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≪本論・十二人の怒れるヒーラー7≫

声を発したのは、まだ一言も証言していない8番ヒーラーであった。


声質からして年若い女性である。


「被告・マクシアはレスキューコントロールというものを行っていたのです」


「!」


先ほどオウタの言ったワードが、そのまま8番ヒーラーの口から飛び出したので、私は目を見張った。


8番ヒーラーはそのまま証言を続けていく。


「マクシアが責任者となる前のV8野戦病院では、治療優先順位の非効率が起こってしまっていました。ヒーラー達は、先着順、目の前にいる最も重症に見える患者、助けを求める声が大きい者、など思い思いの判断基準で治癒魔法を施す対象を決めていたのです。現場は重傷者だらけで、治癒魔法のための魔力が万年不足状態でしたので、そうした非効率な治療優先順位により、救える命を救えなくなるという最悪の結果を招いていたのです」


当時の現地の状態を詳しく説明する8番ヒーラー。


「マクシアがレスコンという、命に優先順位をつける、という行為をしてくれたおかげで、非効率による問題は解消されたのです。確かにレスコンによって、治療に多くの魔力を必要とする重傷者が見限られるという事が起きました。それは紛れもない事実です。ですがその分、救える命の数が増えたという事もまた事実なのです。具体的数値を挙げると、五分後に死ぬほどの重傷を負った患者を諦めた事により、その分の魔力で、一時間後に死ぬ重傷を負った患者5人を救うことができたのです」


8番ヒーラーは法廷全体を見回すように、頭巾を被っている頭部を左から右へと大きく振る。


「この場で敢えて言わさせて頂きます。マクシアが実施し始める前から、V8野戦病院に務めていたヒーラーは全員、レスコンの必要性を理解していたのです。だが、誰もそれを提言しようとはしなかった。それはなぜなのか?」


一呼吸おいてから、8番ヒーラーはその疑問の答えを重々しく口にした。


「非常に重い倫理的判断だからです。もっとシンプルな言い方をすれば、恐ろしかったのです。命に優先順位をつけ、人を見殺しにする事による、罪と心理的負担を負いたくなかったのです。けれどもー」


8番ヒーラーは手を伸ばし、完全拘束状態のマクシアを、誇るように指し示す。


「マクシアはやってくれた! レスコンを導入し、その罪と心理的負担を背負ってくれた! それだけではありません! 彼女は命に優先順位をつける作業を他のヒーラーには決してやらせませんでした! 自分一人で行ったのです! 罪と心理的負担を他者には負わせず、すべてその身に引き受けてくれたのです!」


(……これは弁護だ)


8番ヒーラーの話を聞きながら、私はそう思った。

彼女は証人なので、この裁判ではマクシアの有罪を立証していく検事の立場であるはずなのに、どういう訳か弁護人としての行動を起こしてくれたのであった。


「積極的安楽死を禁止し、死亡までの経過を記録させた件。これは確かに、どう損壊した人体はどのくらいの期間持ち堪えるのか、というデータ収集のための人体実験でした。しかし、それが目的ではないのです。手段なのです。目的は飽く迄、救命のためだったのです。個人保有魔力は休憩すれば時間の経過と共に回復していきます。ですので、重傷者の持ち堪えられる時間の情報を集めて、ヒーラー達の時間経過による魔力回復量と勘案し、出来るだけ多くの人命を救えるよう、データ分析していたのです」


8番ヒーラーは頭を抱え、苦悩に耐えるような仕草をする。


「この際、マクシアは鎮痛魔法の使用を許しませんでした。これは非情な判断です。ですが、これも鎮痛に使う魔力があるのなら治癒へ回せ、という意図からでした。そしてその判断は少なからず救命数の上昇に繋がりました」


(マクシアは善用主義者と化したのだ)


8番ヒーラーの話を聞いた私はそう考察した。


(すべては善用する事により善となるという考え方の下、彼女は己のサイコパス性を善用した。罪悪感が欠如しているので、それを善用し、レスコンによる罪と心理的負担を、すべてその身一つに引き受けた。良心が欠損しているので、それを善用し、死ぬまでの経過観察という指示が出せた。共感性が欠落しているので、それを善用し、鎮痛魔法使用禁止という判断を下せた。一般的に悪であると認識されるサイコパスを、ここまで善用してみせたマクシアは、もはや単なるサイコパスに分類すべきではない。彼女はー)


私はマクシアを差別化した。


(【ロウ・サイコパス〈秩序のサイコパス〉】だ!)


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