表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

1-2

 驚きすぎて声も出ないとは、まさにこの状態を指すのだろう。パクパクと口は動けども、悲鳴一つすら絞り出せず、混乱の極みにある頭の中では、全力で思考回路が空回っている。

 (は? いや、ありえないだろ? 目が覚めたら雲の上でしたって。というか、なんでこんな所に? や、まず、堕ちたりしないのか? あれ? そもそも、何時寝たんだっけ? えっと、あれ? さっきのは夢で、これは? あ? コレも夢とか? いや、でもコレ現実だよなぁ………)

 寝起き状態から急稼動させられたオーバーヒート気味の脳に従って、目が回り始めた時、


 「どやっかましぃぃいいわああ! こんぼけがあぁ!!!」

 無防備な背骨に、情け容赦無い手加減ゼロのヤクザキックが突き刺さった。


 「ぐはぁっ───!?」

 逆くの字に折り曲げられた衝撃にのた打ち回っていると、更なる罵声が浴びせられる。

 「何時やぁ思ってん?もー夜明けも近いっちゅーのに五月蝿くて叶わんわ!」


 残念ながら、こちらに答えるだけの余裕は無い。と言うか、肺の中の空気は強制的に吐き出されている。

 もだえ苦しみながら背後を振り返ると、黒髪を腰まで流した和服美人が、半目になってこちらを睨み付けていた。

 (い───いまの、は、この人が─蹴り飛ばし──たのか?)

 確実な証拠に、未だ蹴り飛ばした足が残っている。その足を下ろすと同時に、ビシィッと指を突きつけられる。

 「その駄々漏れな思考を閉じなさい。全く、何考えてるの? こんな時間にあんな大きな声でシャウト全開だなんて。近所迷惑よ!」

 「え? いや、一言も叫んだ記憶は無いんですが?」

 いきなり、理不尽な事を告げられた。

 (って、この人も浮いてる!? 一体どうやって? そもそもこの人誰?)

 「? ああ、あなた、初心者? それも、自覚無しの」

 こちらの様子を、顔を顰めつつ眺めていたと思ったら、何か自己解決したようで、『いかにも納得した』と言った風に表情がコロッと変わった。

 その表情と、口さえ開かなければ可愛いのに、何とも残念な美少女だ。

 「だーかーらー、丸聞こえだっつってんの!」

 こめかみに青筋を浮かべて、笑顔でアイアンクローを極めてきた。すごく痛い。というか、なんだろうこの力は。頭が痛すぎてなにも考えられません。だから離して………。


 「さて、コレでいいでしょ。もう思念垂れ流し状態じゃないから大丈夫よ」

 しばらく、万力で締められたかの様だった手が、パッと離れたことで漸く、息をまともに吸う事ができる。

 痛みを散らす為に額に手をやると、何かのようなものが頭に嵌められていた。

 「───っつぅー。い、一体これは? 何なんですか?」

 「むかーし昔、三蔵法師が孫悟空に嵌めた金のわっか『緊箍児きんこじ』って言う徳の高い物よ」

 どこか自慢げに語る彼女は、ふふん、と余りふくよかでは無い胸を張った。

 「はぁ、それが何故、僕の頭に?」

 「ああ、簡単な話よ。さっきも言ったけど、あなたの思念は何の制御も無しで垂れ流し状態。つまり、考えている事が丸判り。その制御を、コレが代わってやってくれるから、今は大丈夫になった。そういう事」

 「あ、ありがとう…ございます?」

 彼女の話が本当ならありがたいのだが、アイアンクローに意味はあったのだろうか?

 そして、彼女の喋りが最初と違うのは何故だろう?

 その事を訊ねると、

 「深く接触する必要があったからね。あと、今の喋りが普通。初めのは、怒りを表現したものよ。かっこいいじゃない。京都弁とか、関西弁で見栄を切ると」

 ───何とも言えない理由でした。


 「さて、こんな上空で立ち話もなんでしょ。とりあえず、下に降りるわよ」

 彼女はそう言うと、問答無用で僕の首を鷲掴み、街明かりにダイブした。




 ドクドクと、心臓が壊れたポンプのように音をたてている。

 洒落にならない速度の強制ダイブは、地面から1メートル手前で終わったものの、喰らった方は溜まったものじゃない。心身ともに、削られたような気がするのは、きっと気のせいではないだろう。

 「だっらしないわね~。男だったら、もうちょっとしっかりしなさいよ」

 危害者の彼女は、平気な顔をして無茶を言ってくれる。…まあ、世の中こんなものだろう。


 少し落ち着いたところで、改めて質問をする。

 「あの、あなたは誰で、どうして僕は、あんな所にいたんでしょうか?」

 「そうね、どこから説明してあげたものかしら?」

 人差し指をあごに添えて、少し考え込んだ彼女は、

 「まずは、これを言うべきかしらね」

 両手を広げ、厳かに、告げた。


 「ようこそ、死後の世界へ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ