≪付録・序3≫
「それで正当な王位継承者であるという君が、なぜここで急に他種族パーティを皆殺しにすると言い出すんだ?」
しんどそうなイェンに代わって、私がコスタニコに質問する。
「手始めさ、【ジェノサイド】のね」
「ジェノサイド……だと……」
私はコスタニコの答えに息を呑んだ。
「そう、ジェノサイド。ジェノサイドこそがドラジド様の真の御遺志なのだ。だから末裔である私が、その遺志を継ぎ、実現する」
ジェノサイドとは、特定の種を計画的に絶滅させる行為である。
すなわち、集団完全殺戮、であった。
「ジェノサイドがドラジドの遺志……。そんな話、歴史を研究してきた私ですら全く聞いた事がないぞ……」
驚きを隠せない私。
「ダイマ派の奴らは王位を簒奪するだけに飽き足らず、ドラジド様の御遺志まで自分達の都合のいいように書き換えてしまったのだ。ドラジド様が魔血演説にて宣した人間による世界平和、パクス・ヒューマニアは、有無種という人間が他種族を征服し支配する事で成し遂げられるのではない。他種族を征服して残らず殲滅し、ジスモード大陸を有無種という人間のみが暮らす地にする事によって達成されるのだ」
恐るべき計画を打ち明けるコスタニコ。
「私は忍法という、かの大魔王すら退ける絶大な力を手に入れた。この力を以て簒奪者から王位を取り戻し、そしてジェノサイドを遂行する」
「ま、待ってくれ」
私はコスタニコを制止する。
「君にジェノサイドなんて真似は無理だ。だって君は差別主義者を敵視するアンチレイシストなのだから。いくらドラジドの遺志を継ぐといっても、そんな君に他種族を根絶するだなんて、主義的にも心情的にも出来やしないはずだろ。ははっ……」
強張った笑みを浮かべる私。
「アンチレイシスト? この私が? アハハハハ」
コスタニコは然も馬鹿馬鹿しいといった風に笑った。
「メイスンはおそらく、いつぞやの他種族さらい調査クエストの時、私がエルフを虐待死させた男達を焼き殺した件で、私がアンチレイシストだと思ったのだろう。それは大間違いだ。あの時、私が男達を殺害したのは、レイシストの面汚しだったからだ。奴らは他種族という亜人に対して劣情を催した。誠のレイシストは、人に非ざる存在に性的欲求など抱いたりはしない。それは家畜に興奮してファックするよりも下劣だ。奴らはレイシストの皮を被った畜生にも劣る汚物だった。だから消毒しただけなのだよ」
「……」
私は再びコスタニコの事を見誤っていたのを思い知った。
彼女はアンチレイシストではなかった。
レイシストでもなかった。
過激にして苛烈な差別主義者
【極レイシスト[略称:極レ]】
だったのである。
(極レイシストであれば、ジェノサイドも何ら厭わない)
私はそう思わずにはいられなかった。
「……ジェノサイドなんて駄目だ。絶対に駄目……」
未だ苦しそうなイェンがそう抗議する。
「パクス・ヒューマニアだか何だか知らないが、世界平和が目的であるのならジェノサイドなんてせずとも実現できる。なぜなら俺達はみんなー」
「はい、そこまで」
コスタニコはイェンの話を遮ってしまう。
「種族の垣根を越えて分かり合えるから、とか言うのだろ? シルカの勇者という、あの不快な件を具体例に挙げて」
「……」
指摘された通りであったようで、イェンは言葉に窮してしまう。
「決してならないよ、世界平和には。ジェノサイドしない限り」
コスタニコはイェンの言い分を否定し、
「そう確信できる先例があるのだ。オウタから聞いた先例がね」
と、その根拠を語り始めた。
異世界〈地球〉には、我々で謂う所の種族というものは無い。
だが、社会的に作られた
【人種】
という同様の概念は存在しており、これによる対立を原因とした戦争が起こっている。
異世界は、民主主義という人民が権力を所有し行使するという政治システムが世界の主流となっており、文化的にはこちらの世界の300年先を行っている。
では300年先を行く異世界において、その人種に因る戦争で完結したものはあるのか?
答えは、無し、であった。
一時的に終結する事はあっても、火種は燻り続け、再燃するのである。
では、完結する見通しが立っている、人種に因る戦争はあるのか?
こちらも、無し、であった。
「異世界という先例が示すように、種族に因る戦争はどちらかが滅ぶまで終わらないのだ。ゆえに解決策はジェノサイドしかない。「分かり合える」という綺麗事を並べて、ジェノサイドを否定するのは問題の先送りに過ぎない。それは戦争を未来の世代に背負わせようという卑劣な行為だ」
コスタニコは陶然とした表情を浮かべ、
「ああ、流石は神君とまで呼ばれた方のお考えだ。かの御方には類まれなる先見の明がおありであったから、ジェノサイドという素晴らしい発想が可能であったのだ」
とドラジドを崇拝している。




