第1話
「…シア、……エリシア!」
「…う…うーん……なに……」
「もう朝よ。そろそろ起きないと!」
「うん……」
「…まったく……ふふ…エリシアはお寝坊さんなんだから……」
◇
カチカチカチカチ、カチ
ばさっ すたすた…
6時になりました。エリシアはきまって、この時間に目を覚まします。
エリシアお手製のギンガムチェックのカーテンを開けると、朝日が部屋全体に差し込みます。彼女のプラチナブロンドの豊かな髪は、光に照らされてよりいっそうきらきらと煌めき、緑の瞳は宝石のように輝いています。エリシアは手馴れた手つきでその柔らかな髪を三つ編みします。そして、いつものワンピースに着替え、エプロンをつけました。
すると…
コンコン、戸口で音がしました。
「はーい!今行きます!」
ガチャ
「おはよう!」
「オーバンさん!おはようございます!」
「今日もできたて、持ってきたよ!」
「わぁ…!いい匂い…!いつもありがとうございます!」
彼は近くに住むパン屋のオーバンさん。毎朝こうして、焼きたてのパンをおすそ分けしてくれます。
「そういや、彼女は今日もまだ起きていないのか?……えっと、ほら、幼なじみの……」
「グレースですか?」
「あぁそうそう!彼女とはなかなか会えないなぁ…」
「ほんと…すみません…グレースはお寝坊さんなんです…」
「いやいや、いいんだよ!まぁ、また会えるだろう。
…んじゃあ、そろそろ帰るわ!まだまだ開店までやることが山積みだ!」
「あ、そうですよね!今日もありがとうございました!」
「じゃ、グレースちゃんによろしく!」
「はい!お気をつけて!……さて、グレースを起こしますか…!」
◇
とんとんとん ガチャ
「起きて!グレー…ス…って、あれ、珍しい」
「ふふ…もう起きてるよ。」
「今日は早いのね。いつもそうだったらいいのに」
「それはどうかしら…」
「もうっ…さぁ、もう朝ごはんにしましょ」
「はーい」
いつもの朝、ふたりで他愛もない話をして、お店の開店準備を始める、平和な毎日が今日も変わらずやってきました。
エリシアのお店は亡き両親の形見でもある、ぬいぐるみ屋さんです。普通のぬいぐるみではありません、少し特別なぬいぐるみです。
エリシアの暮らしているセリスティーヌ国では、子が生まれるとその子のために大人になるまで一緒にいてあげる「最初の親友」としてぬいぐるみを与える風習があります。そして、14歳になり「デビュタント」を迎えるとき、大人になった証として14年間連れ添っていたぬいぐるみとお別れをします。そのぬいぐるみたちは、子どもたちの思いとともに王宮の「捧げ物」となります。
エリシアは、そんな特別なぬいぐるみを生まれてきたばかりの赤ん坊、一人ひとりに合わせて、魔力を込め、丁寧に作り上げます。
◇
「よしっ、今日も開店準備完璧!グレースもいつも手伝ってくれてありがとう!」
「そのくらいしないと!居候させてもらってるんだから」
「ふふ、ありがとう、でも、助かっているのは私の方よ。両親が急に亡くなっちゃって……ひとりで途方にくれているところを、たまたまグレースがこっちにひとりで戻ってきて、一緒に住むことになったんだもの。今はちっとも寂しくないわ。」
「エリシア…」
「でも…!本当にびっくりしたわ。突然グレースがうちを尋ねてきた時は!しかも、ひとりで!隣国にいたはずだったのに…」
「隣国も良かったんだけれど、やっぱり生まれたところに大人になったら戻りたかったの。だから、両親に無理を言ってひとりでこっちに戻ってきたのよ。でも、私の方こそエリシアには助かってばかりよ!宿は全て埋まっていて、野宿になりそうだったところを命拾いしたんだから!でも、またエリシアと会えて、一緒に暮らせていることが何より嬉しいわ。」
「私もよ!」
「ふふ…さぁ、そろそろ開店の時間なんじゃない?」
「そうね!今日も頑張りましょう!」
7月になり、日差しもぎらぎらと強くなってきました。
けれど、エリシアのお店はそんな暑さを忘れてしまうほど、笑顔と幸せで満ち溢れています。




