≪付録・序1≫
ここからは本文では記載できなかったラストダンジョンにおける冒険の続きを補足資料として明記していく事にする。
無頭無尾とクリボーの同時襲撃を退けた後、私達はその場で一泊した。
そして翌朝目覚めると、一大事が起こっていた。
オウタとコスタニコの二人が姿を消し、行方不明となっていたのである。
両名がいなければ忍法[ヌィンポウ]は使えず、大魔王を撃退する事ができない。
「ともかく二人を探そう」
リーダーのイェンがそう判断し、捜索を開始しようとしたその時であった。
遠方から激しい戦闘音が轟いてきたのである。
行方不明の二人かもしれないと思い、私達は音の聞こえる方へと向かった。
そうして現場に到着した私達が目にしたのは、二体の大魔王と他種族パーティによるバトルであった。
他種族パーティは、有無種以外の五種族がすべて揃っていた。
その顔ぶれには、シルカの勇者の姿も見受けられた。
他種族は私達有無種と違い、捨て駒などではなく、ちゃんとしたトップランカーの精鋭パーティを大穴に投入していたのである。
その他種族パーティと戦っている二体の大魔王の姿形は全く同じであった。
人型をしていて身長は190センチほど、銀色の全身タイツを着用しているような外観、顔のパーツは一切無くのっぺらぼう、胸のふくらみがあり筋肉質な女性のようなスタイルをしている。
【量産型大魔王】
であった。
火の三連急にて襲来した六体の大魔王うち三体が全く同じこの形態であった事から、量産型の名が付けられたのである。
そして何を隠そう、火の三連急時、我ら有無種のイイトモン帝国に来襲したのが、この量産型大魔王の一体だったのである。
戦況は量産型大魔王が圧倒していた。
他種族パーティのメンバーは既に幾人もやられており、地に倒れ伏してしまっている。
新たに駆けつけてきた私達に量産型大魔王は気づき、そののっぺら顔をこちらへと向けた。
すわ襲い掛かってくるかと思われたのだが、そうはならなかったのである。
二体の量産型大魔王はまるで警戒するように、しばらくこちらを見詰めた後、互いに頷き合い、それから撤退してしまったのであった。
「ほっ」
オウタとコスタニコ無しで大魔王と戦わずに済んだ事に私は胸を撫で下ろした。
「うぅ……」
不意に苦しそうな呻き声が聞こえた。
声を発したのはイェンであった。
彼は頽れるようにして両膝を地に付き、俯いてしまう。
私とマクシアはイェンの側へと駆け寄り、彼の具合を確かめた。
イェンは明らかな不調をきたしていた。
異常に発汗し、動悸を来たし、体が震えてしまっている。
「フラッシュバックかもですね~」
ヒーラーのマクシアがそう診断する。
フラッシュバックとは、過去に体験した感覚が突如として再現する現象の事である。
イェンは火の三連急時、量産型大魔王に暮らしていたジクフリト村を滅ぼされ、仲間を皆殺しにされている。
ゆえに量産型大魔王と遭遇した事が切っ掛けとなってフラッシュバックが起こり、当時の悲惨な体験を再び味わっているというのである。
(……それにしても似ているな)
私はイェンの容態について既視感を覚えていた。
その有様は、例のメガネドラッグの副作用に見舞われている者と酷似していたのである。
「……ああ、そうだ……俺は奴を知っている……俺は奴を見ている……」
フラッシュバックに苛まれているイェンがそう呻いた。
彼は精神的ショックにより量産型大魔王に襲われた時の記憶をほとんど失ってしまっていた。
それがフラッシュバックを引き金として、思い出してきているようである。
「……俺は奴に会っている……俺は奴と戦っている……」
イェンの述懐は続いていき、そして俄に、
「……俺は……奴を……討ち取っている……」
と、耳を疑う事を口走ったのであった。




