≪本論・十二人の怒れるヒーラー1≫
臨時冒険裁判が実施された。
冒険裁判とは、冒険者の規律・秩序の維持のため、その罪を断罪する裁判である。
緊急案件のため本国には戻らず、現地、つまり魔界にて大型テントを設営し、それを簡易裁判所として行われる事もあり、その場合には臨時冒険裁判という名称になる。
冒険裁判でも通常の裁判同様、訴えられた被告人の利益を保護することを任務とする弁護人と、訴えた証人の証言や証拠に基づき被告人の有罪を立証し、最後に裁判長に適切な刑罰を求刑する検事がいる。
しかし、臨時冒険裁判の場合、魔界であるため弁護人・検事を準備できない事があり、その時には被告人が弁護人、証人が検事の役割を担うことがあり、今回はそのパターンであった。
訴えた証人は、シルカ平原攻略戦においてV8野戦病院(V8地点に設けられていた野戦病院である事から、このように呼称)に務めていた十二人のヒーラーであった。
訴えられた被告人は、V8野戦病院の責任者であったマクシア・ハンニバル・ボルフェスであった。
起訴内容は、マクシアがV8野戦病院を私物化し多大な人的被害をもたらしたため、S級冒険犯罪人とし、死刑を求刑するというものであった。
冒険犯罪人はS級・A級・B級・C級とランク付けされており、S級が最も重く、余程の事をしない限りS級として訴えられる事はないのである。
つまり、マクシアは余程の事を仕出かしたという事であった。
(何をしたんだマクシア……)
私は不安を感じた。
この臨時冒険裁判に、私とオウタは立ち会い、傍聴席に座っている。
イェンは止むを得ない事情にて不在である。
コスタニコは、忍術と魔法の合体に関する研究が山場を迎えているとの事で、
「…行けたら…行く…かも……」
と言っていたが、案の定来ない。
そうこうしている内に裁判は開廷された。
白いヒゲを蓄えた老練そうな裁判長が、まず証人であり検事でもある十二人のヒーラーを法廷内へと呼び入れた。
現れた十二人のヒーラーは一種異様な装いであった。
全員、没個性的な治癒士服に身を包んでいる。
そこまではいいのだが、頭部を完全に覆い隠す頭巾まで装着しているのであった。
証人に対して、隠蔽措置、が取られていたのである。
隠蔽措置とは、証人の正体素性を被告人からわからないようにするため隠す事である。
そうする理由は、被告人に正体素性を知られる事が証人にとって精神の平穏を著しく害される恐れがあるため・被告人からのプレッシャーによる恐怖や緊張で証言が乱れることを避け正確な供述を引き出すため、などが挙げられる。
つまり被告人がとんでもない凶悪犯の場合に行われる措置であった。
(ほんと何をしたんだマクシア……)
私の不安はさらに強まった。
隠蔽措置により十二人のヒーラーは本名では呼ばれず、1から12までの番号呼びをされていた。
変声魔法までは使用していなかったので、声からその性別とおおよその年代を判断する事ができた。
そして十二人のヒーラーは皆一様に怒っていた。
その足取り、挙動、発散している雰囲気、いずれからも憤りの情が感じられたのである。
十二人の怒れるヒーラー、であった。




