≪付録・破1≫
マクシアの治癒魔法でコスタニコは一命をとりとめた。
その後、マクシアは他種族パーティも全員治療した。
手加減されていた事もあって、コスタニコの手による死者は一人も出なかった。
治療を終えた後、他種族パーティのメンバーは次々と意識を取り戻し、
「あのクソメスモブはどうした!?」
と私達を問い詰めてきた。
当然、その話になるだろうとわかっていたので、私達は意識喪失状態のコスタニコを事前に隠しておき、詰問に対しては、
「急にどこかへ行ってしまった。同じ有無種というだけで、そもそも彼女と私達の間に面識はない。突然現れて、一方的に話しかけられただけ」
と惚けた。
他種族パーティは私達に治療してもらった手前、それ以上しつこく追求してくる事はなかった。
その後、他種族パーティは皆、
「この状況で、これ以上奥へ進むのは無理だ。一旦態勢を立て直す」
と地上へ戻っていった。
残った私達パーティ424は、意識を失ったままであるオウタとコスタニコが目を覚ますまでの間、イェンの昔話を聞く事になった。
毛布にくるまれ、地面に寝かされているオウタとコスタニコの側で、イェンは今まで誰にも話してこなかった自身の秘められた過去と、フラッシュバックを切っ掛けとして甦った量産型大魔王に襲われた火の三連急時の記憶について、訥々と語り始めた。
序論にて、各国では超能力開発計画〈スペック・プラン〉というものが立ち上げられており、超能力についての研究が行われている事を記載した。
だが、かつてイイトモン帝国では、この超能力開発計画を超える
【超々能力開発計画〈オーバースペック・プラン〉】
というものが存在していたのである。
この計画は、
「イイトモンを再び偉大な国に〈MIGA〉」
という理念から立ち上げられた。
第一次世界征服戦争の時、イイトモン帝国の魔法技術は他種族の少なくとも100年先をいっていた。
しかし件の権力闘争におけるジンコ派の報復行為によって、その技術格差は失われてしまった。
戦後、イイトモン帝国は再びアドバンテージを得るため、魔法技術を進歩させ、他種族を引き離そうと努めた。
だが、出来なかったのである。
なぜ出来なかったのか?
その疑問に対する答えは、以前にドラジドの理屈を否定する時に述べた、私の持論にある。
魔法技術において有無種が圧倒的に進歩していたのは、最も優れた最高の生物だからではなく、その領土が横長なため魔界に多く接していたので、魔物との接触が多発する事となり、よって技術革新が頻発したという地理的要因からである、と。
つまり地理的要因により、自然な流れで、長い歳月をかけて、100年以上の魔法技術格差が生じたのであった。
第一次世界征服戦争にてイイトモンより魔法技術が劣っていた事によって一方的に蹂躙される目に遭った各種族は、戦後当然、自種族の魔法技術の発展に尽力した。
意図的に魔界へ人員を送り込み、魔物との接触を増加させ、技術革新を推進していくようにしたのである。
地理的要因は飽くまで自然な流れの中で長い年月をかけて功を奏していくものであった。
ゆえに、人為的な努力が多分に介入する事態となってしまえば、それはもはや意味をなさなくなってしまうのである。
以上のような理屈により、イイトモンが再び魔法技術の進歩によるアドバンテージを得る事は出来なくなっていたのであった。
この現実に直面したイイトモンは、
「ならば他種族が絶対にやらない手段を以て、いかなる犠牲を払ってでもMIGAを実現すべし!」
と考え、超々能力開発計画を立案し、実行に移したのであった。
イイトモンの超々能力開発計画は、他国のスペック・プランを遥かに凌駕する内容であった。
無詠唱など目じゃない、もっと凄まじい特殊能力、すなわち、超々能力〈オーバースペック〉を人為的に生み出そうとしたのである。
その目的達成のために行われたのが、人体実験であった。
人体実験の対象とされた被検体は、実験の効果が最も期待できる魔力的に成長途中の16歳未満の未成年であった。
確実にトラブルの発生が見込まれたので、後腐れが無いよう、被検体には身内のいない孤児が利用された。
イェンがいたジクフリト村というのは、帝営児童養護施設の名を借りた超々能力開発計画のための実験場だったのである。
【人造超々能力者〈マンメイド・オーバースペッカー〉】誕生のために実施された人体実験の内容は極めて非人道的であった。
被検体の生命および人生が完全に度外視されていたのである。
実験を受けた者の中で生き残れるのは10人に1人であり、生き残った者の中で意識が戻るのは10人に1人であり、意識が戻った者の中で日常生活が送れるようになるのは10人に1人という有様であった。
そんな無道がジクフリト村では誰からも反発される事無く、粛々と行われていたのである。
MIGAという大義が非道を神聖化していたのであった。
人体実験において度外視されていたものは被検体の生命および人生以外にもう一つあった。
それはなんと実験自体の成功であった。
研究者達は誰も成否を問題にしていなかったのである。
実験はまだ初期段階であったので、
「このようなオーバースペックを実現させるための処置を人体に施せば、果たしてどのような影響が出るのか」
という、本番へ向けてのデータ収集が目的だったのである。
そのため、被検体に発現させようとしたオーバースペックの内容は、どれもこれも型破りであった。
そうした中でイェンに施されたオーバースペックは、
【万物腰斬[ばんぶつようざん]】
というものであった。
【腰あらばすべて斬る】
という奇抜な特殊能力だったのである。
内容だけでなく、防御不能・回避不能・効果範囲広大・射程距離長大、とその性能も破茶滅茶であった。
実験を受けたイェンに万物腰斬のオーバースペックが現れ出る事はなかった。
だがしかし、6年前の火の三連急の時、大魔王に目の前で仲間を皆殺しにされ、極限状態に追い込まれた事によって、そのオーバースペックが覚醒したのであった。
相手が量産型大魔王という人の形をした腰あるタイプであったため、万物腰斬によってこれを討ち取る事に成功したのである。




