≪本論・十二人の怒れるヒーラー6≫
私は十傑集のパーティメンバーとしてマクシアの味方であった。
ゆえに十二人の怒れるヒーラー達の証言は、すべて言い掛かりである、と考えたかった。
しかし、出来なかった。
(だって私の知っている彼女なら……全部やりそうなんだもの……)
その時、私の隣に座っているオウタが徐に口を開いたのである。
「マクシアはダメージコントロール〈負傷管理〉を発展させた【レスキューコントロール[略称:レスコン〈救命管理〉]】をV8野戦病院に導入したんです」
「レスキューコントロール?」
私は尋ねる。
「僕の地元では既に採用されているシステムで【トリアージ】と呼称されています」
トリアージとは、多数の傷病者が発生した際、限られた医療資源の中で最も多くの命を救うため、傷病者の緊急度や重症度に応じて優先順位を決定していく事である。
「V8野戦病院では大量の負傷者が運び込まれ続け、ヒーラーの方々が治癒魔法に使う魔力が常に足りなかったと聞いています。つまり魔力という医療資源の枯渇です。その状況に対応していくためにマクシアは、パーティの総戦闘力維持を目的として治癒に優先順位をつけるというダメコンのシステムを進化させ、レスコンというトリアージと同様のものを考え出し、実践したんです」
「なるほど。死亡者数は十分の一に減少したのだから、レスコンは見事に功を奏したという訳だ」
「はい」
オウタは頷く。
私は安堵した。
「だったらもう、この裁判の行方は安泰だね。このまま有罪になるんじゃないかと気を揉んでいたけど、最後の自己弁護の時にマクシアの口からレスコンについて説明すれば罪に問われる事はない」
「そうなんですけど……」
オウタの表情が曇る。
「それが出来ないと思います」
「え? どうして?」
「マクシアが入廷してからずっと彼女の事を観察していたんですけど、あれは意識が朦朧としちゃっていますね」
「え!?」
「魔法をかけられたのか、薬を盛られたのか、とにかく今のマクシアがちゃんとした自己弁護を行うのは無理です」
「そんな……」
マクシアの状態を知り、それを踏まえて、これまでの裁判の内容を振り返って、私はピンと来た。
「これは見世物裁判だ」
見世物裁判とは、最初から判決が決まっている、司法の形を借りた大衆へのショーである。
茶番劇、とも言う。
「マクシアの功績を貶め、彼女を悪と断定し、あまつさえ抹殺しようとしている。しかし、なぜそんな真似をー」
私はハッとし、
「……ブルータス、お前だな」
と呟く。
帝立勇者聖女養成専門学校にてマクシアと対を成す人物であり、在学中、二人はバッチバチにやり合うライバル関係であったと聞き及んでいる。
その因縁にケリを付けようと、ブルータスが裏で糸を引き、この見世物裁判を演出したのである。
先ほどの十二人のヒーラーの証言において、マクシアを陥れるだけでなく、「ブルータスさんがいてくれたおかげで助かった」「マクシアが悪でブルータスさんが善」というワードをしれっと盛り込んでいる事からも、彼の関与とその思惑が透けて見える。
「過去の二人の間にどれほどの恨み辛みがあるのかは知らないが、こんな手段に出るとは。このままでは求刑通りにマクシアが処刑されてしまうぞ……」
傍聴人でしかない私やオウタには法廷における発言権が無いので、マクシアを弁護できない。
強引に弁護したとしても、その言葉は法廷にて認められないので、判決に何の影響も与えられないのである。
「安心してください、メイスン。我に秘策ありです。言葉に頼らないで無罪を勝ち取れる秘策が」
不意にオウタが自信有り気な様子でそう言った。
「!? まさか忍術[ヌィンジュツ]か? 法廷で使える忍術があるというのか?」
「いえ、忍術ではありません。うちの嫁さんからの入れ知恵で、アレオパゴス会議のフリュネ、というのがあるんです」
彼の話によるとアレオパゴス会議のフリュネとは、裁判にて有罪になりそうだった美女が裸を魅せたら無罪になった、という異世界〈地球〉の判例との事である。
(異世界の司法は大丈夫なのか……)
私は正気を疑った。
「いざとなったら僕が乗り込んでってマクシアを裸に引ん剝きます。彼女は美少女だから、アレオパゴス会議のフリュネ理論で無罪確定です」
オウタがヤバい事を言い出した、その時であった。
「お待ちください!」
凛とした声が突然、法廷内に響き渡ったのである。




