≪本論・パーティの結成3≫
続いて私達はヒーラーを探す事にした。
ヒーラーの存在は冒険において極めて重要で、その腕次第でパーティの魔界からの生還率は格段に変わってくる。
早速、冒険者ギルドへ相談しに行こうとしたのだが、オウタが待ったをかけた。
「どうせなら一番良いのを直接狙いに行きましょう」
と彼は言い出したのであった。
オウタの言う、一番良いの、とはマクシアの事であった。
「トップランカーから勧誘のことごとくを拒絶している彼女を、俺らペーペーのパーティが一体どうやって落とすっていうんだ?」
当然の疑問を呈するイェンにオウタは、
「僕の地元にこういう諺があります。【押して駄目なら引けるところまで引いてみろ】と」
彼は自分が異世界人である事を私達に明かす前、その話題に触れる時、地球を、地元、と表現していた。
そして明かした後も、そのまま地元という表現を使い続けた。
「【ある方法で失敗した場合は真逆の方法を試してみろ、ただし中途半端な真似はするな】という意味の諺です。マクシア嬢はトップランカーという好条件を断っています。ならばその真逆で、超劣悪条件で誘ってみればいいのです。我に策ありです」
そうしてオウタの策が実施されたのである。
ある日、マクシアが街中の道を一人で歩いていた。
その真向いからイェンとオウタがやって来る。
双方は接近していき、道の真ん中で互いに相手を避けようとする。
すると突然、オウタが、
「ぐふあァっ!」
と声を上げて派手に転倒した。
「どうしたオウタっ!」
駆け寄るイェン。
「この女にぶちかまされました!」
オウタはマクシアを糾弾するように指差す。
彼女はポカンとしている。
「あの~、当たっていませんよ~。あなたが一人で急に倒れられたんですよ~」
「当たってんだよ! あんたの吐いた息がなァ!」
吐息をぶつけられたと無茶苦茶な主張するオウタ。
完全なアヤつけである。
「よく見ろよ。ここにくっきりと痕が残ってんだろうが」
オウタが自身の肩の辺りを指し示すが、もちろんそこに痕跡らしきものは何も見当たらない。
「お~痛てて。これは完全に骨イッてんな」
肩を抑えながらゆっくりと立ち上がるオウタ。
「姉ちゃん、この落とし前はどうつけてくれんだよ? ああん?」
マクシアに詰問するイェン。
イェンとオウタの二人はいつもとは別人のように、とてもオラついている。
「私、ヒーラーなので骨が折れているようなら治しますよ~」
「魔法で身体の骨は治っても、心の骨は治らんのじゃ!」
「え~心の骨て~」
「ここは一つ、誠意を見せてもらいましょか」
「金銭の要求ですか~」
「金銭取ったら恐喝罪になっちゃうでしょうが!」
「ではどうしろと~」
困惑するマクシア。
「おや? よく見ればあんた、帝立勇者聖女養成専門学校成績最優秀者のマクシア・ハンニバル・ボルフェスじゃないか」
「ええ~まあ~、よくご存じで~」
「なにぃ! 成績最優秀者様の分際で舗装された道路を歩くとは生意気だ!」
イェンがマクシアに詰め寄ろうとする。
それを手で抑えるオウタ。
彼は態度を急に軟化させ、
「いや~、うちの嫁さんがあんたの大ファンでね」
という、謎の親近感アピールをした後、
「という訳で、この件に対する誠意を見せるという事で、僕達のパーティに加入してもらいましょうか」
と勧誘したのであった。
以上がオウタの策であった。
当たり屋である。
完全な当たり屋である。
それも極めて悪質な当たり屋であった。
こんな真似をしたなら相手をブチギレさせるだけで、仲間になってくれる訳が無い。
だがしかし、マクシアはなんと、
「わかりました~。じゃあ入ります~」
と了承してしまったのである。
先にも触れたが、彼女がトップランカーからの誘いを断っていたのは、自分のようなサイコパス女が加入するとパーティに多大な迷惑をかけてしまうから、という理由であった。
そんな折りに、酷い当たり屋を仕掛けてくるタチの悪いパーティに誘われたのである。
(この人達なら、どれだけ迷惑をかけてしまっても問題ないですね~。だって、ろくでもない輩[やから]ですから~)
奇しくもマクシアにとっては渡りに船であったため、彼女は仲間入りを決めたのであった。
オウタの策は物の見事に嵌まったのである。
押して駄目なら引けるところまで引いてみろ、という諺を参考にしたとはいえ、どうしてこんな奇抜な策を思い付く事ができたのか。
私には無い発想である。
探求心溢れる私は強い興味を持ってしまい、この件についてオウタに質問してみた。
すると彼は、
「僕、うちの嫁さんの影響で【善用主義者〈エンダーイヤー〉】なんですよ」
と答えたのである。
善用主義者とは、
【天地万物に善悪無し。ゆえに、すべては善用する事により善となる】
という【善用主義】の考え方をする者を指す言葉である。
「善用主義では、悪ですら善用すれば善となる、と考えます。その観点から、当たり屋という悪行を善用してみた訳です」
「なるほど……」
善用主義、とても面白い思想である。
が、
(今回のは善用になっているのか? マクシアからしてみれば、シンプルに当たり屋の被害に遭っただけだし)
という疑問を私は持ったが、それを指摘する事まではしなかった。




