≪本論・シルカ平原攻略戦・結4≫
そうしてシルカ平原攻略戦は更に進捗していき、終に最終局面を迎えたのである。
掘り進めていた塹壕が目標であるトーチカ要塞線へ達したのであった。
達したといっても接触できる程までに接近したという事ではない。
トーチカから撃ち下ろされる椎の実弾の射角的に、塹壕でそこまで近づくのは不可能なのである。
ゆえに、最後の距離〈ラストマイル〉が残されていたのであった。
先にも述べたが、トーチカを破壊するためには、肉迫し、剣や槍などを突き立てて外皮のベトンを貫通させ、内部に火炎魔法を送り込んで焼き壊すという、肉弾戦が必要である。
そのためにはどうしても塹壕から飛び出して、ラストマイルを駆け抜けねばならない。
しかし地上のラストマイルは、完全な殲滅空間〈キルゾーン〉であった。
トーチカ要塞線の真っ只中であるため、ありとあらゆる方向から無数の椎の実弾が降り注いでくるのである。
ラストマイルを突っ切った者は、トーチカに取り付く頃にはズタズタに引き裂かれ、ボロ雑巾の有様となるであろう。
とてもではないが、武器でベトンを貫通云々、といった一連の作業を実行するのは不可能である。
仮に、オウタがハイパーゾーンの術を使い周囲をスーパースローで把握できる状態で挑んだとしても、視界内の弾は反応できるが、死角からの弾には対応できないので、やはり無理なのであった。
「うちの嫁さんなら余裕でいけるんですけどね。前に話した触覚改造の術で死角というものがありませんから」
オウタはこんな時でも嫁自慢に余念が無かった。
もはや残された手段は、大量人員の一斉投入による強行突破、だけであった。
的が増えれば一人当たりが食らう弾丸数が減るので、数で押せば誰かが成し遂げてくれるだろうという、膨大な人命喪失覚悟の上の決死作戦を敢行するしかないと思われた。
だが、そうはならなかった。
オウタが何とかしてくれたのである。
彼はバリツの術でトーチカをバリったのであった。
「ナパーム弾を使いましょう」
オウタはそう攻略法を提案した。
ナパーム弾でトーチカを焼いてしまおうというのである。
有効そうな手段と思えたが、疑問の声が上がった。
「果たしてナパームが不燃のベトンに有効なのだろうか? ナパームはトーチカが作り出した物なのだから、自身には通じないようにしてあると考えるのが妥当ではないか?」
というのである。
尤もな指摘であった。
これに対してオウタは、
「通じます。その証拠にトーチカはナパーム弾を通常の爆弾のように撃ち出してくる事を決してしません。顎足付にくっ付けて使用してくるのみです。そうするのは万が一ナパーム弾が誤爆して、その炎が我が身に降りかかってしまったら一大事だからです。この事実からして通じます」
と断言し、自らがダーティープラトンに対処する際、囚われ人を助け出すと共にナパーム弾も引っぺがして回収するという離れ技中の離れ技中の離れ技を遣って退け、一発確保したのであった。
攻略法が決まり、ナパーム弾も準備できたが、まだ重大な障害が残っていた。
ラストマイルである。
塹壕内からトーチカへナパーム弾を投げつけても、確実に空中で椎の実弾に迎撃されて届かない。
ゆえに誰かがナパーム弾を抱えてラストマイルを走り抜け、それをトーチカに叩き付けなければならないのである。
当初の、武器でベトンを貫通云々よりも作業工程が大幅に減り、ワンアクションで済むのだが、依然としてキルゾーンのラストマイルが最大の障害として立ちはだかったのである。
だが、この大問題もオウタが攻略法を見出してくれたのであった。
「端っこ攻めればいいんです」
と、彼は言った。
トーチカ要塞線の中央付近を攻めようとするから、ありとあらゆる方向より無数の弾丸を受ける事になるのである。
要塞線の端っこなら端であるがゆえに中央付近と比べて火線の数が減少し、肉迫し易くなるというのである。
オウタの案に対して、直ちに反論の声が上がった。
「それでは本来の目的を達成できない。シルカ平原を攻略する目的は、正規軍を運用するための大規模なルートの確保だ。端っこを破っただけでは、大規模ルートの確保にはならない。しかもトーチカ要塞線の大部分が残存するから危険なルートになってしまう」
この異議にオウタは、
「トーチカ要塞線はその名の通り、線、ですから、すべてが繋がり、連なっています。だから端っこを燃やせば、火を点けたローソクのように反対側まで延焼しますよ」
と答えたのである。




