≪本論・十傑集の躍進8≫
オウタが三人の強敵を仕留めるのに使ったのは
【ミラクルパンチ】
という技であった。
ミラクルパンチ自体は忍術ではなく、二つの忍術を組み合わせる事によって実現可能となる必殺技であった。
複数の超絶技巧を、超至難なタイミングで、超短時間の内に並列連鎖させる事により、超破壊力のパンチを放つ、というのがミラクルパンチであった。
この超高難易度の技を成功させる二つの忍術とは以下である。
一つ目は、ハイパーゾーンの術。
ハイパーゾーンの術とは、以前に言及したゾーンの術の進化版である。
超集中状態を越えた超々集中状態となり、周囲がスローよりも更に遅い、スーパースローとなって把握できるのである。
その上、ハイパーゾーンの術を使用すると、信じられない事だが、脳波、が受信できるようになってしまうのである。
脳ある生物は何かしらの言行を起こそうとした瞬間、その情報を外部へ無線で発信する仕組みになっており、それが脳波である。
脳波は肉体が実際にその言行を反映するより先に出るので、それを受信できるハイパーゾーン中の者は、対象の未来の言行を把握できてしまうのであった。
二つ目はバリツの術。
以前に説明したように、相手を解明するのがバリツの術であるのだが、これを自身へと向けるのである。
すると何が起こるのかというと、三人称視点、となるのである。
つまり、第三者の視点で己が身を客観的に見る事ができるようになるのであった。
オウタはこの二つの忍術を合わせる事により、自分の頭の中にあるミラクルパンチの成功イメージモーションを未来動作として認識し、それをスーパースローの中、三人称視点で確認しながら、実際の肉体をトレースするように稼働させる事が可能となったのである。
結果、彼は超高難易度の技を成就させるための超精密兵器と化し、ミラクルパンチを放つ事ができたのであった。
ミラクルパンチの凄まじさを一言で表現してしまうと、
影を置き去りにした
であった。
凄まじ過ぎて、影が付いていけないのである。
一発貰えば再起不能の破壊力であった。
ミラクルパンチには凄絶な威力だけでなく、奇襲効果もあった。
放つ時の最初の構えが、ポケットに手を突っ込んだ棒立ち状態なのである。
これにはれっきとした理由があり、ミラクルパンチに組み込まれている超絶技巧の内の一つで
【ポケット居合】
という異世界〈地球〉に伝わる技なのであった。
抜刀の瞬間に最速が完成する居合の原理を、手を刀、ポケットを鞘、とする事により適用させているのである。
こちらの世界には無い技であり、それを想像する事も困難である。
ゆえに、ポケットに手を突っ込んだ棒立ち状態は、コトゥーゲとキューセンドルフの目には不遜な態度を示す事によるオウタの挑発行為であると映ってしまった。
超破壊力のパンチが来る事など予測する事ができず、二人は苛立ちに身を任せて無用心に近づいてしまい、ミラクルパンチの餌食となったのである。
ただファルケンだけが持ち前の勘の鋭さで、
(何かあるッ!)
と察知はしたのだが、ミラクルパンチが凄まじ過ぎて、結局、直撃してしまったのであった。
ここで注意しなければならないのは、オウタが勝てたのは、純粋に実力で三人を上回っていたからではないという事である。
もし三人がその戦闘力を存分に駆使できる戦況となっていたら、オウタは敗北を喫していたであろう。
彼の勝利は飽くまで、作戦勝ち、なのであった。
ミラクルパンチとは、予備知識なしでは対応不可能な攻撃、すなわち、初見殺し、である。
そして一撃必殺の威力を持っている。
つまり、初見殺し+一撃必殺、で
【初撃必殺】
を成立させているのであった。
従ってミラクルパンチによる初撃必殺という作戦により、オウタは三人の猛者に勝利を収める事ができたのである。




