≪本論・ラストダンジョン1≫
イェンがS級冒犯にされてしまった理由は、レイドリーダーのホリエケンを斬り捨てたからであった。
しかし斬り捨てたのには正当性がある。
ホリエケンはその立場を利用してレイドパーティを私物化し、自己満のために戦場を無用に混乱させ、多大な人的被害をもたらし、そして最後までその姿勢を改めなかったからである。
ホリエケンの行動は、もはや国益を損なう悪事であり、彼を斬った事について、称賛まではされずともイェンが罪に問われる謂れは無いのであった。
だが、判決は有罪であり、しかもイェンの行為は大罪とされてしまった。
なぜ、このような事態になってしまったのか?
その理由は、上層部のお偉いさんの任命責任逃れ、であった。
任命責任とは、役職や地位に人を抜擢した者が、その人物の不祥事や失敗が発生した際に負う責任のことである。
ホリエケンは悪事を成した。
よって彼をレイドリーダーに任じたお偉いさんも責を負わなければならなかった。
けれども、そのお偉いさんは、
「アイツは真面目なんだ! 非常に真面目な男なんだ! あれほど真面目な男が、そんな悪事に手を染める訳が無いだろ!」
と言い張って全力で任命責任逃れをし、悪いのはホリエケンではなくイェンである、とゴリ押ししてしまったのである。
世も末であった。
もっとも、歴史家志望である私の観点から言わせてもらうと、世はずっと末であり、世が末じゃなかった時など、歴史上一度もないのではあるが……。
S級冒犯にされてしまったイェンは罰として【懲罰パーティ】を立ち上げ、リーダーとしてそれを統率するよう命じられた。
懲罰パーティとは、重罪を犯した冒険犯罪人で構成され、極めて危険なクエストに挑み、血と命を流す事によって、その罪の浄化を強いられる存在である。
身も蓋もない言い方をすれば、捨て駒、であった。
イェン率いる懲罰パーティが強制される事となった極めて危険なクエストは、このワイルドハントの最終目標である大魔王が潜むダンジョン、すなわちラストダンジョンでのファーストペンギンになる事であった。
ベストペンギニストにまで選ばれたパーティ・十傑集のリーダーであったという実績が、心ならずもこんなところで買われてしまったのである。
しかし、先にも触れたように十傑集がファーストペンギンとなれたのはイェン一人の力ではない。
錚々たるメンバーが揃っていたからである。
不埒な冒険犯罪人共を使って同じことをやれ、と言われても土台無理な話であった。
ファーストペンギンなどにはなれず、パーティは全滅し、死ぬだけである。
イェンの命運も尽きたかと思われた。
が、その時であった。
「俺もいるぜ!」
「お前だけに、いいカッコさせるかよ!」
「正義冒険者は、お前だけじゃないんだぜ!」
「コーホー」
これまでの冒険で友諠を深めた者達が、イェンのピンチを聞き付けて、駆けつけてくれたのである。
懲罰パーティは冒険犯罪人で構成されるものであるが、かといって、冒険犯罪人しか入れないという規定は無い。
なぜなら常識的に考えて、普通の冒険者が自ら志望して懲罰パーティに入ろうとする訳が無いので、そもそもそんな規定が設けられなかったのであった。
「みんな……」
集まってくれた者達の心意気にイェンは感動していた。
イェンは少数精鋭でラストダンジョンに挑む事にした。
選抜されたのは、オウタ・マクシア・コスタニコ、そして私という十傑集設立時の初期メンバーであった。
イェンはオウタを選ぶ時、苦渋の色を浮かべた。
「ラストダンジョンは間違いなく生還できる可能性が限りなく0に近い死地だ。そんな場所へ、一緒に来てもらって本当にいいのか? オウタの目的は飽く迄、妻子待つ元の世界へ戻る事だろ。俺がこんな事を言うのもなんだが、止めておくべきなんじゃないか?」
これに対してオウタは、
「死地だからといって逃げるだなんて、僕の漢[おとこ]が廃ります。だから共に行かないという選択肢はありません」
と答えた。それから、
「僕、この戦いが終わったら冒険者を引退します」
と宣言し、
「今までの冒険で貯蓄も大分できたので、引退して元の世界を帰る方法を探す事に専念したいと思います」
と空を見上げた。




