1-1 目覚め
気がつくと、辺り一面が闇に覆われていた。
ありえない事に、左右だけでなく上下の感覚すら判らない。まるで夜の海中に突然放り出されたかのようで非常に心細く、無性に人肌が恋しくなるほどに寒いと感じた。
夢を見ているのかもしれない。なにせ、周囲には何一つ見当たらないのにも関わらず、自分の身体だけはくっきりと視認できるのだ。ぼんやりと光っているようにも見える。
しかし、これが夢だとすると一体どんな夢なのか? 自分の他に誰も居らず、物どころか地面さえも存在しない。
そもそも、夢を見ている最中に《コレは夢だ》と認識できるものだろうか?
『夢』とは目覚めて初めて認識するものであって、見ている最中に気付けるようならば、それはもはや『夢』ではなく『現実』足りえるのではないだろうか?
そんな事をつらつらと考えて、どれくらいの時間が経ったのだろうか? 不意に、遥か前方に何かの存在を感じた。
心の奥底から生じる何物かに背中を押され、我武者羅にソレに近づこうと手を伸ばす。自分の在る場所が曖昧な為、前に進んでいるのか浮上しているのか、はたまた下降しているのかそれとも一歩も進んでいないのか、そんな事さえ判らないが、其処にたどり着かなくてはいけない事だけははっきりと理解していた。
さらにどれ程の時間が経ったのか、一瞬、もしくは数時間かあるいは其れに数倍を掛けたのか。とにかく努力の甲斐あって、前方の存在は感じるまでも無く、光として視認できるようになっていた。
それを実感した瞬間、弾ける様に世界は光に包まれた。
「───はっ…はっ…はっ…はぁぁぁぁ、夢………か」
月に向かって突き出していた手を、額に下ろして一息ついた。
まだ呼吸が荒い。まるでマラソン直後のように暴れる心臓を、少しでも落ち着かせるよう深く深く酸素を取り込む。瞳を閉じ、自らの状態が通常にまで戻ったと思ったところで、ふと、気が付いた。
「は? 月?」
慌てて身を起こして確認すると、それはそれは綺麗な満月が自分を照らし出している。それだけではない。自分は今、どうやって身を起こしたのか?
足元から見える町の夜景は、遥か彼方、どう見積もっても数百メートルは下にある。
そう、彼の体は月と雲との間に在った。
これが、実は処女作になります。
もし興味を持たれたようでしたら、他の作品にも目を通していただけると嬉しいです。




