≪本論・十傑集の黎明1≫
オウタが持たされていた件のガイドブックには、
異世界〈地球〉から来た人間である事は秘密にしなければならない。
また、異世界人としての特殊能力があるようなら、それも秘密にしなければならない。
もし公にしたなら、国家からその身命を狙われる事となる。
よって絶対に秘密にしなければならない。
という注意事項が記載されていた。
確かにその通りであった。
異世界人というだけで、研究材料として生体解剖する価値がある。
さらに忍者[ヌィンジャ]という、無詠唱で魔法的なものである忍術[ヌィンジュツ]を操れる、超能力者〈スペッカー〉と定義できる存在ともなれば、尚の事、研究材料として生体解剖する価値がある。
冒険が始まり、魔界へと足を踏み入れ、魔物と戦闘をするようになると、当のオウタはどうしたか?
ガイドブックの注意事項に従い、その能力を隠したのか?
否である。
彼は忍術を駆使し、忍者としての実力を遺憾なく発揮したのであった。
魔物との戦闘は命懸けである。
下手に実力を出し渋りすれば仲間の身を危険に晒すことになるので、殊勝な人柄であるオウタは、それを良しとしなかったのである。
ならば忍術について仲間に明かしたのかというと、そういう訳でもなく、彼は以下のように説明した。
「一身上の都合により、僕は魔力がありませんが肉体強化は自分で出来ます。ですので、武具の強化だけお願いします」
これを受けたリーダーのイェンは、
「一身上の都合なら是非も無し」
と、その快男児振りを発揮して承諾し、自身はもちろん、他のパーティメンバーにも、
「オウタの事情を詮索しないように」
と通達したのである。
ではどうやって、私などのメンバーが忍者や異世界について知ったのかというと、冒険を続けていく内に、
(この人は信頼でき、元の世界に帰るための力になってくれる)
とオウタが見定めた人にだけ、彼の方から秘密を打ち明けてくれたのであった。
戦闘に参加する冒険者のジョブは前衛職と後衛職に分かれている。
魔物と直接刃を交えるのが前衛職、その後方で前衛の掩護をメインとして戦うのが後衛職であった。
剣士〈ソーダー〉のイェンは前衛、治癒士〈ヒーラー〉のマクシアと火力支援士〈ファイエル〉のコスタニコは後衛である。
そして忍者のオウタは前衛であった。
彼は極めて優秀な前衛であった。
例のしなやか過ぎる動きで魔物からの攻撃のほとんどを回避してしまうのである。
しかも複数体を相手取っても対応し、敵の攻撃の大部分を引き受けて処理してくれるため、他のメンバーは余力を持って戦う事ができるのであった。
オウタの回避力が極めて高いのは忍術のおかげであった。
先にも触れたが、忍術は主として人体に関係する内容に絞られている。
ゆえに、研究のベクトルが、そうした分野へと集中しており【特異化】しているのであった。
そのため魔法の肉体強化は強化率が一定なのだが、対して忍術の肉体強化は個体差があり、オウタのそれは魔法での強化率を上回っていたのである。
加えて彼は、ゾーンの術、という忍術が使えた。
ゾーンとは超集中状態の事である。
この状態になると意識が研ぎ澄まされ、周囲がスローになって把握できるようになるのである。
ゆえにゾーンは戦闘において非常に有用である。
が、意図して入れるものではなく、様々な要因が絡み合って無意識に発動するものなのである。
と、ここまでが、我々の世界におけるゾーンというものに対する認識であった。
しかし、人体に関係する内容への研究に注力している異世界の忍術は、ここから更に先へと進んでいたのである。
ゾーンへと到るメカニズムを解明し、意識的にそれを発動できる忍術・ゾーンの術の開発に成功したのであった。
魔法より優れた肉体強化とゾーン、この二つの忍術によってオウタは鬼のような回避能力を実現しているのである。
「これはうちの嫁さんが使う忍術なんですけど」
オウタの奥方も忍者だそうで、彼は嫁自慢がてらに他の忍術についても話してくれた。
触覚改造の術。
全身の皮膚の触覚に、視覚と聴覚の感覚も付与し、皮膚で見聞できるようにする事によって上下左右360度全方位を把握し、完全に死角を無くす忍術。
後の避。
敵の攻撃が自身の身体に命中しても、その後で回避を成立させ、ノーダメージで済ましてしまう忍術。
環境効果の術。
周囲の状態に適合した性質を持っていれば、己の肉体に様々な特典を得る事ができる忍術。
どの忍術も魔法では類するものが無い、特異なものであった。




