≪本論・シルカ平原攻略戦・結2≫
私はこの事実を受けて、ある疑問を抱いた。
その疑問とは、
(ホリエケンという男の目的は一体何のか?)
であった。
自分が考えた命令を「上層部からの命令」としたのは、不条理な指示であっても上層部の威光を借りて、強引に冒険者達を従わせるためであると推察される。
しかし、そうまでして冒険者達に己の命令を実行させたが、その事がホリエケンにとって何の利益にもなっていないのである。
彼は国からシルカ平原攻略を任されたレイドリーダーなので、それを成功に導かなければ責を問われてしまう。
だというのに、自身の命令を原因としてリーダーへの不信感を発生させ、それによって冒険者達の戦闘ストレス反応をより酷くし、戦況を悪化させた。
すなわち自分で自分の首を絞めているのである、真面目に。
(単なる馬鹿野郎なだけかもしれないが……、気になる)
探求心ある私はホリエケンの本心を探るため、調査を開始した。
彼の出した命令を洗い直し、その周囲にいた者達に聞き込みを行い、歴史家志望としての論理的思考力と分析力を働かせた。
そして、ある証言を耳にした時、私は答えに辿り着いたのである。
その証言とは、野戦病院を前線の近くまで移動させた時、ホリエケンが独り言をつぶやいており、それをたまたま近くにいて耳にした冒険者からのもであった。
彼はこうつぶやいたそうである。
「これで目障りな負傷者を視界に入れないで済む」
と。
ホリエケンの目的は何なのか、という疑問に対して私が出した答えは、
「すべては自己満のため」
であった。
自己満とは自己満足の略であり、自分自身の言動に自分で満足する事である。
一方的な挨拶を強制したのは、自分の偉さを示し、自己満に浸るためであった。
最前線の塹壕内に冒険者を無駄に居続けさせようとしたのは、そこに有無種がいないと他種族に先を越されているような気がして自己満できなくなってしまうからであった。
不合理な命令を反抗的な者達だけに強いたのは、そういった輩は自己満の邪魔だからであった。
危険な前線に決して出てこなかったのは、己の身に何かあれば自己満している場合ではなくなってしまうからであった。
どれだけ犠牲者が出ても無頓着であったのは、自己満とは無関係だからであった。
周囲からの諫言に対して全く聞く耳を持たなかったのは、自己満にとって他者の意見など耳障りなだけだからであった。
私達のパーティ名を変更させようとしたのも、10人いないのに十傑集というのが、気持ち悪く感じてしまい、自己満的によくなかったからであった。
野戦病院の場所を変更させたのは、前線の負傷者が野戦病院へと運ばれる時にホリエケンのいるテントの側を通る事になるので、毎回それを目にするのが彼にとって不快であり、自己満の差し障りだからであった。
すなわちホリエケンという男はレイドリーダーの立場を利用して、この戦場に、自己満の自己満による自己満のための自己満王国を築こうとしていたのである、大真面目に。
私はこの答えを他の者達にも語り聞かせた。
すると皆、納得し、同意した。
「あいつはモチベ下男ってだけじゃなくて、自己満クソ野郎でもあったのか」
「くだらない奴ほど、くだらない事を言い、くだらない事するもんだ」
といった非難の声が次々と上がった。
イェンは、
「「真に恐れるべきは有能な敵ではなく有害な味方である」っていう昔の偉人の言葉通りだな」
とコメントし、オウタは、
「あの人は悪用主義者〈ハイダラー〉ですね」
と言い、
「悪用主義者とは善用主義者の対極に位置し、すべてを悪用し悪としてしまう人です。あの人は確かに真面目でした。真面目とは、目的に向かって一生懸命励み、いい加減な所がなく、真剣であるという事です。よって、真面目な人、といえば普通は善人と解釈できます。が、あの人は、悪しき自己満に向かって一生懸命励み、いい加減な所がなく、真剣だったのです。真面目を悪用し、悪としてしまったのです。【悪真面目】です」
と評した。




