≪付録・序7≫
その時であった。
フラッシュバックに苛まれ、両膝を地面に付き、俯いてしまっているイェンが、苦しそうな声でマクシアに話しかけたのである。
「……マクシア、教えてくれ。オウタは生体ユニットにされたって話だけど、まだ生きてはいるんだよな? あのケースの中から助け出せば、無事って事なんだよな?」
マクシアは防壁を維持しながら返答する。
「コスタニコと一緒に忍法の研究をしている時に確かめた事があるのです~。オウタが忍法を使用する時、彼の人体のどの部位が活動しているのかを~。オウタは小柄ですが、もちろんあの小さなケース内には収まりません~。ですから忍法に必要のない肉体の部位はすべて切除して、生命維持は魔法に任せて、パッケージングしたんでしょうね~。そうする事によって携帯性に優れたあのサイズにできたのでしょう~」
「……」
「忍法において脳は当然欠かせない部位ですが、そのすべてが必須という訳ではありません~。ですので必要最低限の状態にトリミングされてます~」
「……」
「ご存じかと思いますが、人体再生魔法で脳を復元しても、そこに記憶されていた情報までは戻ってきません~。必要最低限の状態に切り取られてしまったオウタの脳を再生させても、そこにはもうオウタ・ウエタという人物を構成していた情報は有りません~。それどころか人間として機能していくための情報すら無いでしょうね~」
「……ッ」
マクシアの説明を聞くにつれて、イェンの体調がどんどん悪くなっていく。
「なので、あのケースからオウタを取り出して、切除された部分をすべて再生させ、元の状態に戻したとしても、オウタ・ウエタの形をした肉塊が出来上がるだけです~」
「……ッぅ」
「という訳で結論を言うと、オウタはもう死んじゃってますね~」
「……ぁぁぁぁぁぁぁ」
イェンが頭を抱えて唸り出した。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
唸り声は大きくなっていき、叫びと化す。
俯いていたイェンの頭部が俄にガバッと勢いよく上がった。
イェンはこれまで一度も見せた事がない、快男児である彼には全く似つかわしくない表情を浮かべていた。
目がバッキバキで、狂喜の影が差した形相。
(また既視感!)
私はその顔付きに見覚えがあった。
シルカ平原でメガネをキメた者特有表情だったのである。
イェンは無造作に抜剣し、
「イャッハー!」
と意味不明な歓声を上げながら、その場でコスタニコ目掛けて剣を横薙ぎに振るった。
けれども距離が離れているので剣身は彼女の身に全く届かず、何も無い空間が斬られる。
無意味な行動であった。
が、次の刹那、ザッ!という音を立ててコスタニコの上半身が跳ね飛んだのである。
彼女の上体は鮮血を撒き散らしながらギュルルルルと高速横回転し、空中を舞う。
そしてドチャッと地面に墜落したのであった。
その下半身は何事も無かったかのように突っ立ったままでいる。
「!!? がっ!? ごほっ!? ゴボッ!?」
一体何が起こったのか理解できない、という表情で、コスタニコが吐血を繰り返しながら地べたで藻掻いている。
しかしすぐに動作が弱々しくなっていき、ピクピクと痙攣するだけになってしまった。
その時、上空から何かが落下してきた。
オウタデバイスである。
先ほどコスタニコの上躯が跳ね飛んだ拍子に腰から外れて、空高く飛び上がっていたのである。
落ちてきたオウタデバイスは地べたに激突し、その衝撃でケースが開いてしまった。
私は見たくもないグロいものを目にした……となるはずであったが、そうはならなかったのである。
ケースから飛び出したのは全身鈍色に変色した一糸まとわぬ姿の小さなオウタであった。
鈍色なのは石化しているからであり、小さくなっているのは縮小化しているからである。
オウタは五体満足の状態で、その目は閉じられており、眠っているようなポーズを取っていた。
(! これは!)
私は目を見張った。
マクシアが口にしたオウタデバイスに関する恐ろしい所見は間違っていたのである。
オウタは切り刻まれて処理されてなどおらず、石化と縮小化の魔法の合わせ技加工によって生体ユニット化されていたのであった。
「あ~、そっちのパターンだったんですね~」
マクシアが口を開く。
「じゃあ大丈夫ですね~。オウタは死んでません~。魔法が解ければ元の状態へと戻るので無事です~」
(よかった!)
私は安堵した。
だが直後、
「ああっ!」
私は思わず悲鳴を上げてしまった。
ケースからとび出したオウタが飛んで行った先には大石があり、彼はそれに衝突して首から下が粉々に砕けてしまったのである。




