第7話 正義のヒーロー
太陽が真上に来た頃。
疲弊しきった末にようやくペザルティアの街に着いた。
ペザルティアは人口が本当に多かった。
入り口を見るだけで、視界のほとんどは人が占領していた。
人混みは苦手というわけじゃないが、うるさくて居づらい。
だから、早速掻っ攫ら……預かったクハパリの金で宿を取った。
宿の値段は一泊400ルト。
ルトは日本円と同じくらいの価値っぽい。
だとしたら破格のお値段だ。
俺とニアス、ネルとクハパリに部屋が分かれたんだけどね。
部屋はまぁ……綺麗とはいえなかった。
やっぱり一泊400円のホテルだよ。
ちなみに、ルトはこの世界のお金の単位。
一円=一ルトだから覚えやすい。
そして、暇を持て余した俺とニアスは早速探検に出かけた。
中高生が初めて見る景色はどれも目新しいものばかりだった。
――冒険者ギルドに来た。
このギルドでは犯罪者を捕まえることも仕事のウチらしいからな。
やっぱり、お尋ね者たるもの、敵情視察はしておこう。
中は酒場と同じような机が五、六個。
ここにも荒くれって感じのがたくさんいた。
「なぁ、敵情視察っつっても……俺、ギルドに入ってるっていったよな。戸籍情報とか見られたらまずくないか?」
酔った後は弱気なニアスが見れた。
考えすぎは良くない。
そのせいでバレていなかったのに捕まった犯罪なんてものはわんさかあるだろう。
ウチはニアスの背中を叩いて元気付けた。
「大丈夫でしょ。なんか情報伝達能力疎そうだし。現に追われたことは二回しかないし。その一つはウチらの不祥事じゃないし」
「追われる事が二回は多いんだよッ!!」
ずっと入り口の前で駄弁っていたから、受付嬢がウチらに話しかけてきた。
「あの……何か御用ですか?」
騒がしくしてたからか、ウチらに対する受付嬢の表情は苦笑い。
どうにかして笑顔でいることをキープしようとしているのがバレバレだった。
すると、表情を「スンッ」と変えたニアスは笑顔になって振る舞った。
「何かしにきたってぇわけじゃないんですけどぉ……そうですね……ギルド解散の手続きをお願いしてもいいですか。」
安心したのか、受付嬢の苦笑いが本当の笑顔に変わった。
「はい。ではこちらへ」
そして、手で受付を指し、ニアスを案内した。
その受付嬢にニアスがついていく。
そういえば、なんだっけか?
海の主みたいなのがニアスの村の人を襲ったとかいってたけど、その村の人と一緒にパーティ組んでたのかな。
ほとんど亡くなっちゃったらしいけどね。
(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……)
目を瞑り、お経を唱え、再び目を開けると、回覧板のような板がドア前に設けられていた。
(ん? ちょっと見てみよ!)
興味があったため、その回覧板に顔を覗かせた。
――――――――――――――――――――――――
wanted!!
名前 マダグ
懸賞金額 1200000ルト
特徴 黒の短髪
結構イケメン
右手の人差し指、中指に指輪
おそらく装石具
wanted!!
名前 フォーゲット
懸賞金額 152000000ルト
特徴 白髪短髪
ちょっとイケメン
右目白色、左目黒色のオッドアイ
wanted!!
名前 マリンフォートナ
懸賞金額 800000ルト
特徴 茶色寄りの黒髪ちょいロング
イケオジ
可愛い赤さんを連れている
――――――――――――――――――――――――
その回覧板には指名手配が貼ってあった。
しかし、大雑把すぎる手配書。
紙の左下にはロードブルク国の紋章があった。
装石具という単語に目が入った。
装石具? 聞いたことがない。
他の受付嬢を呼び付け、聞いてみた。
「アビリティが宿った武器のことです。使えたり使えなかったりします」
受付嬢は簡単にそう言い去っていった。
よくある魔道具のようなものなのだろうか。
そして、使えたり使えなかったりする。
エクスカリバー的に言えば“選ばれし者だけが扱える”ってか。
いつかは使ってみたいと思いつつ、他の項目に目をやる。
そして、一際目立つ場所に貼ってあった指名手配書は全員イケメンと書かれていた。
(これ書いた人の主観だろ……)
そんなツッコミを心の中で入れつつ、内心はここに自分も載れたらな、と思うのだった。
そこで、ウチは心当たりができる。
(あ……このフォーゲットってやつ……牧場で会った奴じゃね?)
モーレン牧場であった謎の青年。
確か、牛の柵の中に入っていたところをウチが注意した事で喧嘩が勃発してしまった相手。
特徴は……残念なことに全部一致してる。
くそッ!
こいつ指名手配犯かよ!
せっかく気絶させたのに!
本来なら1520万円がウチの手元に……!
いや、告発したらウチも捕まるか。
すると、横から湿った手で肩を叩かれた。
「おい! そこの君! ちょっと路地裏まで来てもらおうか!!」
(や、やばい……ウチが犯罪者ってことがバレたのか……!? って! なんだこいつ!? 全身が緑色だ。しかも何か膜に覆われている……)
人かどうかは分からない生物がそこには立っていた。
路地裏への呼び出し。
何かしたかと聞かれれば、真っ先に覗きの罪が思い浮かぶ。
「な! なんだよ……売り込みなら他所でやってくんねぇか……」
「はぐらかすな!いいから来てもらおう!ここじゃ危ない!」
「わ、わかったよ!」
――――――――――――――――――――――――
ウチは威圧的なあいつにすこーし怯えながらついていった。
人気のない裏路地に着くと、あいつは口を開いた。
「大犯罪者よ! この俺がもう来たからには、お前を必ず捕まえる!」
(やっぱバレてたか。いやでも、大犯罪者って……)
こいつは、確かに言った。
大犯罪者、と。
つまり、どこまでかは分からないが、少なくとも、ロードブルク全域にはウチらが犯罪者ということがバレているらしい。
街中を歩いていても、そこまで声はかけられない。
大々的にはバラしていないのかもしれない。
だが、このロードブルクで襲われることは確定した。
それにしても、こいつそんな有名なのか?
この俺、と自称しているくらいだ。
中堅クラスに違いない。
「お前、何者だ……!」
夢世界で、アビリティ持ちは馬鹿にならない。
この見た目、圧倒的にアビリティによる異形。
ウチの問いに、奴はポーズを構えながらこう答える。
「海ぶどうの素晴らしさを伝えるために! 美しい海からやってきた! 正義のヒーロー! 海ぶどうマンだッ!」
「え……?」
こいつ、今海ぶどうって言ったのか?
聞き間違いを疑ったが、今確かにそう言った。
この緑色の卵みたいな見た目は海ぶどうなのか!?
「捕まえられる前に何か言い残すことはあるか!」
何だか吹っ切れてしまった。
命のやり取りをすると思ったら、こんなアホらしい男が出てくるとは……
ウチは顔を叩き、気持ちをリセットした。
「はッ! やってみろよ!」
フォーゲットって奴を倒したから調子にも、挑発にも乗った。
「そうか……抵抗する気か……やむを得まい! 少々手荒で行かせてもらうッ! てりゃぁぁ!!!」
そういうと、奴はこちらに向かってくる。
だが、一大人とは思えない走りだった。
(なんだあの走り方。ってかあいつなんてった? 海ぶどうマン……? モチーフが限定的すぎる)
絶対に子供受けしなそうな緑の物体、海ぶどうマンは右拳を高く上げる。
だが、その拳も、強そうには見えない。
「くらえ! 海葡萄パァァァァンチ!」
(軌道が読めやすいな。いい年した大人じゃないのか? へなちょこパンチにもほどがある)
そう思い、軽く捌くと――腕が発射された。
(え?)
――バチャ
そんな音を立てて、ウチの顔に命中した。
海ぶどうマンの腕は海ぶどうの一粒。
海藻と粘性を持ち合わせる液体は、ウチの視認能力を奪った。
「は!? 何だよこれぇ! 見えッねぇ!」
ウチは海ぶどうマンを手探りで腕を振り回す。
その隙に顔の側面から何かが飛んでくる。
痛くはない。
だが蹴りだろう。
何となく分かる。
海ぶどうだから痛くないのだろう。
蹴られて、地面に叩きつけられた。
ウチはすぐに体を起こし、距離を取った。
服で目を拭い視界を確保する。
(見えた!!)
ウチも蹴り返す。
すると、海ぶどうマンは緑の汁を吐き出しながら悶絶して倒れた。
瞬殺だった。
呆気ないほどに。
所詮身体は海ぶどう。
守備力は欠片もない。
だが本当の海ぶどうなら、割れてたと思う。
大人一人分以下の戦力だ。
「なぁ、お前ヒーロー向いてないって」
海ぶどうマンは地を這いながらウチの言葉に耳を傾ける。
そして掠れた声ながら必死になって訴える。
「向いてる……どうこうの話じゃない……! 人の……意思は、人の意思は……世界すら変える動力だ……! それがある限り、どんな奴でも――ヒーローになれる……! だが、ここで諦めたら……今日を眠れない……子供が、困るじゃないか……」
何を言いたいのかは分からない。
だが、こいつもこいつなりに強い意志を持っているらしい。
ヒーローになりたいという意志だろうか。
だが、何か勘違いをしている。
勿論、犯罪者として追われてはいるものの、意図して行った行為じゃない。
「だーかーらー! ウチは冤罪をかけられてるだけなの! ……まぁ、冤罪じゃないか……でも、意図していない! ってかウチも子供だしぃ!」
「ん? それを許したら、誤殺も合法じゃないか……?」
「ここの常識はどうなってんだッ!」
ウチは横に聳える壁を叩きながら恫喝した。
倒れ込んでいる海ぶどうマンは、それでもよく分かっていない。
「とにかく、ウチは子供に危害を加えないって事!」
「犯罪者の言うことを誰が信じるか……この変態さんめ……!」
“変態さん”という単語に、少しピキッとしたウチは、反射的に眉を上げてしまう。
「その言い方やめろ! じゃあもういいよ! そこでずっと寝そべってろ! このタコ!」
ウチはそう言いながら路地裏を出る。
ポッケに手を突っ込んで、怒りをなるべく外気に漏らさないようにするのだった。
「――海違いだ……!」
変なツッコミが路地裏から聞こえたが、それを無視して大通りに出た。
ウチはニアスと合流するために、彼を探す。
――――――――――――――――――――――――
(あー、もう疲れた。宿に行こう……)
そんなことを思っていると、大声で何か声掛けをしている声が聞こえた。
辺りを確認するとニアスがいた。
どうやらニアスがウチの名前を叫んでたらしい。
「シ……あ! やっと見つけた。おい! どこ行ってたんだ! 手続きはすぐ終わったのに、どっかで油売りやがって……」
「なんかヒーローに喧嘩ふっかけられた」
「ヒーローは喧嘩吹っかけねーよ」
「ウチのこと犯罪者って知ってたらしいよ。声かけられたときに、おい! はんざいしゃーって言ってたし」
「それでついて行ったのか? もウチょい、はぐらかせなかったのか?」
「もういいじゃん。もう宿いこ。疲れた……」
「しゃぁねぇなぁ」
夕陽がこの街に差し込むぐらいの時間帯になった。
ウチはニアスの隣を歩く。
彼は何者だったのか。
何故あんな姿なのか。
知りたい情報も得られないまま、宿へと戻る。
〜 第七話 完 〜




