第1章:失恋忍者が新大陸で無双する件。Sランク資格を理不尽に剥奪されたけど、相棒の影ゴブリンと一緒に成り上がる!
潮風が彼の金髪の房を揺らし、唇に塩の味がピリッと刺さった。マーカスは商船のきしむ木製の手すりに寄りかかり、コバルトブルーの海と空が溶け合う水平線の彼方へと視線をさまよわせていた。
眼下では波が船首に打ち砕かれ、水底には巨大な暗い影が音もなく滑空している――かつてなら彼を恐怖させたであろう巨大な海獣たちも、今の彼の「Sランク」の目には、ただの育ちすぎた魚にしか見えなかった。
彼の足元では、影が不自然に伸びていた。甲板に落ちた暗闇の中から、小さな【影の守護者ゴブリン】が上半身を現し、小さなトゲ付きの棍棒を握りしめている。小鬼は主の真似をして自分の金髪の房を整え、広大な海に向かって退屈そうに鼻を鳴らした。
「わかってるよ、チビ。もう少しの辛抱だ」マーカスは手品師のような器用さで黒曜石のクナイを指先で回しながら呟いた。
世界が震えるのをやめてから、およそ2年が経っていた。
数週間の残酷な戦いの末、ゴランと彼のアズライトの斧は、惑星の中心から闇を完全に根絶した。あの木こりは世界樹イスリルの暗黒のクローンを破壊し、マルコラスとその瘴気を永遠に粉砕し、ダンジョンの自然なバランスを取り戻し、ヴァエロール家の支配を打ち砕いたのだ。戦争は終わった。同盟は繁栄していた。
しかし、マーカスのような影とアドレナリンの中で鍛え上げられた少年機にとって、平和はすぐに「金色の鳥籠」のように感じられ始めていた。
ゴランは人を寄せ付けない山の頂に引きこもり、自然と巨大な魔物たちだけに囲まれて、絶対的な平和の中で隠者のように暮らしていた。不動の金属防壁だったゴリアテは盾を置き、ヴァンガルディアで待っていた少女と結婚して宿屋を開いた。
そして、アナベルがいた。
マーカスは一瞬だけクナイを強く握りしめた。
エメラルド・ヴァルキリーは優しく、理解があったが、彼女の拒絶はクリスタルのように明確だった。彼女の心は義務、アエテルガルドの復興、そして叔父アルトゥールのサポートに捧げられていた。そこに彼の入る隙はなかった。少なくとも、そういう意味では。
挑戦のない退屈な日々と、報われない愛を置き去りにしたいという内臓をえぐるような欲求に駆られ、【幻影の君主】はページをめくることを決意した。彼は荷物をまとめ、世界を救った英雄たちに別れを告げ、未知へと向かう最初の船に乗り込んだのだ。
マーカスは黒いタクティカルスーツのポーチに手を伸ばし、くしゃくしゃになった羊皮紙を取り出し、巨大な金色の文字で印刷された告知を何度目かわからないが読み直した。
『エランドール大武闘大会』
嵐の海の向こう側にある、エキゾチックで未開の地、エランドール大陸。そこでは毎年、Sランク冒険者のみが参加を許される、世界で最も残酷な魔法と武術のトーナメントが開催されていた。
だが、マーカスを海を越えさせたのは名誉ではない。その「賞品」だ。
大会の上位3名には、エリートパーティーを結成し、『天空の迷宮』の門をくぐる絶対的な権利が与えられる。
それはシステムの異常であり、すべての夢想家の目を輝かせる謎だった。根をイスリルの幹へと深く伸ばす地上のすべてのダンジョンとは異なり、天空の迷宮は雲を突き抜け、大気圏へと消えていく巨大な尖塔だった。どれほど強力な探求者であっても、その最上階に到達できた者は一人もいない。最上階の先にはただの宝物庫ではなく、実際の『天空大陸』――神獣と忘れ去られた魔法に支配された、星々の間に浮かぶ世界があるという伝説が囁かれていた。
ゴランは絶対に行かないだろう。ゴリアテは今や宿屋の親父だ。アナベルには守るべき街がある。マーカスは一人だった。しかし、彼を待ち受けるタイタンのような試練について考えると、悲しみは感じなかった。背筋を駆け巡る、電気のようなスリルを感じていた。
「陸だ!」メインマストの監視台から見張りが叫んだ。
マーカスは顔を上げた。水平線の海の霧が晴れ、巨大な大都市に支配されたギザギザの海岸線が現れた。太陽の下で輝く白い石のテラスの上に建てられている。地区の間に巨大な闘技場が際立ち、遠くの空には、めまいがするほど高くそびえ立つスカイ・スパイア(天空の尖塔)の影が見えた。
若き忍者は髪をかき上げ、微笑んだ。それは、すでに死を打ち負かした者だけが持つ傲慢さに満ちた、生意気な笑みだった。
一緒に行くパーティーがいない? 大した問題じゃない。そこで大陸最強の戦士たちを見つければいい。敬意を勝ち取るために何人かのケツを蹴り上げる必要があるかもしれないが、雲の中へついてくるイカれた奴に出会えるかもしれない。
足元のゴブリンが、2つの粗い石をこすり合わせたような音でクスクスと笑い、戦いを待ちきれないとばかりに甲板をトゲ付き棍棒で叩いた。
「覚悟しな、エランドールの魔物ども」ガレオン船が騒がしく混雑した港に入る中、マーカスは囁いた。「幻影の君主のお出ましだ」
≪システムハブ:ステータス更新≫
【キャラクタープロファイル:マーカス】
クラス進化(現在): 幻影の君主。霊的親和性、闇の技への深い理解、そして世界樹イスリルの慈悲深い干渉により、この伝説の失われたクラスを解放した。
霊的従魔: 影の守護者ゴブリン(グレード3)。マーカスは単にテイムしただけでなく、「影の契約」と呼ばれる古代の血の契約を通じて自身に縛り付けている。この戦士の悪魔は少年の影の中に直接居住し、召喚の印に応答する。
【能力・魔法技術】
分身の術: 敵を混乱させ攻撃する完璧なコピーを作成。クラス進化により、これらのクローンは戦闘において立体的で、触れることができ、致命的な実体となった。
煙幕: クローンとの完璧な相乗効果で使用し、致命的な待ち伏せを仕掛ける戦術スキル。
鷹の目: 知覚を極限まで拡大する視覚技術。
変装の術: マーカスと同盟者の外見を変え、気づかれずに行動するための魔法の幻影。
影の支配: ゴブリンを観察することで同化した能力。黒い煙となって物理攻撃を回避し、影の次元へ潜入または出現することができる。
精霊の呼び声: 敵を瞬時に凍らせるスペクトラル・アイス(幻影の氷)を武器に吹き込む。
影の鎖: 地面から重い闇の鎖を召喚し、ターゲットを包み込み固定する。
【武装・装備】
投擲武器: カエララで最も硬い金属で鍛造された致死のクナイ、爆発手裏剣、毒矢、戦術煙幕弾。濃い紫色の睡眠粉末を放出する特殊な中空クナイも所持。
戦術の巻物: 魔法阻害ブロックや爆発的な連鎖反応に使用される分厚い忍者の巻物。
空間転換の指輪: 空間ルーンが象嵌された伝説級のプラチナリング。影のクローンと相乗して瞬時に位置を入れ替えることができ、彼の戦術を完全に予測不可能にする。
【キャラクタープロファイル:影の守護者ゴブリン】
分類: レベル3クラスモンスター(グレード3)。人間と同等の知性を持つ影の精霊。
能力: 『影の支配』、『影のクローン(最大8体)』、『暗黒マナの注入』。鉄のトゲで覆われた粗末な木の棍棒を絶対的な武術の熟練度で振るう。
エランドールの港は、怒鳴り合う商人、エキゾチックな荷獣、そして重武装の傭兵たちが入り乱れるカオスな迷路だった。マーカスは流れるような優雅さで人混みをすり抜け、彼の影は石畳に沿って音もなく滑っていく。最初の目的地は明らかだった。この街の権力と情報の中心だ。
エランドールの冒険者ギルドは、輝く白い大理石と補強された真鍮で建てられた巨大な建造物だった。重いオーク材の二重扉を押し開けると、マーカスは音の壁にぶつかった――賞金について自慢し、飲み、言い争う何百人もの冒険者たちだ。
彼は登録デスクへとまっすぐ歩き、彼の細身の体格を睨みつける傷だらけの戦士たちの騒がしいグループを無視した。マーカスは彼らを気にも留めず、カウンターに到達すると、木の上にシルバーとプラチナの認識票を置いた。
「ここの支部に登録して、大武闘大会にエントリーしたいんだが」マーカスは、完全に退屈そうな片眼鏡をかけた中年の受付係に言った。
受付係はタグを手に取り、マーカスのステータスを証明する光るルーンを調べた。彼は見下すような鼻笑いを漏らした。
「アエテルガルドでSランク? そいつは可愛いね、坊や。あっちじゃ、育ちすぎた木を切り倒しただけでSランクがもらえるのかい?」
マーカスはカウンターに寄りかかった。その黄金の目はわずかに細められたが、生意気な笑みは崩さなかった。「その木はかなり重い一撃を食らわせてくるぜ、信じてくれ。何か問題でも?」
「問題は、ここエランドールには『本物の基準』があるってことだ」受付係はタグを滑り返しながら答えた。「お前が前の大陸で何者だったかは知らん。うちのルールじゃ、よそ者は自動的に降格だ。お前はAランクからスタートする。大会の参加資格を得るためにSランクの称号を取り戻したいなら、うちの管轄下で5つの『Aランククエスト』を成功させる必要がある。例外は一切なしだ」
マーカスは首の後ろを掻きながらため息をついた。官僚主義と議論するのは息の無駄だ。それに、長い船旅の後に軽くウォームアップするためのクエストは、まさに彼が必要としていたものだった。
「いいだろう。あんたらのルールで遊んでやるよ」マーカスは腕を組んで言った。「登録料はいくらだ?」
「100ルーメンだ」受付係は手を出して言った。
マーカスは次元インベントリを開き、光るコインの入った小さなポーチをカウンターに放り投げた。
≪システムハブ:取引完了≫
支払額: 100ルーメン
現在の残高: 39,900ルーメン
ステータス: エランドールギルドのAランク冒険者として登録されました。
「エランドールへようこそ。初日に死なないように頑張るんだな」受付係はボソボソと言い、列の次の人に目を向けた。
マーカスは、ホールの中心を占める巨大なクエストボードへと歩いて行った。彼は羊皮紙のシートをスキャンし、護衛任務や薬草採集の仕事を無視した。彼の目は討伐依頼にロックオンされた。『サンド・ドレイクの討伐』『腐敗したマンティコアの群れの排除』『沈んだ洞窟からの深淵の真珠の回収』。
彼は1回の素早い動作で、ボードから5つの高リスクなAランクの賞金首をもぎ取った。普段ならそのうちの1つに挑むためだけに大きなパーティーを組む地元の冒険者たちの、困惑した視線を完全に無視して。
太陽が沈み始めた頃にギルドを出ると、マーカスは記憶した街の地図を確認した。休む場所が必要だ。あまり詮索されたくない冒険者には『燃えるゾンビ亭』が強く推奨されていた。
彼は狭く薄暗い路地を通って近道をした。ここの影は濃く、湿った土とこぼれたエールの匂いがした。マーカスは『鷹の目』のスキルを起動する必要すらなかった。闇との繋がりが、彼が必要とするすべての情報を教えてくれていた。彼は尾行されていた。
足音が背後で微かに響いた。ギルドの中でマーカスが見かけた地元の傭兵団の記章をつけた大柄なチンピラが、木箱の山の後ろから現れた。男の目は、マーカスのベルトに固定された希少なカエララ製のクナイを貪欲に見つめていた。
「いいおもちゃを持ってるな、よそ者」チンピラはギザギザの短剣を抜いて嘲笑した。「それを渡せば、内臓をぶちまけないでおいてやるかもしれないぜ」
マーカスは歩みを止めなかった。振り返ることすらしなかった。彼はただ両手をポケットに入れたまま、疲れたようなため息をついた。
チンピラが次の一歩を踏み出す前に、マーカスの後ろに伸びる影が突然沸騰した。暗闇が石畳から剥がれ落ちる。影の守護者ゴブリンが銃弾の速度で上へ飛び出し、泥棒の顔の真正面に実体化した。
チンピラの目は純粋な恐怖に見開かれたが、彼には悲鳴を上げる時間すらなかった。
ドガァァン!!
ゴブリンは鉄のトゲ付き棍棒を完璧で残忍なアッパーカットで振り抜き、泥棒の顎の下を正確に捉えた。その衝撃は重装備の傭兵を地面から完全に浮かせ、彼が木樽の山に耳をつんざくような音と共に激突するまで、空中を後方へと吹き飛ばした。
ゴブリンは優雅に着地し、小さな手で棍棒をクルクルと回し、マーカスの影へと継ぎ目なく溶け込む前に、あざけるような、しゃがれた笑い声を漏らした。
チンピラは血を流し、砕けた顎を押さえながらよろよろと立ち上がった。彼の傲慢さは完全に消え去り、盲目的なパニックに取って代わられていた。
「ば、化け物め!」彼は路地を後ずさりしながらどもった。「この街じゃ酷い目に遭うぞ、よそ者! 酷い目にな!」
「そうだな。おやすみ」マーカスは気怠そうに声をかけ、歩幅を崩すことなく進み続けた。
数ブロック先で、彼は『燃えるゾンビ亭』に到着した。その施設は名前に恥じず、叫ぶアンデッドの形をした燃え盛る暖炉がメインの酒場を支配していた。マーカスは宿屋の主人に数枚のコインを投げ渡し、最上階の個室を確保した。
≪システムハブ:取引完了≫
支払額: 100ルーメン(宿泊・食事代)
現在の残高: 39,800ルーメン
部屋に入ると、マーカスは戦術装備を木製の椅子に投げ捨て、ベッドに倒れ込んで天井を見つめた。ゴブリンが彼の影から飛び出し、ナイトスタンドに飛び乗って、揺らめくろうそくを強烈な好奇心で見つめていた。
マーカスは長く息を吐き、頭の後ろで腕を組んだ。大会の登録が公式に締め切られるまで、正確に7日間ある。5つの致死的なAランククエストを完了し、Sランクの称号を取り戻し、天空の迷宮へのチケットを手に入れるための7日間だ。
それは厳しいスケジュールであり、普通の冒険者にとっては不可能な期限だった。だが、ベッドに散らばった手配書を見ながら、マーカスは暗闇の中でただニヤリと笑った。
彼はもはや、普通の冒険者ではなかった。彼は幻影の君主であり、彼のショーはまだ始まったばかりだった。




