その予想は外れる事となる。
『最高の生物を創り出すプロジェクトの第一段階として実施されたのが【人類保管計画】です。最高の生物をデザインするに当たって、「これこそが最高の生物である」という、設計図、を引く必要に迫られました。創り手が超高度な技術力を有していても何かを創ろうとすれば、その設計図を引く事からは逃れられないのです』
(それはそうだろうな)
私は同意する。
『設計図を引くために必要な物とは何か。それはデータです。一にも二にもデータが必要なのです。最高の生物とは、どのような性質を持ち・どのような生態を持ち・どのような能力を持ち・どのような思考をし・どのような価値観を持ち・どのような癖[へき]を持ち、どのように振る舞い、どのように互いに関係していくのか等々。そして、どのように生き、どのように死んでいくのか、といった要素を決定するための参考データが求められたのです。そこで参考データを集めるためにデザインされたのが、貴方たち人類です』
(! なんと!)
意外な話に私は目を見張ってしまう。
『参考データを集める事が目的なので、人類には考え得る限りの千差万別な要素が有りっ丈詰め込まれました。それは矛盾どころか破綻を引き起こす水準であり、互いを理解し合うのが不可能となる程だったのです』
(……)
私は一瞬、思考が停止してしまった。
『ではここで改めて、人類とは何か、に対する解答をお伝えします』
「……」
私は息を呑む。
『人類とは【多様性の怪物】です』
「ッ!」
『最高の生物の設計図を引くための参考データ集めを目的として、ありとあらゆる要素を内包した多様性の怪物という生物なのです』
(か、怪物だと……)
自分たち人類が怪物呼ばわりされた事に、私はショックを覚えた。
しかし、考えてみると、これほど適切な言葉は無かった。
怪物とは、正体不明の不気味な生き物、という意味である。
夥しい数の要素を盛り込まれた人類は、もはやある種の合成獣〈キメラ〉であり、それは確かに正体不明の不気味な生き物であると言えた。
『参考データとなる多様性の怪物である全人類の全人生の情報を、その種の起源から一人も漏らす事なく保存・管理していくのが人類保管計画です。そして人類保管計画の運営を任されているのが、この私、大怪柱アカシッコ・フォン・レコードなのです』
(全人類の発言と行動のデータを余さず集めているというのか)
大怪柱が己を全人類言行情報収集システムと自己紹介していた事に、私は納得する。
『情報収集のための手段は、脳波受信となります。人類の脳波を観測し記録しているのです』
脳ある生物は何かしらの言行を起こそうとした瞬間、その情報を脳波として外部へ無線で発信する仕組みになっている。
オウタもミラクルパンチを打つ時に使うハイパーゾーンの術で、この脳波を受信できるのだが、大怪柱は同じことを全人類相手に行っているというのである。
(全人類となると途方もない数になるぞ。それだけの数の人生の情報を本当に集め切れているのか?)
私は疑念を抱かずにはいられなかった。
そんな気持ちを察したのか大怪柱は、
『人類保管計画が支障なく遂行されている事を示すため、これよりあなた達一人一人に、自身しか知らないはずの秘密の情報をお伝えします。それによって信じる一助になるかと思います』
と言い、私の秘密を伝達してきたのである。
それは確かに誰にも知られていない、私しか知らない秘密であった。
他の者達もそのリアクションから察するに、己しか知らない秘密を伝えられたようである。
『私の主任務は人類保管計画の完遂になります。その主任務の障害となるものに対処するための特別な権限を私は備えています。加えて、副任務として世界の仕様に反するイレギュラーが発生した場合の対応も任されています。そのための特別な権限も私は備えています。ゆえに核融合反応アクセス権の事でイェンに代案を提示しました。オウタという異世界人の来訪については、こちらの世界の人間による行動の結果であったため、イレギュラーと見做す事はしませんでした』
大怪柱は自身の役割についての補足説明をした。
『それでは最後となる、人類はどこへ向かえばいいのか、に対する解答をお伝えします』
大怪柱の話は終盤へと差し掛かった。
最後の謎に対する解答について、私は大怪柱から聞かずとも、これまで伝えられた情報から既に答えがわかってしまっていた。
『創り手によってデザインされた人類は、参考データ集めを目的とした多様性の怪物であるので、その多様性を存分に発揮させー』
大怪柱は一拍置いてから伝え放った。
『行きたいところへ行けばいい、のです』
(やはり答えはそうなるか。それ以外に無いもんな)
案の定であった。
『人類史の謎に対する解答は以上となります。あなた達が知り得たこれらの解答をどのように扱うかは、あなた達の自由です。こちらからは一切指示しません。公衆に教えてもいいですし、揉み消してしまっても結構です。それはアンダーグラウンドウォーカーの特権です。解答を伝えた目的は、これを知った人類がどうするのか、という参考データを得るためですから』
大怪柱の話は終わった。




