≪本論・シルカ平原攻略戦・起5≫
トーチカが、この二種類の魔物と組んで行ってきた連携攻撃の内容は以下である。
まずハイエーサーが塹壕内へと忍び込み、そこにいる人間を掻っ攫ってしまう。
掻っ攫った後、ハイエーサーは顎足付の胴体部に貼り付いてしまうのである。
そしてその顎足付は、ある物を所持している。
先に述べた通りトーチカは生成魔法を使用する事ができるのだが、かの魔物が作れるのは爆薬だけではないのである。
ナパーム、という対象物を焼き払うための焼夷剤も生成できるのであった。
顎足付は、このナパームが充填されたナパーム弾を、その大顎にくっ付けているのである。
ハイエーサーに拘束された人とナパーム弾を抱えた顎足付が、塹壕にいる我々目掛けて突っ込んでくる。
拘束された者が人間の盾となるため、我々は突撃してくる顎足付に攻撃を加える事ができない。
皆レイシストなので、囚われているのが自種族以外なら攻撃可能なのだが、ハイエーサーに取り込まれているため外見が不明となり判別困難なのである。
迎撃を受けずに突進を続けた顎足付は塹壕の上まで来ると、恐るべき作業に着手する。
それは顎足付が通常の虫と同様に、苦痛や死に対する恐怖心が無いため、出来る所業であった。
その大顎を勢いよく閉じてナパーム弾を噛み砕くと同時に、上下の顎の接触で火花を散らして、着火するという自殺行為をするのである。
結果、塹壕内を含め、辺り一帯は火の海となる。
顎足付も火達磨となる。
その胴体部に貼り付けられた人間も……。
人が生きたまま焼かれる姿が晒され、絶叫が轟き渡り、周囲にいる者達は戦慄させられる。
私などは、コスタニコの件で二度と見聞きしたくなかったあの惨状を、再び体験する羽目になったのである。
そうしてナパーム弾の炸裂後、事態はそれで終わらないのである。
悪夢のパレードへと続くのである。
顎足付は火達磨となっても外骨格のおかげですぐには死なず、しばらくの間そこかしこを狂ったように爆走し、まるで見せしめでもするように多くの者達へ、焼死していく人間の姿と声をお届けしていくのであった。
ナパームで焼かれていく人間を助ける術はない。
ナパームの火は、別名・こびり付く炎、とも呼ばれており、例え水をかけても消火する事ができないのである。
唯一できる処置は、火がついてしまった部位を切除する事である。
ゆえにナパームの火を全身に浴びてしまったなら、その対処も出来ないので、もはや成す術は無いのであった。
ナパーム弾が着火される前に、囚われた人間を救出する事も不可能であった。
助け出すためにはまず顎足付に接近しなければならないのだが、先にも触れたように、爆走時のその歩脚は高速回転する粉砕器と化しており、近づくものは皆、粉々にされてしまうのである。
どうにか歩脚を避ける事に成功し、顎足付の胴体部に取り付けたとしても、すぐさま顎足付は大顎を閉じてナパーム弾を起爆させ、助けに来た者を巻き添えにしてしまうのであった。
以上のように、救出は絶対不可能なのである。
我々は、この悪魔の如き連携攻撃を
【ダーティープラトン〈下劣なる合体技〉】
と呼称した。
仲間を密かに拉致していくのが下劣である。
拉致した者を人間の盾にするのが下劣である。
助けに行った者を巻き込んで殺そうとし、救出不可能なのが下劣である。
仲間が焼け死んでいく有様を見せびらかすのが下劣である。
ダーティープラトンは、まさに下劣の極みであった。
塹壕戦で、ただでさえ摩耗していた我々前線の冒険者達の精神は、ダーティープラトンによってトドメを刺されてしまった。
その結果、前線の多くの者達に
【戦闘ストレス反応】
が出てしまったのである。
戦闘ストレス反応とは、激烈な戦いや極限の恐怖体験により、心理的・身体的な疾患を発症してしまう事である。
具体的な症状は、自失・倦怠感・食欲不振・集中力低下、であった。
こうした戦闘ストレス反応の影響により、前線の冒険者達の戦意は大幅に低下してしまったのである。
そして戦意低下によって塹壕を掘り進める作業も遅々として進捗しなくなり、シルカ平原攻略戦は完全に停滞してしまったのであった。




