第4章:大都市のギルドで『木こり』として登録したら、規格外の実力を見抜かれて即Bランクに特例昇格した件。ついでにウザい冒険者を眼力だけで黙らせる
「アエテルガルドへようこそ」
アナベルは群衆に向かって両腕を広げた。
二重の鉄の門を通り抜けると、ゴランは音と色彩、そして匂いの壁にぶつかった。
石畳の通りは、声を張り上げる商人や、ずんぐりとした鱗を持つ荷獣が引く荷車、そして傷だらけの冒険者たちでごった返していた。
宙には異国のスパイス、焼けた肉、そして近くの鍛冶場から漂う熱された金属の匂いが入り混じっている。
木こりの胃袋が鈍い音を鳴らした。
ジュージューと音を立てる串焼きが並ぶショーウィンドウを見つめながら、彼は目につくものすべてを平らげたい衝動に駆られた。
しかし、通行人たちの視線は食べ物ではなく、ゴランが肩に担いでいる血こびりついた巨大な斧に釘付けになっていた。
おまけに、もう片方の手で【ボアマン】の半身を引きずっているのだから無理もない。
アナベルはそれに気づき、慌てて彼の横に並んだ。
「ゴラン、聞いて。武器をむき出しにして街を歩くと、余計な注目を集めちゃうわ。衛兵に止められるかもしれない。しまっておかないと」
男は困惑したように辺りを見回した。
「こんなデカブツを一体どこに隠せっていうんだ? 鞘なんて持ってないぞ」
「私を見て」
彼女は微笑んだ。ヒーラーの杖を掲げ、彼女が目を閉じるだけで、武器はエメラルド色のピクセルのシャワーとなって空中に溶け込み、跡形もなく消え去った。
「念じるだけでいいの。システムが『次元インベントリ(異空間収納)』を提供してくれているわ。試してみて」
ゴランは自分の斧を見つめた。それをしまう様子を想像して目を閉じると、一瞬にして手から重みが消え去った。
彼は驚きと共に空になった掌を見つめた。不条理なルールに支配された世界だが、その実用性を彼は評価し始めていた。
二人は商人地区へと向かった。
汚れたエプロンをつけた血色の良い肉屋の店主は、ハイブリッドの死骸を見て目を丸くした。彼は素早く頭の中で計算を済ませ、何食わぬ顔を装った。
「全部で300ルーメンで引き取ろう。売るか、やめるかだ」
ゴランには過去の記憶がなかったが、論理と常識が彼を見放したわけではなかった。
彼は店先に掲げられた値札をじっと見つめ、それから肉屋の目を真っ直ぐに見据えた。
「冗談はよせ。あんたは普通の獣の肉を1キロ100ルーメンで外に並べてる。この死骸は少なくとも160キロはあるぞ。骨を抜いたとしても、あんたが金と同等の価値で転売できる極上の肉が1トンは残るはずだ」
木こりの硬く見透かすような視線の下で、肉屋は冷や汗を流した。彼は揉み手をしながら、神経質に笑った。
「す、すまん、口が滑った! 3000ルーメンって言おうとしたんだ! 計算間違いだ!」
「交渉成立だ」
ゴランが宣言する横で、アナベルは口を押さえて笑いをこらえていた。
ハブが収益を記録した。
彼らはさらに、山賊の錆びた武器を鍛冶屋に、ムーンブルーム(月咲き花)を錬金術師に売り払い、5000ルーメン近い小さな財産を築き上げた。
「完璧ね」アナベルは満足そうにため息をついた。「さあ、アエテルガルドの中心部へ向かいましょう。あなたを本物の『冒険者』にする時間よ」
二人は、濃紺の旗で飾られた白亜の壮麗な建物の前に到着した。冒険者ギルドだ。
内部は広大で混沌としたホールだった。敷居を跨ぐや否や、灰色の豊かな髭と優雅な鎧を身にまとった巨漢が、バルコニーからヒーラーに声をかけた。
「ゴラン、あそこのカウンターで登録してきて」アナベルが囁いた。「私はギルドマスターのアルトゥールに報告があるから。それと忘れないで……『木こり』だとだけ伝えるのよ」
彼女が階段を上っていく間、ゴランは受付係に近づいた。眼鏡をかけた若い男が羊皮紙の用紙を取り出した。
「名前、年齢、そしてクラスをお願いします」
「ゴラン。34歳。木こりだ」
青年は片眉を上げ、気怠そうに書き込んだ。魔法による検査などはない。純粋な官僚作業だった。
「登録料:10ルーメンです」
ゴランが支払うと、「F」と刻まれた粗末な鉄のドッグタグを手渡された。
その時、アナベルが鎧を着た男を連れて戻ってきた。
近くで見ると、ギルドマスターのアルトゥールは威圧感のある歴戦の戦士だったが、それでも身長はゴランの方が頭一つ抜けていた。
「君が姪の命を救ってくれた男か」
アルトゥールは口を開き、ゴランと握手を交わした。木こりが瞬き一つせずに握り返したそのグリップは、タイタンのような握力だった。
「感謝している。君のクラスは何だ?」
「木こりだ」
アルトゥールは信じられないといった様子で彼を上から下まで見定めた。
「あり得ない。グリズリーマンを単独で倒すには……少なくともBランク以上の戦士でなければ不可能だ」
アルトゥールはゴランの手からタグをひったくり、そこに少しのマナを注入した。
粗末な鉄は、文字「B」が刻まれた輝く銀へと変化した。
「ほら。現場での特例昇格だ。そして、君がボスを倒したのだから、賞金も君のものだ」
彼は1万ルーメンが入った重いポーチを手渡した。
その夜は宿屋に落ち着き、翌朝、ゴランはアナベルと共に初めての本格的なクエストへの準備を整えていた。
しかし、ギルド内で二人の行く手を遮ったのは、悪趣味な銀の鎧を着た、傲慢な笑みを浮かべる少年だった。
「アナベル」その少年が言った。「昔のパーティーが全滅したって聞いたぜ。ようやく俺のパーティーに入る気になったか?」
「何度言えばわかるの、マーカス? 興味ないわ!」彼女は語気を強めた。「それに、私にはもうパーティーがあるの」
マーカスは視線をゴランに移し、軽蔑するように上から下まで見下した。
「この……中年のオッサンってことか? こいつはお前の新しいペットの犬か?」
ゴランは一言も発しなかった。ただ重く、一歩だけ前へ踏み出した。
マーカスを見下ろし、その目を真っ直ぐに見据える。その表情はあまりにも冷たく、空虚で、恐怖の欠片もなかったため、金髪の少年はごくりと唾を飲み込み、思わず後ずさりした。
木こりのオーラは圧倒的だった。マーカスが見たのは対戦相手ではない。自然界の『捕食者』だった。
事態が悪化する前に、ホールの一番奥からアルトゥールの声が彼らを制止し、マーカスは小声で悪態をつきながら立ち去った。
「ごめんなさい」アナベルが言った。「彼は元カレで……拒絶されることに慣れてないのよ」
「問題ない」ゴランは話を切り上げた。「クエストを探そう」
彼らはBランクの依頼を選んだ。都市の西にある『海の迷宮』での行方不明者の捜索だ。
出発の前に、彼らは物資を補給した。ゴランはHPを回復する青いポーションと、鉄の帯で補強された頑丈な【強化木の盾】を購入した。
アナベルはさらに、彼に【転移石】を買わせた。
「5000ルーメンもするけど、命を救ってくれるわ。これを砕けば、瞬時にダンジョンの入り口までテレポートできるの」
ゴランは玉虫色に光る宝石を見つめた。
「そんなに上手くいくなら、どうして君の前のパーティーはグリズリーマン相手にこれを使わなかったんだ?」
アナベルの表情が暗く沈んだ。
「ボス部屋の中は、マナの濃度が高すぎるのよ。扉が封印された瞬間、空間魔法はシステムによって無効化されるわ。ボス部屋では、勝つか、死ぬかしかないの」
この致命的なルールを学んだ二人は、西へと出発した。未知に立ち向かうために。




