第9章:天空の迷宮の入り口を塞ぐ怪しい大軍勢!? 決死の覚悟で門をくぐった俺たちを待ち受けていたのは、二度と生きては出られない『絶対封鎖』の罠だった件
エランドールの街を薄い霧が包む、刺すような朝。
だが、冒険者ギルド前の広場はすでに傭兵や荷馬車でごった返していた。
マーカスとカルダーは、巨大なオーク材の扉の近くにある低い石壁に寄りかかり、喧騒を眺めていた。
「遅いな。集合時間は明確だったはずだぞ」
カルダーが腕を組み、イライラと足で地面を叩く。
「大目に見てやれよ、シェフ」
マーカスは気だるげにクナイを指の間で回しながら笑った。
「丸1年の孤立から明けた、彼女にとって初めての本格的な遠征だ。不安で装備のチェックを10回連続でやってるんだろうよ」
彼らが待っていると、ギルドの重い扉が開いた。
最初に姿を現したのは、ノトリウスのパーティーだった。
太陽の光すら飲み込むような、漆黒の重鎧。
ダーク・エリート・ウォリアーの両脇には、彼と同じく沈黙のオーラを放つ、フードを深く被った2人の人物が従っている。
彼らは誰にも一瞥もくれず、山道へと真っ直ぐに向かっていった。
マーカスはクナイを回す手を止め、黄金の目を細めた。
ノトリウスの姿が霧の中に消えるまで、その背中をじっと追う。背筋に、冷たい悪寒が走った。
「あいつには何か深く間違ったところがある」
マーカスは声を落として呟いた。
「ただの傲慢さじゃない。あいつの歩き方に気づいたか? あまりにも硬直していて、不自然だ。あれは栄光を求める冒険者のオーラじゃない……完全に人間であるとさえ思えない。嫌な予感がするぜ」
カルダーも重々しく頷く。
「トーナメントの時から気づいていたさ。あいつの黒い炎は、腐敗の匂いがした。あの上に登ったら、あいつからは目を離さない方がいいな」
直後、今度はジンのパーティーが現れた。
エレクトリック・モンクはマーカスたちに敬意を表して手を挙げ、微笑んで山へ向けて出発した。
さらに20分が経過した頃、ようやく広場に声が響いた。
「来たわ! ごめんなさい、遅刻しちゃって!」
エララがバックパックのストラップを握りしめながら走ってきた。
目の下には目立つクマがあったが、その顔はエネルギーと熱意に満ち溢れている。
「何も言わないで! 待たせたのはわかってるわ!」
エララはカルダーの文句を先んじて封じるように両手を挙げた。
「旅が楽しみすぎて、一晩中サバイバル戦術を頭の中で復習してたの。でも保証する、絶好調よ!」
どこからともなく、マーカスの影からゴブリンが飛び出す。
近くの屋台からくすねてきたらしい真っ赤なリンゴを、エララに差し出した。
エララはクスクスと笑い、リンゴを受け取ってゴブリンの金髪を撫でる。
「完璧だ。じゃあ行こうぜ」
マーカスは壁から背中を離し、クナイを鞘に収めた。
「他の連中はもう先行してる。山が待ってるぞ」
◇ ◆ ◇
天空の迷宮へと至るルートは、エランドール北地区の裏手から始まり、街を見下ろす過酷で険しい岩壁を登るものだった。
道中、ノコギリのような牙を持つ【ロックウルフ】や【ワイルドゴブリン】の群れが待ち伏せしてきたが、マーカスやエララが武器を抜く必要はなかった。
「あいつらに任せろ」
カルダーが誇らしげに笑う。
昨夜の「バフ飯」のエネルギーがまだ脈打っているボアマンとゴブリンは、完全に無双状態だった。
ボアマンが地面を力強く踏みつけ、岩を砕く地震波でオオカミの群れを宙に打ち上げる。
敵が地面に落ちる前に、ゴブリンが影の弾丸となって岩から岩へと跳び回り、超音速の棍棒連打で次々と叩き落とす。
2体の魔物は一滴の汗も流さず、道中の障害物を完璧な連携で一掃していった。
「信じられないわ……マナがこんなにスムーズに流れるなんて」エララが驚嘆する。
「秘密はスパイスだけじゃない。バトルシェフのマナがこもってるからな」カルダーがウィンクした。
何時間ものハイキングの末、彼らは巨大な岩の台地に到達した。
目の前にそびえ立つのは、雲を突き抜ける巨大な白い石と虹色の金属の尖塔。
【天空の迷宮】の入り口だった。
プラチナの門が、天空の世界と地上を隔てている。
そのスケール感は、見る者すべてに畏敬の念を抱かせる。
しかし、グループの驚きはすぐに、明白な混乱へと変わった。
ダンジョンの麓が、厳重に要塞化された『軍営地』になっていたのだ。
王国の金色の紋章を掲げたテントが何十も並んでいる。
だが異常なのは、マナをチャージしたハルバードを構える完全武装の王室近衛兵が何列も並び、尾根には重い攻城クロスボウまで設置されていることだった。
通常ならギルド役人が2人もいれば十分な場所に、大軍隊が配備されている。
マーカスは岩陰にしゃがみ込み、目を細めた。
「近衛兵たちは、ダンジョンのモンスターから入り口を守っているわけじゃない」
マーカスは低い声で言った。
「武器は『外側』に向けられている。奴らは俺たちを警戒してるんだ」
「どういうことだ?」カルダーが眉をひそめる。
「ここは何か酷く嫌な匂いがする。そこにいてくれ、確かめてくる」
マーカスは素早く指を動かし、印を結んだ。
≪システムハブ:スキル発動≫
【スキル:分身の術】
完璧な影のクローンが実体化し、カルダーたちの横に立つ。
「行かないで、マーカス。罠かもしれないわ!」
エララが腕を掴んで止めるが、マーカスは指にはめたプラチナの指輪を見せた。
「心配するな。もし攻撃されたら、『空間転換の指輪』で瞬時にクローンと場所を入れ替える」
本物のマーカスは立ち上がり、ゆっくりとした足取りでバリケードへと向かった。
キャンプの視界に入った瞬間、何十もの殺気が彼にロックオンされる。
近衛兵たちは槍を下げ、いつでも攻撃できる態勢をとった。
「そこで止まれ、冒険者。パスを見せろ」
暗赤色のクロークを着た司令官が、腕を組んで命じた。
マーカスは予選通過の証を見せた。
「俺たちはギルド認定の遠征のためにここに来た。だが不思議なんだが……3つのパーティーを歓迎するために、大隊丸ごとがここで何をしてるんだ?」
司令官の顔は石の仮面のように無表情だった。
「これは例外的な安全対策だ。このダンジョンは極限の脅威として分類されている。資格を持たない者を一人たりとも中に入れないためだ」
マーカスは瞬きもせずに司令官を見据えた。
(息を吐くように嘘をつきやがる。軍隊と攻城兵器を配備するのは、無知な一般人を遠ざけるためじゃない)
隠された政治的動機か、あるいはもっと暗い理由があるはずだ。
だが、彼らを止める命令は受けていないらしい。パスは有効だった。
「それはとても安心できるね」マーカスは作り笑いを浮かべた。「じゃあ、仲間を呼んでくるよ」
マーカスが背を向けて10メートルほど歩くと、コマンドをキャンセルする。岩陰のクローンが黒い煙となって消えた。
カルダーとエララが合流する。
「順調か?」
「通してはくれる」マーカスは巨大なプラチナの扉を見据えて答えた。「だが、あの司令官は息を吐くように嘘をついていた。この話にはもっと裏があるぞ」
3人は巨大なプラチナの門の前に立ち、深く息を吸い込んだ。
そして、目的を持った足取りで敷居を跨ぎ、軍営地を背後に残した。
だが、第一階層に足を踏み入れた瞬間――。
ズゴォォォォォン!!
耳をつんざくような轟音が、尖塔全体を激しく揺らした。
彼らの背後で巨大なプラチナの扉がバタンと閉ざされ、その直後、第二の通過不可能な『魔法の石板』が上から重々しく落ちてきて、地殻を揺るがすような音と共に出口を完全に封鎖したのだ。
「ちょっと! 開けて! 何してるの?!」
エララが振り返り、滑らかな石壁に身を投げ出して拳を叩きつけた。
だが、外の近衛兵からの返答はない。
向こう側の沈黙は、死のように絶対的だった。
マーカスは彼女の横に立ち、そっと肩に手を置いた。
その視線は、氷のように冷たい真実を悟り、暗く沈んでいた。
「もうわかったよ、エララ。息の無駄だ」
マーカスは冷たく岩壁を見つめながら呟いた。
「外のあの軍隊……外の人間が中に入るのを防ぐためのものじゃない」
カルダーが肉切り包丁の柄を強く握りしめ、筋肉を緊張させる。
「じゃあ、何のためのものだ?」
「あれは」
マーカスは氷のように硬い声で結論づけた。
「俺たちの誰一人として、二度と生きて外に出られないようにするためのものさ」




