≪付録・急3≫
塩平原の中心に在ったのは巨大な柱であった。
その高さは160メートル近くにも及んでいる。
外観は明らかに非自然物であった。
我々の世界には存在しない金属的質感をしていたのである。
その色は、赤、であった。
一言で赤といっても赤にもバリエーションがあるので一体どのような赤なのか、と言うと、見る者すべてに、
(この世に色というものは数あれど、これこそが完全な色だ)
と思わせてくる赤であった。
私達が柱を見上げていると、突然、その直上に立体的幾何学模様が出現した。
立体的幾何学模様は、瞬く間にその数を増やしていき、光り輝きながら多彩にその形状を絶え間なく変化させている。
そして柱の上部に切れ目が走った。
切れ目は上下方向に開き、そこに大きな眼球が現れ出たのである。
眼球は麓にいる私達をギョロリと見下ろした。
『よくぞここまで辿り着きました。人類初の【アンダーグラウンドウォーカー】よ』
突如として頭の中に、そう声が聞こえてきたのである。
「!」
イェンがハッとなり、私達の方を振り向いた。
「これだ! この声だよ! 火の三連急の時に俺の頭の中で聞こえた謎の声は!」
巨大な柱は自らを、
『私の名前は【大怪柱[だいかいちゅう]アカシッコ・フォン・レコード】』
と名乗り、
『【全人類言行情報収集システム】です』
と自己紹介した。
『私はあなた達に、解答、を伝えるため、ここにいます』
出し抜けに、そんな事を言い放つ大怪柱。
『【人類はどこから来たのか。人類とは何か。人類はどこへ向かえばいいのか】という、人類の歴史の存在意義についての解答を。すなわちー』
大怪柱は言い換える。
『【人類史の謎】に対する解答を伝えるため、私はここにいます』
(!)
私は背筋が伸びる思いがした。
(それは、この世で最も深遠で、この世で最もどうでもいい主題じゃないか! 歴史家志望である私としては、非常に興味深いテーマではあるのだけれど……すべてが急だな)
事務的に話をどんどん進めていく大怪柱に、何の事前知識も無い私達は大いに戸惑ってしまう。
しかし大怪柱は、その威容と能力からして、現在のこの世界の魔法技術で説明できない理解を超えた超常的存在である事は間違いないので、私達はとりあえずその話を傾聴することにする。
『人類の進歩が一定の基準を満たせば、この謎に対する解答が与えられるように仕組まれていました。では、人類の進歩とは、何によって計られるのか』
大怪柱はそこで一呼吸置いた。
『それは技術レベルです。技術レベルの発達によって人類の進歩は見極められます。あなた達が、ギガアの大穴、と呼称した本ダンジョンが、そのための試金石でした。本ダンジョンにて、襲撃してくる六体の大魔王を退けられる程の技術レベルを発揮し、この地底へと到達して歩きし者、すなわちアンダーグラウンドウォーカーが出現する事により、人類の進歩が一定の基準を満たしたと判断されるのです。そしてそのアンダーグラウンドウォーカーが私と接触でき、人類史の謎に対する解答が与えられるようになっていたのです』
(最初に私達の事をアンダーグラウンドウォーカーと呼んだのは、それでだったのか)
私は得心する。
「僕の地元で謂う所のムーンウォーカーみたいなものかな」
傍にいるオウタが、そう独り言ちるのが聞こえた。
『はっきり言って驚きです。核融合反応アクセス権を所持する大魔王を撃退するためには、理屈上、同等の力が必要でした。人類が技術レベルを進展させ、その力を手にするのは少なくとも数百年は先であると私は予測していたというのに。流石は、といったところでしょうか』
(今、驚き、という言葉を使ったな。この大怪柱には感情が備わっているのか)
私は推測する。
『では本題に入ります。まず、人類はどこから来たのか、に対する解答です』
実に型通りといった感じで大怪柱は答えを述べ始めた。
『人類は【創り手[つくりて]】によってデザインされた生物です。創り手とは、技術力の極致へと達した超絶知的生命体です。その技術力によって、人類とそれが住むこの世界そのものを創り出したのです』
(世界まで創っただと! 何やら凄い存在が出て来たな!)
私は息を呑んだ。
『創り手は、あるプロジェクトのために、有無種・有毛種・有紋種・有尾種・有角種・有耳種という六種類の人間、すなわち総称【人類】をデザインしたのです』
本論文においてこの付録の項を除き、私は、タイトル・序論・結論にて、人類、という言葉を記載した。
読者の方は、人類という未見の言葉を、おそらく人間を意味している、と推測されたかと思う。
それは正解である。
ただし、それのみを意味する言葉ではなかったのである。
人類とは、人間という種に属する生物の総称であった。
つまり有無種・有毛種・有紋種・有尾種・有角種・有耳種の六種族すべてが人間である、という真理を示す言葉だったのである。
大怪柱の人類に関するこの説明は、今の世の中を根底から覆すものであった。
全種族のほぼすべてがレイシストなのである。
レイシズムを信奉し、自身の種族こそが最高の生物である人間と考え、他の種族は人に非ずと見下しているのである。
だというのに、全種族が人間であるという
【人類皆人間】
である事が判明し、レイシストという存在が完全否定されてしまったのであった。
(これは……)
私は視線をコスタニコの方へと向けた。
ここへ来た目的は、彼女という超危険人物を殺さずにどうにかするための切っ掛けを得るためであった。
極レイシストであるコスタニコにとって、人類皆人間の真相は多大な心理的衝撃を与え、彼女の信条を変える切っ掛けになったのではないかと思ったのである。
「……」
コスタニコは沈黙していた。
俯き加減となっているため顔に陰が差しており、彼女が今どのような表情を浮かべているのか不明であった。




