≪本論・十傑集の黎明4≫
コスタニコについては、もう一つ特筆すべき事がある。
彼女はイェンの否差別主義に同調して、自らパーティに志願してきた。
ならばコスタニコも否差別主義者〈ノットレイシスト〉となるはずである。
だというのに、イェンが無差別仲間収集癖を出して、そのノットレイシストっぷりを披露しても、彼女は全くの無反応なのであった。
同じノットレイシストなのだから、大人しい性格である事を差し引いても、何かしらの形で賛同の意を示すべきであるはずなのに。
また私が、
「どうして否差別主義にシンパシーを覚えるようになったの?」
とコスタニコに質問してみた時も、
「…素敵な…考え方だなって…思ったから……」
という実に薄っぺらな答えが返ってきただけであった。
それで私は判断した。
(コスタニコはノットレイシストではない。確固たる持論がある私ですら洗脳教育の呪縛から逃れきれずに未熟否差別主義者止まりなのに、「素敵な考えだから」という理由だけでノットレイシストになれる訳が無い。おそらく彼女は、確固たる主義主張もなく珍しいものへ俄に傾倒するミーハー的な存在なだけだ)
と。
だが、それが大間違いである事を、私は後に思い知ることとなる。
冒険者ギルドにて斡旋される各種クエストは、主として魔物狩りであるが、それ以外の内容も無論ある。
どのクエストを受注するかはリーダーのイェンが決めているが、パーティメンバーが希望を出す事もできる。
コスタニコは内気なので、クエストに関して、一度も己の希望を口にした事は無かった。
しかし、ある日突然、
「…リーダー…これを…やりたいんだけど……」
と言ってきたのである。
それは、他種族さらい調査、というクエストであった。
帝国同士の国境は警備が厳しいので、手薄な魔界から他国へ侵入し、他種族をさらってきている反社がいるようなので、調べて、可能であれば逮捕を、という内容のクエストであった。
レイシスト国家において、他種族などどうなろうが知った事ではない。
なのに、どうしてこのようなクエストが出ているのか。
それは、六カ国不戦条約の存在である。
攻撃行為を禁止した六カ国不戦条約がある手前、他種族さらい、という、見つかれば確実に攻撃を誘発する事になる所業を放置しておくことは出来なかったのである。
ただ、
「何もしないのはマズいので、とりあえず体裁だけは取り繕っておこう」
という程度の意欲であったため、報酬は低かった。
そして、冒険者達は皆レイシストなので、
「人間じゃない他種族なんて、別にさらわれたっていいだろ。興味ないね」
と、誰も関心を示さず、そのクエストは長期間放置されたまま塩漬け状態となっていたのである。
それをコスタニコが目に留め、持ってきたのであった。
「このクエストをやりたい理由は、やっぱり一身上の都合なのかね?」
イェンがそう訊ねると、コスタニコは、
「…え? …あ、はい……」
と肯定した。
「ならば是非も無し」
こうして十傑集は、他種族さらい調査クエストに取り組む事になったのである。
捜査は進み、他種族さらいの犯人達のアジトが、とある屋敷である事を突き止めた私達は、早速そこへ乗り込んだ。
しかし時すでに遅し。
犯人達は逃げ去った後だったのである。
私達は犯人達につながる手がかりを探すため、分散し、手分けして屋敷内を調査する事にした。
その時、私はコスタニコの後に付いていっていた。
彼女は地下にあった一室へと入った。
私も後に続いた。
そして、それを目にしたのである。
広い部屋であった。
そこには9人の中年男達がいた。
彼らは皆、裸にガウンを羽織っているだけでの格好であった。
中年男達はいずれも、脂ぎっていたり、肥満し過ぎだったり、ハゲ散らかしていたり、清潔感が欠けていたりと、汚いオッサンの見本市のようなラインナップであった。
彼らはタバコをくゆらしたり、酒を飲んだり、ソファーでくつろいだりと、思い思いに過ごしていた。
コスタニコが室内に入ってきたのに気づいた一人の中年男が声を上げた。
「おっと、お出ましか。勘違いするなよ。ワシらは犯人じゃない。ワシらは単なる客だからな」
犯人達は、この屋敷をアジトにするだけでなく、さらってきた他種族に性的サービスをさせ、金を稼ぐための場としても使用していたのである。
部屋の中央には一人の有耳種が全裸で、天井から吊り下げられていた。
力無くグッタリと項垂れ、打ち捨てられた操り人形のようになっている。
年の頃はまだ10歳にも満たないくらい。
性別は、男の子であった。
肌の色が変色しており、その瞳に光は無く、濁っていた。
死亡している。
男の子の死因は、その有様を見れば明白であった。
性的虐待をされ、いや、性的虐待の限りを尽くされたからである。
「わかっているだろうが一応言っておくぞ。ワシらはエルフという下等生物を買って、最後までキッチリ遊び尽くしただけだからな。罪に問われる事は何もしておらん。だからワシらを逮捕など出来んからな」
中年男の一人が、悠々たる面持ちで、そう宣わっている。
「さて皆さん、お愉しみ後の感想を言い合う語らいも、もう十分ですし。そろそろ解散しましょうか」
「そうですな」
「次も絶対に呼んでくださいよ」
「ウハハハッ、わかっておるわ」
「お愉しみ中のワシらは無敵ですな、ハハハッ」
談笑しながら帰ろうとする中年男達。
その時であった。
コスタニコが徐に口を開いたのである。
「私のパーティメンバーの地元の格言に、こういうのがある」
それは、いつものボソボソとしたものとは異なる朗々とした口調であった。
そして彼女は、あたかも宣言でもするようにして、言い放ったのである。
「汚物は消毒だ」
コスタニコは魔法で熱線を迸らせた。
熱線を浴びた一人の中年男性が一瞬で火達磨と化す。
火達磨となった汚いオッサンが、汚いオッサンらしい汚い悲鳴を上げながら室内を走り回った。
コスタニコは中年男達に次々と熱線を浴びせかけ、駆け回る火達磨の数を増やしていった。
部屋の中は阿鼻叫喚の様相を呈する。
やがて中年男性達は焼死し、床に遺体が続々と転がっていく。
皮膚と筋肉が焼けて引きつった影響で、焼死体は一様に同じポーズを取っていた。
それを見た私は、
(まるでゴキブリの群れに殺虫剤をぶっかけた後みたいな光景だ)
と感じてしまった。
「貴様ッ! 一体どういうつもりだ! こんな真似をして、ただで済むとは思うなよ!」
生き残った最後の中年男が怒声を張り上げる。
コスタニコがその男の方へと向き直った。
彼女の顔はストレートロングヘアによって覆われ、ゼンカクレ状態になっているのが常なのだが、この時は、前髪と前髪の隙間からその表情を垣間見る事が出来た。
コスタニコの眼差しは冷酷に燃えていた。
怒りと殺意が漲ってしまっている。
睨まれた中年男性は震え上がってしまい、両膝を付いて命乞いを始める。
「頼む! 殺さないでくれ! 命だけは! 何でもする! 何でもするから助けてくれ! 何でもするからぁッ!」
何でもするする言う男性に対してコスタニコは、
「ならば死ね。さもなくば死ね」
と返答し、漏れなく焼き殺してしまったのであった。
そうして殺戮劇が終わった後、騒ぎを耳にしたイェンが駆け付けてきた。
室内に広がる惨状を目の当たりにした彼は、
「殺してしまったのか?」
と問うた。
するとコスタニコは、いつものボソボソとして調子で、
「…殺さない理由が無かった……」
と答えたのである。
こうして私は思い知ったのであった。
確かにコスタニコは差別主義者を否定するノットレイシストではなかった。
それどころか、彼女は差別主義者を敵視する
【反差別主義者〈アンチレイシスト〉】
だったのである。




