≪本論・パーティの結成1≫
物語は、私の冒険への旅立ちから開始する。
私にはかねてよりフィールドワークとして冒険に出る計画があった。
しかしそれは大学を卒業してから実行に移す予定であった。
だが諸事情あって、私は苦学生へと身をやつす事となり、自身で学費と生活費を稼がなければならなくなってしまった。
そのため、計画を前倒しして、フィールドワーク兼金銭稼ぎとして冒険に出る運びとなったのである。
運搬士〈ポーター〉となった私は、冒険者ギルド、へと向かった。
冒険者ギルドとは、冒険者事業を統制する国営の組織の事である。
冒険者の登録、魔物狩りを主とした各種クエストの斡旋、冒険者の報酬管理、パーティメンバーの仲介、税務、といった冒険者に係わる仕事を一手に引き受けている。
私は冒険者ギルドで加入するパーティを紹介してもらおうとしたのである。
一応、私は個人保有魔力量が3馬力あるので、そこそこのランクのパーティを逆指名する事が出来るのではないかと思われるかもしれないが、そうは問屋が卸さないのである。
ポーターには実績が重要なのだ。
異空間収納の魔法によって、パーティの荷物や、狩った魔物の亡骸などを異空間に収め、持ち運ぶのがポーターの役目であるので、その魔法さえ扱えれば誰でもいい……という訳ではないのである。
魔法が失敗すれば、収納しておいた物体は異空間の彼方へ消えてしまう。
物体を収納している間に魔力切れを起こせば、やはり異空間の彼方へ消えてしまう。
異空間の彼方へ消えてしまった物体は、二度と戻らない。
また、それだけでなく、魔法を失敗したと偽って物をくすねたり、物を預かったまま姿を消してしまうといった【反社会的冒険者[略称:反社]】のポーターも存在しているのである。
こうした事があるため、実績のないポーターは信頼できないので、忌避されてしまうのであった。
ならば実績などあるはずもない新人ポーターは一体どうすればいいのか。
荷物紛失の事故を起こした時に責任を持ってくれる保証会社に入るという手段があるのだが、当然、相応の加入金が必要であり、苦学生である私にそんな金はない。
残された手段は、新米パーティに加入する事である。
実績の無い者同士で組んで、共に一から功績を積み上げていこうというのである。
が、私はこれが嫌だった。
新米パーティなどに入りたくなかったのである。
私は単に冒険がしたいのではなく、飽く迄、フィールドワークとしての冒険がしたいのであった。
新米パーティでは初歩のクエストをこなすばかりであり、魔界の奥へと赴く事もないので、フィールドワークとして得るものが全く無い……とまでは言わないが、余り無い、と思ったのである。
なので私は身の程知らずにも、冒険者ギルドの受付嬢の方に、
「ベテランとまでは言いませんが、ある程度の経験年数を積んでいるパーティを紹介してもらいたいのですが」
とダメ元で相談してみた。
受付嬢の方は即座に、
「いませんよ、そんなの。新人のポーターが何を贅沢言っているんですか」
と鼻で笑って一蹴した……という未来を私は想像した。
私が受付嬢の方の立場であれば、間違いなくそうするからである。
しかし私の想像は外れた。
「少々お時間をいただきますね」
受付嬢の方は私の希望条件に合うパーティがいないか、情報検索したり、他の受付嬢に相談したりして、手間暇かけて調べてくれたのである。
そして、その受付嬢の方が仲介してくれたのがイェンであった。
冒険者のライセンスを取得できるのは成人年齢である16歳からである。
よって当然、16歳のイェンはライセンスを取って、まだ間もなかった。
彼は自分をリーダーとした新たなパーティを立ち上げようとしていた。
ある程度の経験年数を積んでいるパーティ、という私の希望条件に全く合致していないのだが、これには理由がある。
大魔王によって村を滅ぼされた時、精神的ショックで記憶喪失になったイェンであったが、当初は自分が誰なのかもわからないほど症状が酷かったのである。
その後、身元が特定されたのだが、それが間違っていたのだ。
彼は、大魔王襲撃で亡くなった2歳年上の別の人物と誤認されてしまったのである。
イェンがいたジクフリト村というのは、孤児を引き取って、御国に貢献する人材へと育成していく帝営の児童養護施設であった。
我々の世界において、人は大事な資源なので、孤児は国が半ば強引に引き取っていき、ストリートチルドレン化することは無いのである。
孤児なので身寄りがなく、また戸籍資料も大半が焼失していたので、イェンが人違いされている事に誰も気づけなかったのである。
彼は2歳年上の別の人物のままで、16歳になると冒険者のライセンスを取った。
つまり実際には14歳という未成年で冒険者になったのである。
そして冒険者生活を送っていたのだが、2年後、別人である事が判明したのだ。
その結果、ライセンスは取り消し、2年間積み上げてきた実績も白紙化、イェンという本当の身元でライセンス新規発行と相成ったのである。
すなわちイェンは16歳の新人冒険者でありながら、2年間の冒険経験者だったのである。
ちなみに、後に教えてくれたが、イェンは当初から自分が人違いされている事に感づいていたのだが、大魔王に復讐するため逸早く冒険者になりたかったので、敢えて黙っていたそうである。
イェンとして新規ライセンスを取得した時、彼は元いたパーティを追放されていた。
件の無差別仲間収集家である事がリーダーの不興を買ってしまったのが原因であった。
(どのパーティのリーダーであっても、無差別仲間収集家である俺は非難されるだろう)
そう考えたイェンは自らのパーティを発足する事にしたのである。
そんな折りに私がやって来たのであった。
「俺、来る者は拒まずタイプなので」
豪放磊落な彼は無実績の新人ポーターである私をすんなり受け入れてくれた。
こうして私は、ある程度の経験年数を積んでいるパーティではないものの、ある程度の経験年数を積んでいる人がリーダーのパーティに加入できたのである。




