≪本論・シルカ平原攻略戦・転6≫
ヒラバヤによる闇討ちを受けたオウタは、致命傷は避けたものの、浅からぬ傷を負ってしまった。
この時、私とイェンもその場にいたのだが、我々三人のみで200馬力の戦闘力を持つトップランカーを撃退できる見込みは非常に薄く、ピンチであった。
だがそこへ、思わぬ助けが入ったのである。
「何をしている!」
それは受講者の一人で、シールー・ルーシーという名の有紋種の女性であった。
颯爽と駆け付けた彼女はすぐに状況を察し、ヒラバヤを制止した。
「よすんだ。彼女は私達にダーティープラトンの攻略法を教授してくれている方だぞ。それがどれほど重要な存在かを理解できないのか?」
「知った事か! 俺は俺をイラつかせた奴を絶対に許さない! どんな事をしてでも俺の気の済むまで徹底的に潰す! 邪魔立てするならお前も八つ裂きだ!」
二人の有紋種はバトルへ突入してしまった。
ヒラバヤが剣士なのに対し、シールーは長柄武器を扱う長物士〈スピナー〉であった。
彼女の得物はハルバードであったが、アレンジが加えられていた。
通常のハルバードは槍・斧・槌の機能を備えているのだが、シールーのそれには鎖が付いており、突・斬・打、以外に、縛、までもが可能となっていたのである。
彼女はその特殊ハルバードを自在に振り回し、200馬力のヒラバヤ相手に一歩も退かなかった。
「ちぃッ!」
業を煮やしたヒラバヤが強引に突っ込んでいき、シールーとの鍔迫り合いに持ち込んだ。
武器と武器がぶつかり合う鍔迫り合いは、保有魔力量の多い方が勝つ勝負である。
なぜなら武器にかける斬撃魔法は、魔力を上乗せすればするほど斬れ味が増すので、鍔迫り合いにおいては投入できる魔力量が多い方が相手の武器を破壊する結果となり、勝利できるのであった。
ヒラバヤは己の200馬力の保有魔力に物を言わせてきたのである。
「ははァ! 俺の勝ちだ!」
自身の勝利を確信し、下卑た笑みを浮かべるヒラバヤ。
けれども結末は彼の思い描いた通りにはならなかったのである。
鍔迫り合い勝負はシールーが勝ってしまったのだ。
彼女はどうやって勝利したのかというと、単純に魔力量でヒラバヤを上回り、彼の剣を壊したのである。
なんとシールーは個人保有魔力量が素の状態で200馬力を超える途轍もない逸材だったのである。
「そんな馬鹿なぁ!」
剣を失った後のヒラバヤは、呆気なくシールーに打ち倒されてしまった。
戦闘終了後、イェンが六カ国不戦条約に則り、ヒラバヤの身柄の引き渡しを要求した。
「前回は不問だったが、今回は駄目だ」
大切な仲間の一人を傷つけられて彼は甚くご立腹であった。
「こういう輩は性懲りもなく、また襲ってくるに決まっている。本人も先ほどそう宣わっていたし。だからオウタの身の安全を確保するためにも、身柄を渡してもらう」
この要請を受けたシールーは、
「それはできない。引き渡してしまったら、凶行に及んでしまったこの者の命は無いだろうから」
と拒否した。
確かに彼女の言う通りであった。
「助けてくれたあなたには悪いが、何が何でもそいつをこちらに引き渡してもらう。もう一度言うが、これは仲間の命を守るために必要な措置なんだ」
イェンは譲ろうとしない。
するとシールーは私達へ向かって俄かに深々と頭を下げたのであった。
「すまない。どうかそれだけは許して欲しい」
レイシストにとって、虫ケラ同然である他種族に頭を下げるなど屈辱の極みである。
それを彼女は同胞のために行ったのだ。
しかもその同胞は彼女をも害そうとしたというのに。
「私が責任を持って、この者には二度と手出しさせないようにする。だから頼む」
屈辱に耐えて同胞を助けようとするシールーの姿勢にイェンは参ってしまい、
「う~ん、責任を持つって言われてもなあ……。保障にならないしなあ……」
困惑を隠せないでいる。
その時であった。
「いいんじゃないですか。彼女の言葉を信じて」
という言葉が飛び込んできたのである。
発言者は闇討ちされた当人であるオウタであった。
彼はシールーの言葉を信じてあげようというのである。
オウタは信じるに足る理由を、
「鼠径部魅せてる女性は信頼できます。なぜなら、うちの嫁さんもそうだから」
と告げたのであった。
有紋種は、その特徴である体表のタトゥーを誇示する癖[へき]があり、そのためコスチュームにおいて肌の露出が過多である。
男性は上半身裸が多く、女性はビキニアーマーが多い。
そうした中で肉感的な姿態をしているシールーが身に付けているのは、ビキニアーマーより更に攻めている
【ニプレスマエバリアーマー】
であった。
ニプレスマエバリアーマーがどのような様相なのかについては、その字面にすべての情報が詰まっている。
ニプレスマエバリアーマーは後ろからだと裸に見える。
シールーがなぜニプレスマエバリアーマーなのかというと、彼女には背中から臀部を通って太ももにまで達する大きなタトゥーがあったからであった。
通常のビキニアーマーだと、そのタトゥーの一部が隠れてしまうため、ニプレスマエバリアーマーにしているのである。
そしてニプレスマエバリアーマーは当然の如く前面も際どいため、鼠径部がガンガン視認できてしまうのであった。
被害者であるオウタからの提言であったため、イェンも蔑ろにする事は出来ず、
「わかった。じゃあここは、オウタの嫁さんの鼠径部に免じて」
と、ヒラバヤの身柄の引き渡しを断念したのであった。
「ありがとう、恩に着る」
感謝の念を表するシールー。
「という訳で、今からあなたは俺達の仲間だ」
イェンがその無差別仲間収集癖を発揮し、状況に便乗して、ここぞとばかりにシールーの事をちゃっかり仲間認定してしまった。
「え」
当然、彼女は戸惑ったが、ここで否定してしまえば、せっかくまとまった話が再燃してしまうかもしれなかったので、
「……う、うん。そうだね……」
苦笑いを浮かべながら同意していた。
その後、シールーは約束を厳守し、ヒラバヤがオウタの前に姿を現わす事はなかったのである。




