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第9話 蟹が如く



「ウチら……ギャングになろ」


「は……?」


 ネルは空いた口が塞がらない。

 あまりの軽すぎるカミングアウト。


 だがギャングというにも語弊があるのかもしれない。


 ウチは説明するように言った。


「ウチらは、ロードブルク兵の一部に顔が割れているんだ。多分、写真を撮るようなアビリティを持っている奴がいるのかも」


 ネルはやはり呆れ顔だ。

 おそらく、今さっきの発言とは別に、そんなアビリティ持ってる奴がロードブルク兵の中にいるか、と思っているんだろう。 


「……ま、まぁ。あいつらは、なんらかの方法でウチらの情報は取れるだろう? だったら……あれ?」


 ネルの表情が歪んだ。

 批判したいのか、どこからツッコミを入れればいいか迷っているのだろう。

 というか、どちらともだろう。

 腕を組みながら、頭をこねくり回しているのが動かぬ証拠だ。


 だが、ネルの表情は批判の顔になった。

 そして、ウチの止めた話に難をつける。


「いや、人殺すの?」


 前述の通りだ。

 「ギャング」はちょっと語弊があるな。

 なんていうんだ?


 ウチは言葉をまとめるため、脳をフル回転させた。


「まず、ギャングってほど酷いことはしない! カルテルもやらないし、誓って殺しはやりません!」


 どこかの極道のような言葉を吐く。

 ネルはまだ理解していないような顔をしている。

 無理もない。


「じゃあ、なんでギャングなんて言ったの……」


「前提として、ウチらは犯罪者。覗きに関しては“大”がつくほど重罪らしい」


 人殺しとして指名手配されてるニアスよりも、女の人の裸を見てしまったウチの方が死刑。

 何か裏があるかもしれない。


 だが、ここは思いを噛み締めて我慢しながらウチは続きを話す。


「そんな犯罪者達が結成する団体だから、ギャングっていっただけ。大体、他に言い方があるならそっちで呼んでるよ」


「んじゃぁ、極道はどう?」


「日本っぽく言っただけだろ?」


「でも、ギャングは筋は通さないよ?」


「そういう問題じゃないだろ……」


 ウチは肩を落としながら言った。

 この世界はあまり日本っぽくないから、ギャングの方がしっくりくる。


 それに――


「ウチらの目的は無実の人との接近、保護だ。今までだってそこから仲間になった。もしかしたら、強力な仲間ができるかもしれない……!」


 友達が増えるかも……!

 仲間が増えたら、コウドウの騎士ぶっ殺作戦何て尚のこと、ロードブルクに乗り込むことさえ出来る。


「いやいや!? 人がいっぱいいたら余計に組織崩壊に繋がりかねないでしょ!? 犯罪者なんだからコソコソ生きて行こうよ!」


 ネルは必死に手を振りながら弁明する。

 ネルの考えも分かるが、ウチだって考えはある。


「確かに、裏切り者が出たら組織は壊滅するかもしれない。でも! ここは誰もが皆、力を有することが許される世界! 日本とは違う、数が力になる世界だ!」


 元々、ウチは退屈していたのかもしれない。

 安全が保障される代わりに自由が制限される。

 悪い話ではないが、退屈だ。


「その裏切り者が出るから言ってんでしょ!?」


 だからウチらはゲームで刺激を補っていたんだ。

 今際の際、痛み、後悔、憎悪、疑心。

 ゲームで味わえない刺激がここにある。


「裏切らせはしない。それを見極めてから誘う!」


「……、うっ…………わかった。」


 ネルの言葉にウチは感極まった末、奇声を上げながら喜んだ。


「ただし! 遊び気分はダメ! 最大限リーダーの器に恥じない行動してよ?」


「え……嫌だけど……」


「じゃあリーダー私がやっちゃうよ?! 良いんだね?」


「いいよ」


 ネルは何とも言えない顔をした。


――――――――――――――――――――――――


 翌朝、眠らなかったけどやっぱり眠くなかった。

 あの後、結局ネルがリーダーになった。

 本人的にはウチにリーダーとしての立場を弁えさせるための冗談だったらしいけど。

 嫌々じゃなかったし良いよね。


 あと、組織名もめっちゃ考えた。「聖なる犯罪者」とか、「犯罪者予備軍の班」とか。

 色々考えたが結局決まらなかった。


 ま、組織名は後々考えるとして、まずは組織金を集めるために金稼ぎだ!


 そう意気込んだは良いものの、依頼金は結構少なかった。

 いや、多いことは多いよ?

 二万ルトは多いんだけど……四等分……もっといけばウチの手元には残らないで、ずっと宿代でやりくりさせられるかも……!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「……うっせぇよ」


 ニアスはウチに耳を塞ぎながら言った。


 今回来た依頼は村の周辺調査。

 どうやらノトベリート村という長閑な村での調査だ。

 

 草木は生い茂っており、川も流れる最高に田舎な村だったはずが、いつからか植物は枯れ、川からは汚い水がどんぶらこと流れ込んでくるらしい。


「近づくだけでやばいような感染型の菌とかあったらどうしよ」と思った村の連中が依頼したらしい。


 いや、命奪われそうって警戒してるのは村の連中だってのに、依頼金と内容が見合ってねぇんだよ!


 ――とニアスに話すとこう言われた。


「仕方ねぇよ。入りたてはみんな一番下のランクだ。そのランクの範囲で一番高い仕事がこれだったんだ。ダンジョン探索だったり、指名手配犯の逮捕だったり、その手の仕事は手っ取り早くねぇんだよ」


 前任者の知恵だ。

 ニアスもギルドに入っていたらしいからな。

 そこで得た教訓だろう。


 ウチらは川の水源地を辿って歩いた。

 紫色の入浴剤でしか見たことないような水の色をした川は心が安らがなかった。

 変な匂いもした。


 途中飽きて、しりとりとか、グリコとかしてようやく水源地に着いた。


――――――――――――――――――――――――


「何だ、あれ……」


 ウチらが見たものは水源に根を張るかのように聳え立つ結構デカめの機械だった。

 ウチらは興味本位で近づいた。


 白黒の縞模様柄のハイテクな感じとしか感想がなく、強いていうなら、うるさいだの、臭いだのと言った具合の機械だ。


「――っ!」


 クハパリが息を呑んだ。


「どうした!?」


 ウチらがクハパリの方へ歩くとクハパリが言った。


「これ、ロードブルクの……」


 その瞬間、草むらからゴソゴソと音がした。


 その草むらから即座に距離を取ったウチらは静かに音の正体が出てくるのを待った。


「あ……」


 中から出てきてそう言ったのは、白衣を着た高身長の男だった。

 ウチらが唖然としていると、奴は再度草むらへ逃げていった。


「何だったんだ……? 今の?」


「この機械の持ち主っぽかったよ……?」


 静寂が続くと、ニアスが言った。


「――っ! お前ら逃げるぞ!」


 その瞬間、木が揺れ始め、そこに巣を作っていた鳥たちが、逃げていった。


 すると現れたのは、どデカい機械に乗ったさっきの男だった。

 その機体はウチらが顔を上げなければ見えないほど大きく、四肢がある人型の巨人兵と言うべきほどだった。


「全ロードブルク兵に告ぐ! 覗き魔アガツマガツゴンザエモン、ネルと、預言者コリウス、殺人鬼ニアスをノトベリート村付近の川にて発見! 付近にいるものは今すぐ出動せよ!」


 ニアスたちは背を向けて走った。


「ダメだ! 逃げるな!」


 ウチは逃げたニアスたちを止めた。

 わかっている。

 戦略的撤退だということを。

 この状況ではプライドがものを言わないことを。


 だが、ここで逃げたら一生成長できない!

 

 ウチは見たい。

 こいつらがどんな戦闘をするのか、一体どれだけの死戦を乗り越えてきたのか。

 元の目的は関係なく、ウチはこいつと戦いたい。

 俺は、この場から逃げたくない。


「は!? 何でだよ!?」


 俺はその問いに答えなかった。

 何故なら答えるより先にニアスたちは理解したからだ。


「相手はコウドウの騎士だよ!?」


「そんなん知ってるらしいよ? こいつは!」


 正直知らなかったという事は、口にはしない。


 ニアスは、それを苦い顔をしながら分析して忠告する。


「お前ら、ぜってぇ攻撃は喰らうなよ。あいつの一撃は重そうだ。治療費がザラにならねぇ」


(今更治療費の心配かよ)


 そう思いながら、ウチは拳を握りカンケルという奴の機械を睨む。


「さぁ気張ってけ、みんな! あいつはっ倒して、部品売っぱらってやろうぜ!」


 機械から顔を覗かせたカンケルは、高みの見物でウチらを見る。


「お初にお目にかかります。コウドウ騎士が一人、カンケルと申します。以後はありませんが、よろしくお願いします」


 カンケルの機械は巨大な腕で俺らを振り払った。

 だが、その攻撃は単調で遅かったため、すぐに避けることができた。


 身体を横に滑らせバランスをとっていると、カンケルの機械は池を一歩で通り越した。


(デカすぎんだろ――!) 


 すると、鉄のような拳を繰り出してきた。


 俺は反射的にそれを殴った。

 だが、骨まで振動がくるほどの強度で、腕が反射されてしまった。


 クハパリを呼ぼうとした。

 だがいなくなってた。

 いつの間にかネルもどこかへ行った。

 現状ニアスと俺しか戦っていなかった。


「ッチ、近くに川があるって言うのに何だよこの色……気味悪り……」


 そう言うニアスは焦燥感に駆られていた。

 俺はその発言であることを思いついた。


「ねぇ! 池の中に落とすのはどう!?」 


 そうだ。

 川の先、そこには池がある。

 そこが水源地だった。


 あの巨体が入るほどの大きさがある気がする。


 そこに落とせれば、攻撃としては強いだろう。


「落とせるかぁ!? 落とせたら万々歳だけどなぁ!」


 もし、池に巨人を落とすことができたなら、行動を封じることができるはずだ。


 それでも、まだ確証は得ていなかった。


「ねぇ! ウチもここは任せたぁ!」


「はぁ!?」


 ウチはニアスにその場を任せ池に向かって走った。

 

 攻撃はニアスが受け止めてくれているが、なるべく早く戦線復帰したい。


(死ぬなよ……ニアス……!)


――――――――――――――――――――――――


(攻撃対象変えようかな……)


 いやいや、何も考えるな。

 今はシロが何かを確かめるまで待たなきゃならねぇんだ!


「君は強いねぇ。どうだい? ロードブルク兵認定試験を受けては見ないか?」


「受けるわけねぇだろ、ばぁか!」


「残念だね。今年は粒揃いだって言うのに」


 奴は今、俺の思考を乱そうとしている。

 だが、好機だ。

 上手く口車に乗せられているふりをして、シロが何かを確かめさせるんだ。


「では、これはどうかな?」


 そういうと、カンケルは腕を変えてハサミのような形になった。


「え゙!?」


 巨人はハサミで攻撃してきた。

 思考を乱そうとしているのはわかっていたけど、攻撃はするのかよ!


 ギリギリ避けることはできたが……さっきより早い。

 ……となるとこれは長期戦ではなく、短期戦だ。

 あとの体力は考えず、避けることを考えた方がいいな。


 すると、カンケルは頭に金属の輪っかを被った。

 そして、目を瞑る。


 ニアスは観察していた。

 そんな時に取られた行動だった。

 何をしているのか皆目見当もつかない。


「君は今、疑問に思っているね? 今さっきの会話をこいつも聞いているはずなのに、何故アガツマガツゴンザエモンを止めに行かないのか……と。」


 何だ!? 自分の考えを相手に伝えて煽っているのか? 何が目的だ……。


「ふっ、確かに当たっている。だが、当たってない部分もあるぜ」


「ん? おかしいな。そんなことあるはずないのに……また失敗か? キシリシの術式は難解だなぁ」


 キシリシ?

 そいつのアビリティを模倣して作ったのか?

 コウドウの騎士の中にそんな奴はいないよな……?

 ただ単に知り合いかもしれない。


「まぁ、いいか。マーク2、発動!」


 カンケルがそう言うと、巨人兵の足は蟹のように尖った足が何本も出てきた。

 その足でこちらに向かってくるが、速さが先ほどの速さよりも速くなっていた。


 やばい。

 機動力はこっちが上だったのに。

 こうなったら一旦撒くか。


 俺は森に向かって走った。

 森の木々のおかげでカンケルは俺を見失った。


 だが、カンケルはその鋭いハサミで木々をバッサバッサと切り倒していった。


 遂には、でかい岩をも切り刻む。

 彼の持つ鋏の切れ味は一線を角すだろう。


「うっそ……」


 そして――再び見つかった。


「はははっ! どこまで足掻けるか見ものですねぇ!」


 完全に舐めてやがる。

 だが、こいつ思ったほど強くない。

 俺が聞くには、コウドウの騎士はスピードが尋常じゃないやつや、周囲にいただけで殺せる、なんて奴らの集まりだと聞いていた。


 やれるのかもしれない――そう思っていた。


――――――――――――――――――――――――


 ――はぁ、はぁと息を切らしながら走ってペザルティアへ向かうのは、クハパリだった。


 彼女は戦うことはできない。

 誰かを呼びに行ったのだ。

 誰かとは、誰でも良かった。

 ただ、戦える人であれば、誰でもよかった。

 ロードブルク兵であろうと、クハパリを目の敵にしていようと、シロ達が無事でいられるのであれば、自分が捕まることは厭わなかった。


 彼女は走った。

 何も考えずに走って戦闘経験のある誰かに助けを求めるまで、自分が出せる最高速度を維持し続ける。

 転ばないように、歩速を落とさないように、彼女は走った。


 息は切れ、手をぶらんぶらんとさせながら走ってしまっていたが、その疲れているということが目に見えるその行動は、確かにペザルティアに近づいている証だった。

 それだけが、彼女の心を突き動かす。


 ペザルティアの門を越えても、まだクハパリは足を止めない。

 街の住民に戦えるかどうかを聞いて廻る。


 ――だが、いない。


 この街の住人が言うには、誰もこの街に強い人なぞいなかった。

 冒険者ギルドにいた奴らも、今日は遠征で「化け物」を狩に行っている。

 他の街の冒険者ギルドも、その化け物の遠征に足を運んでいた。


 この街には、誰もいない。


 ――そう諦めかけた瞬間、緑色の何かを見た。

 これを人間と呼ぶには少し違う気もする。

 しかし、人の形をした化け物には見えなかった。


――――――――――――――――――――――――


 ――クハパリが誰かを応援を求めているとも知らず、シロはある検証をしていた。


 ウチが確かめることは一つ。

 “この水に触ってもいいのか”だ。


 ニアスが池の水を使わないのは、池の水に警戒しているからだ。

 この変な色。

 これが警戒心を研ぎ澄ましている。


 池の周りに設けられた機械。

 あれから出る液体がこの池の水を汚染している。

 

 一瞬の選択肢に直で触るという項目が現れたが、すぐに却下した。

 得体も知れない液体だ。

 触れただけで即死ってのもあり得る。

 だからニアスが触らないのかも。


(よし……)


 ウチは池に着いた。

 近くにあった木の棒を池に投げ込んでみた。


(――何も起きない……? 成功だよな……よし!)


「ニア――」


 ニアスを呼ぼうとした次の瞬間、ウチは見た。


 カンケルの巨人兵の手は何かを掴んでいる。

 そこから、何かが顔を覗かせる。


「シロ……逃げろ……!!」 


 カンケルに捕まったニアスの姿が、そこにはあった。

 


       〜 第九話 完 〜

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