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≪付録・破2≫

(なるほど。先刻、私達に気付いた二体の量産型大魔王が、何もせずに撤退していったのが不思議だったけど、あれはイェンの万物腰斬を警戒したからだったのか)


私は得心した。


「となると、自分が人造超々能力者である事を思い出した現状のイェンは、もういつ何時でも万物腰斬を自在に発動できるのか?」


私は質問してみた。

もしそうなのだとしたら凄い事である。

腰部を有する存在であれば何者もイェンには抗う事は出来ない。


しかしイェンは首を左右に振る。


「いや、無理だ。記憶が戻った時、能力を使えるという感覚は無かった。使用可能と自覚できたのは……オウタの死を認識した時だった」


「それってつまり……」


「発動条件がある。今回の件や、火の三連急での件を考慮すると、その発動条件は、仲間の死、だ。大切な仲間が死ぬと、俺はオーバースペックが使えるようになるんだ」


(超強力ではあるが仲間の犠牲の上でしか成り立たない特殊能力……。仲間大事であるイェンにとっては、なんと因果な……)


私は悲運を感じずにはいられなかった。


「しかもこの能力、覚醒効果もしっかり出てきやがる……」


「覚醒効果?」


イェンは自身が受けた人体実験の更なる闇を語った。


万物腰斬のオーバースペックが発現しなかった彼に対して、研究者達はそれを誘発するための処置も試していたのである。


その処置というのが、あのメガネドラッグであった。


メガネドラッグのメカニズムをオーバースペックと紐付ける形でイェンの体に施したのである。


メガネのメカニズムによる覚醒効果で強烈な快楽がもたらされるので、肉体はそれを強く求める事となり、どうにかしてその効果を引きずり出そうと働く。

そうなれば紐付けられたオーバースペックも合わせて引き起こされる事になる……かもしれない、と研究者達は期待したのであった。


(そんな軽薄な可能性に賭けて未成年の体に覚醒材を埋め込むような真似をしただと……。超々能力開発計画の非人道性は底無しかよ……)


私は戦慄した。

量産型大魔王と遭遇した時とコスタニコを腰斬した時、私はイェンの様相に、メガネドラッグ使用者を見ているような既視感を覚えたが、その認識はそのまま正解だったのである。


「だとすると~、イェンが火の三連急時の大魔王に襲われた当時の記憶をほとんど失っていたのは精神的ショックからではなく~、メガネドラッグの副作用の一つである記憶障害が原因でしょうね~」


マクシアがそう見解を述べた。


「……はは……はははは……」


イェンが急に乾いた笑い声を上げた。


「何が無差別仲間収集家だ。何がノットレイシストだ。村の仲間をすべて殺された影響でその大切さを痛感して、仲間という概念の前では種族の違いなど取るに足らないという価値観を持っただなんて、とんだ嘘っぱちだった。俺がそうしたがるのは単なる禁断症状からだったんだ」


両手で頭を抱えるイェン。


「火の三連急で万物腰斬を使った時、その覚醒効果で脳が壊れてしまって、俺は超々能力中毒者〈オーバースペック・ジャンキー〉になってしまっていたんだ。記憶を失ってもジャンキーだから、大切に思える仲間を作り、その死で能力を発動させてまた快楽を味わいたいという禁断症状が無意識の内に出ていただけだったんだ。仲間にさえなってくれれば種族なんてどうでもよかったから無差別仲間収集家だったんだ。俺はノットレイシストなんかじゃなかったんだよ」


イェンは自嘲する。


「自分がおかしい、と感じる事は今まで何度もあったんだ。仲間と楽しく談笑している最中に突然「こいつ死んでくれないかな」という強い願望が脳裏をよぎるんだよ。あれは俺が禁断症状に見舞われているジャンキーだったからなんだな。納得だ、はははは……」


「……」


自らを軽蔑するイェンの姿が余りにも哀れだったので、私はフォローを試みた。


「イェンのノットレイシストの正体が禁断症状だったとしても、それは禁断症状の善用だ」


すべては善用する事により善となるという善用主義を以て、私はイェンを慰める。


「確かに禁断症状なんてものは基本ろくでもない悪だけど、イェンの禁断症状は善用されていたのだから善だ。間違いない。実際、シルカ平原では対メガネ共同戦線設立やダーティープラトン攻略講座人員募集で、その禁断症状によるノットレイシストのイェンの存在が大いに貢献したじゃないか。あれを善と言わずして一体何を善というのか」


私の言葉を受けたイェンは、私の顔をしばし見詰め、


「……そうかな……」


とだけ言った。


私のフォローは僅かながら効果があったようで、彼の表情は少しだけ救われたように和んでいた。


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