≪本論・十二人の怒れるヒーラー8≫
「鎮痛魔法の件に関しては、後日、マクシアがちゃんと解決策を用意してくれました。メガネドラッグです」
8番ヒーラーが捕捉する。
「前線に配給されていたメガネを、マクシアはV8野戦病院に持ち込み、もはや死にゆくしかない重傷者に配ったのです。この魔具のおかげで、重傷者達はヒーラーに負担を掛けず、自らの魔力だけで安らかな最期を迎える事ができるようになりました。その覚醒効果で痛みだけでなく、死への恐怖も取り去ってくれましたから、鎮痛魔法よりも、こちらの方がよかったのです」
この件については、裏でオウタが動いている。
善用主義者の彼が、
「このメガネにも善用できる場があります」
と言い、すべてのメガネを焼却してしまわず、一部を残して野戦病院のマクシアへ渡したのであった。
「他種族に対して治療行為を継続したのも人体実験が目的ではありません。これも救命数を伸ばすためです」
8番ヒーラーによるマクシア弁護は続いていく。
「V8野戦病院がそうであったように、他種族の野戦病院にも、同じ理由で、その種族以外の負傷者が担ぎ込まれていました。その中には当然、有無種も含まれています。ですのでマクシアは、他種族であってもそのまま治療を続行し、そういう対応をしている事を他種族へ伝え、「こちらでもそちらの者を助けるから、そちらでもこちらの者を助けろ」という、野戦病院間での暗黙の了解を成立させようとしたのです。そして、この試みは成功しました。他種族への治癒で魔力が消費されたため犠牲となった有無種は出てしまいましたが、それを上回る数の有無種が他種族の野戦病院で救命される事になったのです」
8番ヒーラーによる弁護は止まらない。
「マクシアが得体の知れない魔法で患者を肉塊に変えていた、というのも人体実験ではなく救命行為の一環です。あれは彼女のオリジナル要素を組み込んだ人体再生魔法を使用していたのです」
8番ヒーラーの話によると、そのオリジナル要素とは、変身魔法、との事であった。
言うまでもないが、魔法で、傷を治すのと欠損した人体を再生させるのとでは、どちらの方が消費魔力が大きいのかというと、段違いで欠損再生の方が大きい。
なぜなら傷は自然治癒力でも治るが、欠損は自然治癒力では再生しないので、それだけ世界の法則を書き換える必要があるからである。
そこでマクシアは、アカハライモリ、という両生類の能力に着目した。
アカハライモリの自然治癒力は、なんと欠損部位を再生してしまうのである。
その点に着目し、マクシアは患者の欠損箇所を部分的にアカハライモリへ変身させた上で治癒するという人体再生魔法を開発していたのであった。
この人体再生魔法の場合、欠損は自然治癒力では再生できない、が、アカハライモリファクターによって欠損は自然治癒力で再生できる、というパターンに切り替わるため世界の法則を書き換える必要が減り、再生のための消費魔力も減少する事になるのであった。
しかしこの人体再生魔法は、未承認で安全性が確認されていないため、マクシアは非常時に限り内密で実施するまでに止めていたのである。
「マクシアオリジナル人体再生魔法は、アカハライモリ化の影響により患部が一時的に赤と黒のまだら模様の肉塊へとなってしまうのです。その見た目の異様さから、人体実験をしているに違いないという悪評が立ってしまったのです」
8番ヒーラーは再び法廷全体を見回すように頭部を動かし、
「以上が被告・マクシアの真相となります」
そう弁明を締め括ったのであった。
こうしてマクシアが、その異常性と悪性によってV8野戦病院を私物化し多大な人的被害をもたらしたと決定づける証言のほとんどが、8番ヒーラーによって覆されたのである。




