≪本論・シルカ平原攻略戦・結5≫
こうしてオウタの作戦は実施された。
実行者は彼自身であった。
トーチカ要塞線の端付近に掘られた塹壕内で、準備を整えるオウタを、私は傍で見守っていた。
当然、ハイパーゾーンの術を使用すると思っていたが、彼は、
「それには頼りません。この端っこであっても、死角から弾丸が飛来してきますからね。ハイパーゾーンを使ったところで無意味です」
と言った。
オウタの指摘した通り、要塞線の端であっても襲い来る火線は二方向からの十字砲火〈クロスファイア〉どころではなかった。
少なく見積もっても四方向からの
【米字砲火〈ライスファイア〉】
はあった。
「だから今回、頼りにするのはこれです」
オウタは手に握っていた物を私に見せてくれた。
それは、御守り、であった。
彼がこちらの世界に来た時、唯一手元に残されていた異世界からの所持品の御守りである。
「僕の地元に伝わる伝承なんですが、女性の陰毛はパワーの塊なのです。だから愛しい女性の陰毛を貰って御守りにするんです」
「……どういうこと?」
よくわからなかったので私は尋ねた。
「要するに、女の人にはタマが無いから弾が当たらなくなる、という事です」
「……」
私は理解するのに数秒の時間を要し、
「つまりダジャレってことか? ダジャレに自分の命を預けようってことなのか?」
と質問するとオウタは、フッと微笑し、
「これはうちの嫁さんのだから御利益エグいですよ。じゃ、そういうことで」
と塹壕から飛び出して行ってしまったのである。
かくして彼は成し遂げた。
トーチカにナパーム弾を叩き付け、火を放つ事に成功したのである。
当初、ナパームの炎はジワジワとじれったく燃えるだけで余り大きくならなかったが、外皮のベトンを焼き尽くして燃えやすい内部へ到達した途端、一挙に火勢が増した。
そして更に、生成途中であった爆弾やナパーム弾に引火して、誘爆を起こしたのである。
誘爆によって飛び散ったナパームの炎が周辺のトーチカへ降り注ぎ、そこで再び誘爆を起こして隣へ、という連鎖爆発延焼が次々と引き起こされ、想定した「ローソクのように」よりも遥かに早い速度でトーチカ要塞線は焼却されていったのである。
その光景を功労者であるオウタは悠然と眺めながら、
「朝のナパームの匂いは格別だ」
とコメントしていた。




