≪序論・背景・世界情勢3≫
話を世界情勢の件に戻す。
イイトモン帝国の国民は皆、
【差別主義者〈レイシスト〉】
と化した。
レイシストとは、
【レイシズムを信奉し、自身の種族こそが最高の生物である人間と考え、他の種族は人に非ずと見下す者】
を指す言葉である。
レイシストが登場するまで各種族は各々、自分達は人間である、と普通に考え、生物としては別物である他の種族はどうなるのか、という点については、突き詰めて考える事はしなかったのである。
なぜなら考えた所でどうなる訳でもなく無意味であったから。
しかしレイシストによって有無種以外の種族は【亜人】という【人間と似て非なる生物】として一方的に定義されてしまったのであった。
そしてそれぞれに亜人としての名称、すなわち【差別用語】を付けられてしまったのである。
その内容は以下となる。
有耳種:エルフ
有角種:オーガ
有尾種:ミツケモ
有紋種:モンモン
有毛種:ケモナー
「愚劣なる他種族は、飽きもせず民族戦争に明け暮れている。我々有無種はこれより人間として、すべての戦争を終わらせるための戦争を開始する。人間として我々は、この世のすべてを征服し、人間による世界平和、【パクス・ヒューマニア】を成立させる。パクス・ヒューマニアは、魔法による軍事力と他種族が流す鮮血、すなわち、魔と血によってなされるのである」
これがドラジドによる、かの有名な
【魔血演説】
である。
この魔血演説を皮切りとし、イイトモン帝国は
【第一次世界征服戦争〈グレイト・インベーダ・ワン〉】
を始動させたのである。
第一次世界征服戦争において有無種は、他の五種族をすべてに同時侵略する五正面作戦を展開した。
一つずつではなく五つの敵を一挙に相手取るのは無謀と思われるのだが、他種族は民族が結束できておらずバラバラなので、進んだ魔法技術を駆使する電撃戦〈ヒッヒモンゲ〉を繰り広げていけば問題なく勝てると有無種は踏んだのである。
そしてその目論見通りに、戦局は順調に進捗していったのである。
イイトモン帝国の兵達は、
「シンプル イズ ゴッツ(無駄無き事こそ神である)」
という、有無種を称えるスローガンを声高に叫びながら他種族の領土を蹂躙していったのであった。
が、征服戦争の道半ばでイイトモン帝国に大事件が起こってしまう。
ドラジド暗殺、である。
殺されてしまったのだ、ドラジドが。
この大事件を契機として、イイトモン帝国では、貴族がダイマ派とジンコ派に分かれ、権力闘争が勃発してしまう。
権力闘争は瞬く間に激化していき、遂にイイトモン帝国は内戦状態に陥ってしまったのである。
本国がそのような有様となれば、征服戦争遂行中の侵略軍にも当然、指揮系統混乱や補給物資停止といった深刻な悪影響が及ぶこととなり、順調であった戦局は完全に停滞してしまったのであった。
内戦はダイマ派の勝利で収束したのだが、敗北したジンコ派は滅ぼされる前に最後の報復を行ったのである。
その報復行為というのが、有無種の魔法技術を他種族に流出させる、貴族のみが独占していた最新の高度な魔法技術を喪失させる、といった内容であった。
つまり有無種が他種族に対して持っていた、進歩した魔法技術、というアドバンテージを潰したのである。
魔法技術のアドバンテージを失った事、内戦による戦線膠着で他種族に立て直しの時間が十分与えられてしまった事、そしてここに来て五正面作戦の無理が祟り出した事、によってイイトモン帝国は世界征服戦争の完遂を無理と判断せざるを得なくなってしまった。
奪った領土・領民・捕虜、そのすべて返還し、グレイト・インベーダ・ワンは終結したのであった。
これが今から50年前の話である。




