≪本論・十二人の怒れるヒーラー3≫
十二人の怒れるヒーラーによる証言が開始された。
口火を切ったのは3番ヒーラーであった。
声色からして年若い男性である。
朗々と張りのある大きな声で喋り始める。
「まず私から、なぜ被告・マクシアがV8野戦病院の責任者という重要なポストに就く事になったのか。その経緯を説明させて頂きます」
3番ヒーラーの話によると、ある時、V8野戦病院へ重傷者が運び込まれてきたのだが、現場のヒーラーの魔力が枯渇してしまっており、誰も治癒魔法を使用する事ができなかった。
この事態に直面した前責任者は、
「治せない」
と早々に諦めてしまったのである。
しかしマクシアは、その重傷者の処置に取り掛かり、
「「治せない」とはヒーラーの思案ではありません~。ヒーラーは「治す」ということ以外に思案はありませ~ん」
と前責任者の発言を否定したのであった。
この言葉を受けた前責任者は、
「ならば君がやりたまえ」
と、その権限をすべて彼女に丸投げしてしまったのである。
そうしてマクシアは責任者としてV8野戦病院を取り仕切る事になった、とのことであった。
「被告が責任者となってからV8野戦病院の死亡者数は十分の一にまで減りました。これは紛れもない事実であります。ですがこの事実には続きがあります」
3番ヒーラーは語気を強め、改めて言い直した。
「V8野戦病院の死亡者数は十分の一に減った。だが聞こえてくる苦痛の声は千倍になった」
続いて10番ヒーラーによる証言。
「責任者となった被告がまず行ったのは、命を見捨てるという非人道的行為でした。彼女が指定した患者だけに治癒魔法が使用され、救命されるようになったのです。力を尽くせば助かる重傷者や、声高に助けを求める患者であっても、彼女に指定されなければ、そのまま見殺しにされるようになってしまったのです。「俺の事はいいからコイツを助けてくれ! コイツは故郷に婚約者を残しているんだ!」と主張する患者もいましたが、彼女はそんな声も聞き入れようとしませんでした」
12番ヒーラーによる証言。
「被告から指定されず、もう助からない瀕死の重傷に苦しむ方々は「一思いに殺してくれ」って口々に積極的安楽死を望むんです。私、そういうのって話では聞いていたんですけど、絶対フィクションだと思っていました。だって人間て、何が何でも死にたくない、って生にしがみつくものじゃないですか。けど真実だったんです。私、積極的安楽死なんて反対の立場だったんですけど、いざ直面してみたら、そうしてあげるのが正しい事なんじゃないかって思えてしまって……うぅっ……」
嗚咽を漏らす12番ヒーラー。
「でも被告は私達に積極的安楽死を行う事を禁止しました。それどころか、死ぬまでの経過を克明に記録し続けろと命じてきたんです……うぅっ。……苦しむ患者さんの様子が余りにも見るに堪えないので、せめて鎮痛魔法だけでも使わせてもらおうとしたんですけど、彼女はそれすら許してくれませんでした……うぅっ……」
5番ヒーラーによる証言。
「当時のV8野戦病院は、まさしく生き地獄でした。あの場において楽になれたのは、事切れた方々と、生き地獄を主導する被告一人だけでした。……私、聞いてしまったんです。彼女の独り言を。……彼女はこう言ってました。「ここは死と苦痛の宝石箱ですね~」って」
5番ヒーラーの身体がガタガタと震え出す。
「宝石箱って、素敵なものがいっぱい詰まっている物の例えですよね!? それなのにどうしてあの生き地獄を宝石箱って表現できるんですか!? 一体どういう神経してるんですか!? 完全に真面じゃない!」
「私も被告のゾッとする独り言を聞いた事があります!」
7番ヒーラーが同調する。
「あの人、重傷者の治療をしている時、たまに「お肉が食べたくなりますね~」って言うんです! なんであんな状況下で食欲が湧くんですか! しかも食べたいのがよりにもよってお肉て!」
(……マクシアの怖い所が出ちゃってるな……)
私は険しい表情で唸った。




