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第8話 極悪非道の犯罪者



 疲れた上にウチらの部屋は2階だった。

 部屋のドアを開けるとベッドで座っているネルが鬼の形相でウチらを見てきた。


「え! なんなのよ! 出ていきなさいヨォ! ワキチたちの部屋だゾッ!」


「そうだ! 女子は他で別部屋あるだろ! ここは俺らの部屋だ!」


 ウチらはブーイングコールで、女子たちを退却させようとしたが、それは無力に終わることとなる。


「私まだ自由行動していいよって言ってなかったよね!!」


「あ……」」


「目的、忘れてないよね。もちろん調査してきたよね」


 クハパリはおどおどの手のやり場に困っていた。

 口論を避けようと、止めに入ろうとしていたのだろう。


 ウチらは少し間が空いたあと、ニアスと耳元で話した。

 なるべく聞こえないように。


「目的って……?」


「なんか情報集めんじゃなかったか……?」


「その情報が何かを聞きたいんじゃん……」


「知るかよ……」


「なんだよ知らないの? 役に立たねぇな……」


「お前だって知らないじゃねぇか……!」

 

「……」


 ウチらは悟った。諦めようと。


 ゆっくりと、動きを早くならない様に誠意を持って、腰は45度に曲げて。放った言葉は、「ごめんなさい」


 すると、ネルは肩を落として呆れ顔になった。


「まぁ、仕方ないか。私も自由行動しちゃダメなんて言ってないし」


(あれ、案外怒らなかったな。まぁ、反省はしないとね)


「じゃあ、私たちの情報を共有しとくね」


「ってかそもそも目的ってなんだ?」


「コウドウの騎士を探すことなんだよ。覚えといてよ、もぉ……」


 あ! 思い出した。

 そういえば目的ってコウドウの騎士をぶっ殺すか、五感者の中の視覚遮断者に会うことだったような。


 多分クハパリにはウチらの探している理由を遠回しで伝えている。

 流石に五感者とか教えちゃダメだしね。


「思ったんだけどさぁ、その目的って将来性に欠けるよね?」


 ウチらは頬杖をついて考える。

 この話はどこへ着地するんだ。


 すると、ネルは人差し指を立てながら顔を近づけてきた。


「みんなで叶えたいこと叶えながら逃げようよ! 逃避行だけが目的なんてつまらないから」


 ウチは再び頬杖をつく。

 あまりに抽象的な提案。

 頭を抱えながら考える。


 だが、ニアスは違った。

 ニアスは即答して、場を沈ませた。


「俺はもう決まってる。俺の村を滅ぼした海の主を倒す。それが終わったら、お前らともおさらばだ」 


「うわ、最っ低! 私たちと別れるのがそんなに嬉しいんだ!」


 ネルからのバッシングを受けて、ニアスは俯いて黙った。

 ウチはそれをカバーする。


「別いいじゃん。言葉のあやだろ? 逆に言えば、そこまでは付いてきてくれるんでしょ?」


 そういうと、次はクハパリが手を挙げて大きな声で発言した。


「じゃあ、私は昔助けてくれた人にもう一度会いたい!」


「こういう可愛いのでいいんだよなぁ」


 どこかのグルメな人のように、ネルがクハパリの可憐さに浸っているとネルが呟いた。


「シロは……もう決まってんのか」 


「え、何何!?」


 その呟きに、クハパリが興味を持ち前傾姿勢になるも――

 

「内緒ぉ!」


 ネルがムカつく言い方で教えなかった。

 ウチですらムカついた。

 だがクハパリは、口を尖らせるだけで、それ以外の反応は見せなかった。


「えー、ケチィ……じゃあネルちゃんはどうするの?」


「ね、ネルちゃん!? 私は……特にないかな。今こうやっていろんなところ冒険してるのが一番楽しいし」


「じゃあ、ウチが決めてあげるよ」


「はぁ? 何それ」


 ネルから聞いた情報は、五感者というのは現実逃避をしたい人だという。

 俺は異例だと思うけど……少なくとも、ネルはその人なんだろう。

 ネルが現実でどんな思いしたかは知らない。でもだったら、ネルには明るくいてほしい。

 だから……


「怒らないこと! 怒りそうになったら苦笑いでもいいから、笑うこと!」


「いつも怒ってるって言いたいのか?」


「ちげぇよ! ってか、そういうとこだよ!」


 頬を膨らませたネルだったが、クハパリとニアスが笑ったことでネルにも笑みが溢れていた。


 次にウチらは情報共有を行った。

 ベッドの周りを囲み、依然として、ウチらの部屋で会議ことに変わりなった。


「まず、教会にいたロードブルク兵なんだけど、やっぱりこの街に来てるっぽい。街のポスターにもギルドの掲示板にも指名手配書が貼られてた」


 指名手配書を書いたのは、やはりロードブルクだったのかもしれない。

 そして、ウチらが見たあの回覧板、あれもロードブルクが設けたものだろう。


 つまり、この街は国自体と強いパイプを持っているのだろう。


 そりゃ、ここは一応ロードブルクの領土ではある。

 ただ、人口はロードブルク一多い。


 早くこの街を去らなければ、兵士に捕まって再び檻の中に戻される。


 すると、クハパリが何かを思い出したかのように目を見開いた。 


「あーそう言えば、アガツマガツゴンザエモンさんって人が横に貼られてたなぁ。多分仲間とかだと思われてるっぽい」


 その名前は、身に覚えがあった。


「あ、それウチ」


「え? なんで?」


 クハパリは不思議そうに見つめてくる。


 この名前は新庄()の御前で発した偽名だ。

 その場にネルもいたから、今彼女はそっぽを向いている。


 アニメで見た感じ、偽名はあった方がいい。

 みんなはウチのことを“シロ”と呼ぶ。

 そう呼ばせている。


 街中でシロと呼び、偽名を使わなければ、即刻通報されるだろう。


 何しろ、ウチはこんなどこにでもいそうな顔をしている。

 そのおかげで、今通報されていないのだろう。


 この偽名は必要なことなのだ。


 そう、自分に言い聞かせる。

 だが、要らないよと心の天使が言っていた。


「しん……王様にそうやって名乗った。簡単に言うと偽名……?」


「クハパリのコリウスみたいな?」


「……そう」


 ニアスが例を出してくれた後、ウチは少し黙り込んだ末にぽつりと言いながら頷いた。

 

 そういえば、ネルはあの時真っ先に名乗っていたけど、本当の名前なのか?


 そう考える暇もなく、ネルからの情報が共有される。


「あと、ここに3人コウドウの騎士が来てるらしい」


「そういえば、コウドウの騎士って何人いんの?」


「本来は12人だけど、今は9人だよ」


 ウチがそう疑問を呈すると、ネルは普通かのように軽く答えた。


「は!? じゃあ3人ってめっちゃ多いじゃん!」


 コウドウの騎士。

 奴らの素性がどんな奴らなのか分からない。


 だが、ウチはてっきり、数いる兵士の中でも強い兵士が集まった集団で、数は300とかいるのかと思っていた。

 上級兵みたいな。


 だが、違うのだろう。

 おそらく、F○のソ○ジャーのような奴らだ。

 それだったら、剣の一太刀で天をも穿つだろう。


 そう考えたウチは、尿を催合うしたことによって焦りが出始めたり。 


「見つかったらやばいじゃん! 早くここから出た方がよくない?!」 


「いや、この情報が俺らにも来てるってことは、民間の人にも出回ってるんだ。ここで街の外へ出てみようもんなら余計に不審者扱いだ。ここはあと一日でもいいからステイだ」


 ニアスは冷静にそう言い放った。

 そして、ウチはその考えには全く至らなかった。


 確かにウチが考えた行動は、側から見たら不自然かもしれない。

 一般人にそんな細かな事を気づかれるか、とは思うが、折角仲間もできたんだ。

 こいつらの足を引っ張る真似はできない。


「で、それまで何すんの? この街、人が多いってだけで面白そうな商業施設ないよ……」


 ウチはまだ歳頃の子供だ。

 娯楽がなけりゃ飢えて死ぬ。


「ここにきた目的は人が多いことだし、それを活かそう!」


 ネルが人差し指を立てて提案する。

 ウチが腕を組んで首を傾げていると、ネルはそれを見越て高らかに声を張った。


「人が多いほど多種多様な依頼が舞い込んでくるギルドを使おう!」


 情報を動機にこの街へ来たが、見切り発車じゃなかった事実に感心してしまった。


――――――――――――――――――――――――


 それからは、夕食を食べて、今日は休むことになった。


 ここまで来るのに寝ていなかったからか、ニアスは目を瞑ってすぐに寝た。

 のび○君かな?


 でも、ウチは寝ることができなかった。

 正確にいうと、寝れはするけど、睡眠欲がない。

 ネルも多分……同じだ。

 原因はウチらが五感者だからだ。

 元から寝てる人に睡眠もクソもないし。


 ってか、ウチは何の五感者なんだ? ネルは……聴覚?だったよな。


 そういえば、ロードブルクから脱獄する時も、看守の足音にいち早く気づいたのはネルだった。


 なんで?

 

 考えれば考えるほど、目が冴えてくる。


(外の空気でも吸うか)


 ウチは音が出やすい木製のドアをニアスが起きないように慎重に引いて、部屋を後にした。


 廊下でもギシギシと音がして近所迷惑で申し訳なくなった。


――――――――――――――――――――――――


 屋上に出た。

 やっぱり夜は暗くはない。

 なぜか空が赤い色をしている。

 なんだか不思議な感覚だ。

 夜風にさらされると、変な気持ちになる。


「やるせない……」


 本音がぽろっと出てしまった。


 正直、ここに来るまで周りに流されてきた気がする。


 ネルに冒険しようと言われ、ニアスはウチも仲間に誘ったけど、クハパリにも護衛してって言われて。


 あまり、自分がしたい冒険とはちょっと違う。

 そもそも、こういう異世界ってなろう系だと、俺TUEEEなのに。

 それがウチの場合、犯罪者呼ばわりですわ。


 ウチはこの世界に幻想を抱いていたんだ。


 新庄のことは忘れてないよ?

 冒険は二の次だ。

 

 ――タッタッタッ


 ウチが愚痴を垂れてると、階段の方から足音が聞こえた。

 警戒して屋上と階段を跨ぐ扉に体を向けた。

 すると、ゆっくりと扉が開いてくる。

 扉が開くにつれ、ウチの警戒心も増していく。


(なんだ? 兵士の残党か?)


 そんなことを思ったが、完全に扉が開くとそんな心配は無と化した。


「やっぱり眠れない?」


 そこには星空を眺めながらウチに問うネルがいた。


 ウチは、鉄格子に寄りかかってた体を反転させ、ネルの方へ向かせた。


「五感者だからかな? 牧場でも全然眠れなかった」


「私も。冷蔵庫からファンタ取り出そうとしたけど、ここ夢の中だったわ。夢見心地ってな! ガハッ!」


 よくわからないネルのボケはともかく、ウチはもっとネルと話したいことがある。


「ねぇ、前から気になってたんだけど、なんでウチのこと仲間に誘ってくれたの……?」


 ウチは今、ウチなりに鎌をかけてるつもりだ。

 もう一緒に犯罪した仲だ。

 せっかくなら本音を聞きたい。


「……まぁシロになら唯一話せるか……いいよ」


 あれ?

 すんなりだな。

 こっからさらに鎌かけを展開するはずだったんだけど。

 ウチのライアーゲーム一瞬にして終わった。


「でも一つだけ質問させて。私たちって……友達?」


「もちろん」


「即答ね……」


 ライアーゲーム終了。


 ネルは呆れた後にクスッと笑った。

 俗にいうツンデレだろうか。


「私の実家がさ、太くて……私自身頑張ってたんだけど、裕福故に周りから妬まれてて……でも、家からはお姉ちゃんと比べられて、どこにも居場所がなかったんだ」


 そんな気はしていた。

 ネルちゃんと言われて、驚いていたのも、ちゃん付けが初めてだったからだろう。


「初めて友達ができてさ……嬉しかったんだよね。どこに行くにも一緒で、楽しかった。その子頭が良かったんだけどね……その……監視役でさ……家からお金もらって友達になってらしいんだよね……」


 それを聞いた瞬間、胸がキュッと締め付けられるような気がした。


 他人事だけど、自分がその立場ならどんな気持ちになっていたか。

 それが容易に分かるほど、胸糞悪い出来事。


「哀しくて……工業地帯近くの海に身を投げたんだけど……静かで、ずっとそこにいたいって思えるくらい安心できる場所だったんだ」


 皮肉な話だ。

 身を投げた場所が一番安全と思えるだなんて。


 ネルの境遇に比べれば、()()()()()()なんてクソみたいなものなのかもしれない。

 物理より、精神の方が脆いんだから。


「でもその前に、沢城神社で友達が欲しいって願い事したから、夢に来れたんだ」


「その友達がウチらってこと?」


「多分ね。実際、私の怪しい誘いに乗ったでしょ」


 なんか悲しい願いだったな。

 多分ウチと一緒に罪を被っても文句をあまり言わなかったのはウチを友達に選んでくれたからだろう。


 数秒の沈黙が続く。

 やっぱり辛気臭い話は嫌いだ。


 すると、ネルはゆっくりと口を開く。

 それでも、まだ言葉が詰まっているようだ。

 ゆっくりと深呼吸をし、固唾を飲み込んだ。


「でも……嬉しかった。一応……ありがとね」


「なんだよ“一応”ってぇ!!」


 そう言った瞬間、その場の空気が夜風に乗って消えていったように無くなった。


 そんな中、ウチらは笑い合う。

 おかしな話だった。


 そして、お互いに黙った。

 

 気まずいとかじゃない。

 言うことがないから何を言うか考えているんだ。


 だが、ウチにはある。

 とても重要で、ネルにとってはどうでもいいのかもしれない。

 でも、この場で言わなければ、もういうタイミングは逃したも同然だ。 

 

 だがそれは、切り出していいものなのか……

 普通はここで励ましたり、寄り添ったりするものだろう。


 でも、それは何か違う。

 何か足りない気がした。


「あのぉ!」


 覚悟を決めたウチは言った。

 拳を固く握り、言った。


「ウチら……ギャングになろ」


「は?」


 

 

       〜 第八話 完 〜

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