第10章:階層ボスの『エメラルドの騎士』に慢心したテイマーが瞬殺されかける!? 影の連携で窮地を脱し、迷宮を彷徨う「自我を持つゴーレム」に遭遇する件
魔法の石の扉が落ちた鈍く地殻を揺るがすような音が、尖塔の円形の壁にまだ反響していた。
それは絶対的な「後戻りできない地点」を示している。
マーカス、エララ、そしてカルダーは、悟りの重みがこもった視線を交わした。
この瞬間から、唯一の出口は「上」しかなかった。
彼らは登り始めた。
冷たく虹色に光る金属と白い石の階段に、ブーツの音がこだまする。
しかし、彼らがそこで見つけたものは、彼らを困惑させた。
彼らを待ち受ける魔物は一匹もいなかったのだ。
第1階層から第14階層まで、ダンジョンはまるで大殺戮の不気味な博物館だった。
汚れのない壁は黒い血で汚され、床にはバラバラにされた死骸、砕けた武器、そして深く焦げた跡が散乱している。
「俺たちの前に誰かが大掃除をしていったみたいだな」
カルダーは、倒れた魔物の頭蓋骨のギザギザの切り口を調べながら唸った。
「これはノトリウスの仕業だ。あいつとあいつのグループは、ロードローラーみたいに上へ突き進んでる」
「俺たちにとっては好都合だ。エネルギーを温存できる」
マーカスはすべての影を黄金の目でスキャンしながらコメントした。
しかし第14階層に到達すると、尖塔の直線的な構造は唐突に終わりを告げた。
ダンジョンは、吊り橋、分岐する回廊、そして3Dの迷路のように上へと交差する複数の階段のネットワークへと開けたのだ。
「あいつら、別々のルートを取ったのね」
エララは、分岐していく血痕を指差して指摘した。
「ここから先は、自分たちの道を選ばなきゃならないわ」
彼らは中央の傾斜路、第15階層へと真っ直ぐ続く急な道を選んだ。
雰囲気が劇的に変わる。
空気は濃密になり、マナで振動していた。
巨大な円形の広間の奥から、他の2つのパーティーが手をつけていない、最初の本当の障害物がついに現れた。
それは致死的な魅力を持つグロテスクな生き物だった。
金色の槍で武装したそびえ立つ【山羊人】たちで、その背中からは悪魔のような顔とは対照的な、雄大な白い天使の翼が生えていた。
エララは躊躇しなかった。
彼女は新しい鉄のヌンチャクを回転させ、バトルクライを上げて前方へダッシュした。
森の守護者・猪人も彼女の横を突撃し、壁を揺るがすような咆哮を解き放つ。
それは一方的な大殺戮だった。
翼を持つ山羊人たちは急降下爆撃を試みたが、イノシシのオーガはその鋼のような筋肉で打撃を受け止め、双刃斧で彼らを地面に叩き潰した。
流れるようでありながら致死的なエララは、完璧な武術のダンスで彼らの膝と頭蓋骨を粉砕していく。
3分足らずで、広間は制圧された。
少女は額の汗を拭い、明らかに失望した様子だった。
「これだけ? 天空の迷宮の魔物はもっと強いと思ってたのに……」
カルダーは次の階層へ向けて主導権を握るべく、新しい鋼の双包丁を抜こうとした。
だが、マーカスが巨大な腕に手を置き、彼を止めた。
「彼女にやらせてやれ、カルダー」
忍者は、テイマーと使い魔が視線を交わすのを見守りながら低い声で呟いた。
「今のところは、彼女とボアマンに戦わせるんだ。あいつらは完璧な繋がり、魂の絶対的な共鳴に入る必要がある。今後、はるかに厄介な敵を相手にする時、モンスターテイマーの『融合』が必要になるかもしれない。それを達成するには、彼らは共に戦い、互いを盲目的に信頼しなければならないんだ」
カルダーは仲間の長期的な戦術を完全に理解し、頷いた。
彼は手を引っ込め、一歩下がる。
「了解だ。舞台は彼女のものだ」
第15階層から第21階層まで、その登頂は途切れることのないソロパフォーマンスだった。
エララとボアマンは高度に同期した破壊の機械だった。
風の精霊から雲のゴーレムまで、行く手を阻むあらゆる敵は容赦なく打ち倒されていく。
グレード2の魔物の圧倒的な力に鼓舞され、階層を征服するごとに少女の自信は深まっていった。
だが、第22階層の敷居を跨いだ途端、その曲調は唐突に変わった。
その部屋は、ダンジョンの人工の雲の間に浮かぶ巨大なクリスタルの闘技場だった。
中央には、床に剣を突き立ててひざまずく孤独な人影があった。
グループが入ってくると、その存在はゆっくりと立ち上がった。
それは輝くエメラルドの鎧を全身にまとい、カミソリのように鋭いエネルギーを放つ両手持ちの大剣を握っていた。
≪システムハブ:ボスを検知≫
【正体:エメラルドの騎士】
【グレード:天空騎士 - クラスレベル1】
エララはヌンチャクを握りしめ、微笑んだ。
「クラスレベル1? がっかりね。昨日、私一人でクラス2をテイムしたばかりなのに。こんなの散歩みたいなものよ。みんなは下がってて、私がやるわ!」
「エララ、待て! ここのステータスは……」
マーカスは警告しようとした。
だが遅すぎた。
自身の無敵を確信したテイマーは、突撃を命じた。
ボアマンが前方へダッシュし、致死的な薙ぎ払いのために巨大な石と金属の斧を振り上げる。
エメラルドの騎士は、最後の最後の数分の一秒まで動かなかった。
そして――緑の光の軌跡となって姿を消した。
オーガの斧はクリスタルを砕いただけで、何も捉えなかった。
怪物が体勢を立て直す間もなく、ボスはその側面に出現し、大剣の腹でボアマンを殴りつけた。
その力は信じられないほどで、3トンの巨体を持ち上げ、壁に叩きつけるほどだった。
騎士のシュールなスピードに恐怖し、エララの目は見開かれた。
身を守るためにヌンチャクを上げる時間すらなかった。
ボスはすでに彼女の頭上にいた。
胸への正確で残忍な単発のキックで、彼女から空気を奪い、地面へ吹き飛ばして、気絶させ無防備な状態にした。
騎士は処刑のためにエメラルドの刃を振り上げた。
だが、その攻撃は届かなかった。
騎士自身が落とした影から守護者ゴブリンが現れ、マナを込めた棍棒の一撃でボスの膝の関節を狙い、態勢を崩させたのだ。
全く同じ瞬間、黄金の閃光が空気を切り裂いた。
マーカスが騎士の頭上の空中に実体化し、破壊的なかかと落としを解き放つ。
完璧な影使いの同期の中で、その合体攻撃は騎士の胸と首に直撃した。
衝撃はあまりにも暴力的で、ボスは後方へ吹き飛ばされ、恐ろしい速度で分厚いクリスタルの壁に激突した。
ガラスが砕ける音と共にエメラルドの鎧はひび割れ、ボスは瞬時に光の破片のシャワーとなって溶け、たった一度の攻防で敗北した。
マーカスは流れるような跳躍で優雅に着地し、防御の構えをとった。
一方、彼のゴブリンは側面で得意げに棍棒をクルクルと回していた。
地面に座り込んだまま息を切らしているエララは、目を丸くして忍者を見た。
彼女のボアマンはフラフラする頭を振りながら、苦労して立ち上がった。
「ありがとう……」
少女は、マーカスが差し出した手を受け取って立ち上がりながら呟いた。
「自信過剰だったわ。完全に私が間違ってた。私……本当にクタクタだわ」
「無理もないさ」
カルダーが安心させるような笑顔で近づいてきた。
彼は部屋の中央を身振りで示した。
「マナをかなり消費したし、あの一撃を食らったことで体力を奪われたんだ。少し休憩して、何か食べる時間だな」
熟練の手つきで、バトルシェフは即席の調理場を素早く設置した。
彼はインベントリから極上の肉の切り身と発光するキノコを取り出した。これらは道中、食用の希少モンスターから慎重に採取したものだ。
数分のうちに、彼の手がける活力回復レシピのスパイシーな香りがクリスタルルームの空気を満たし、エララと使い魔たちの筋肉に温もりと活力を取り戻させた。
彼らが食事をしている間、マーカスは壁に寄りかかり、第23階層へと続く階段のほうへと視線をさまよわせていた。
「自分を責めるな、エララ。あんたが弱いわけじゃない」
忍者は腕を組んで説明した。
「このダンジョンのパワースケーリング(戦闘力評価)が完全に狂っているんだ。あのボスを見て気づいたよ。このダンジョンでは、魔物のマナの密度が桁違いなんだ。あのクラスレベル1は、外の通常の世界なら軽くクラス3の魔物に匹敵する力とスピードを持っていた。ここでの戦闘は、甘く見ればすべてデストラップだ。だが不可能じゃない。俺が本当に心配しているのは、登ることそのものじゃないんだ」
カルダーは咀嚼をやめ、仲間の思考の意図を感じ取った。
「どういう意味だ?」
マーカスはため息をついた。
その表情は冷たい決意によって硬く引き締まっていた。
「俺が心配しているのは、この天空の迷宮の背後に『本当に』何があるのかってことだ。誰も戻ってこない。入った者は皆、文字通り出ることを禁じられ、背後で扉が封印される。陰謀論者みたいには聞こえたくないが、これには何か政治的な動機が隠されていて、ダンジョンの終点でしかそれは明らかにならないと思っている。おまけに、ノトリウスだ……あいつは自分が何をしているのかを正確に理解しているように見える。冒険を求めている普通の戦士のような動きじゃない」
忍者は壁から離れ、肩を伸ばした。
「だが今は、ここで休もう。急いで登っても意味がない。ここはキャンプを張るのに最適な場所だ。ボス部屋には通常のモンスターは湧かないし、騎士はあと24時間はリスポーン(復活)しないはずだ。万が一予想より早く現れた場合に備えて、俺の影のゴブリンが警備に立つ」
グループは同意して頷き、クリスタルの床に寝袋を広げ始めた。
◇ ◆ ◇
しかし、まさに彼らが寝袋を広げていたその時、部屋の温度が急激に下がった。
守護者ゴブリンは飛び跳ねるのをやめ、入り口に向かって低く唸った。
ボアマンも重々しく立ち上がり、石の斧を掲げた。
回廊の暗闇から、異様な姿が現れた。
それは人型の特徴を持つ石のゴーレムだったが、地上のダンジョンに生息するものとは全く異なっていた。
その岩の体には微かな緑色の光を放つ複雑な幾何学模様が刻まれ、頭の上には雲で作られた帽子のような、凝縮された蒸気の奇妙な小さな塊が浮かんでいた。
≪システムハブ:エンティティを検知≫
【正体:石雲の巡礼者】
守護者ゴブリンは棍棒を上げ、攻撃に飛び出す準備をした。
エララもイノシシに突撃を命じる準備をした。
だが、どちらの使い魔もピタリと足を止めた。
ゴーレムは敵意を全く示さなかったのだ。
その太くずんぐりとした脚が崩れ落ちると、石の関節が弱々しく軋んだ。
怪物はクリスタルの床に膝をついて崩れ落ち、腕をだらりと脇に下げ、石同士がこすれ合うような鈍いうめき声を漏らした。
カルダーは眉をひそめた。
戦闘本能を脇に置き、バトルシェフは慎重にその存在に近づいた。
彼は残り物のシチューがたっぷり入った木製のボウルを手に取り、それを差し出した。
「腹が減ってるんだな、デカブツ?」
石雲の巡礼者はゆっくりと頭を上げた。
震える手でボウルを受け取ると、モンスターというよりは……「人間」に近い貪欲さで食べ物をむさぼり食い始めた。
「これも、下の世界との計り知れない違いだな」
マーカスは呆然とした表情でその光景を見つめながら呟いた。
「通常のダンジョンでは、魔物は単なる見張りだ。理由もなく視界に入ったものを殺すためにシステムによって作られた自動人形だ。だがこいつは……こいつには『意識』がある。飢えを感じている。疲労を感じているんだ」
エララは一歩前に出て、食事をする石の姿をじっと見つめた。
「それか、もしかしたら……」
テイマーはボアマンの肩を思慮深く叩きながら呟いた。
「これはテイマーの魔物だから、意識を獲得したのかもしれないわ。主人を探してこのダンジョンをさまよっている、迷子の仲間よ」
マーカスとカルダーは意味ありげな視線を交わした。
少女の仮説は完全に筋が通っている。もし行方不明になった過去の探求者の一人が彼女と同じクラスだったなら、その使い魔は生き残り、知性を保っている可能性がある。
ゴーレムは数秒でボウルを空にした。
シェフの活力回復スパイスのおかげで、ルーンの緑色の光が再び力強く脈打ち始めた。
それは再び立ち上がり、岩の腕を胸の前で交差させ、カルダーとグループの他のメンバーに向かって不器用だが紛れもない感謝のお辞儀をした。
そして、何も付け加えることなく向き直り、下層へ続く階段へ向かってゆっくりとしたペースで歩き出し、平和に去っていった。
3人の仲間は沈黙したまま、それが暗闇の中に消えていくのを見つめていた。
彼らの誰も、エランドールの古い百科事典や埃を被った歴史書の中でさえ、あのような魔物を見たことも読んだこともなかった。
尖塔と天空大陸の真の姿は、刻一刻と、ますます興味深く、そして神秘的なものになっていた。




