第44話 イレイブン
「――裏切り者について」
シルベルがそう言い放った次の瞬間――王の首に七方向から危険が指していた。
ある者は剣を首に触れさせ、ある者は鎌を首の後ろへ持っていく。
中には拳を振り上げる者もいれば、ただ王を見つめる者もいた。
7人のコウドウが王を死の間合いに捉えていた
だが、その7人ですら、王の首は落とせなかった。
(斬られるはずがない)
シルベルは圧倒的な確信を持ち合わせていた。
今の状況――それは、誰も想定していなかった最悪の事態。
恐るべき事態。
それが今、シルベル王の口から発せられたのだ。
「おいッ!!」
獅子のように怒声を上げながら王の首を鎌で掠めるのはレオ。
彼の腰には大きな尾があり、座っている椅子から垂れ落ちている。
レオは殺気を放っていた。
勿論、シルベルは殺されないという確信を持っていた。
だが、一寸でも動けば殺される。
そんな殺気だった。
シルベルはそれを静かに見つめている。
「王様……マジで言ってんのか?」
鋭く王を睨みつけるレオは、机に足を叩きつける。
皆は何も言わない。
普段なら、リブラが最初の発言者となるからだ。
だが今ここにリブラはいなかった。
そしてコルヌスも。
この場には王を含めて十の騎士しかいなかった。
この場の全員は静かに狼狽する。
ロードブルクが最後の砦――コウドウの騎士がだ。
「でなきゃ、シロは脱獄できるはずがない」
王の首を狙っている者、そして狙っていない者。
各々が顔を見つめ合っていた。
それはまるで、お互いを監視し合っているかのように。
王はレオの顰めっ面を見て一呼吸を入れた。
その瞬間、全コウドウは再び王へと意識が集中する。
すると王は、コウドウの騎士の一人――ヴィルゴへ目線を向ける。
それに気がついた彼女は、誰にも聞こえない、小さな声を発した。
「それは――正しくないわ」
優しく静かな声で、ヴィルゴは他のコウドウの騎士達を宥める。
コウドウの騎士はたったそれだけで意思を曲げるような連中ではない。
だが、気がついた時にはすでに椅子に座っていた。
「なッ……!」
王の首を狙う者は狙う意思すらもなくしてしまった。
もう立つ必要がないと思ってしまったのだ。
「チッ……おいヴィルゴ、ふざけんな」
「だって、正しくないもの……」
荒々しいレオを、説明にならない言葉でヴィルゴは宥めた。
美しく、優しい少女ヴィルゴは、その見た目、内面とは裏腹に凄まじく強力なアビリティを秘めている。
コウドウ達は、これがヴィルゴの仕業であることを即座に理解する。
すると、王はコウドウ達の予想外な発言を聞かせた。
「私はお前らを信じている」
今までのやり取りからは出るはずがない言葉だった。
この場の全員も目を丸くする。
だが、何故だか疑心は湧かなかった。
ただそこに残るのは、深い信頼と高揚。
この場の全員がそれを感じたのだ。
コウドウ達は思わずニヤけてしまう。
昔のシルベルが今も顕在かのように。
シルベルは机に肘をつかせて両手を握る。
親指で爪を摩った後、彼は目を瞑る。
「今、この状況で、考えられる裏切り者は――ロードブルク騎士団兵長・ペノムリッヒだ」
そう告げた瞬間、王への視線はなくなりコウドウ等の瞳にあるのは漆黒だけだった。
ペノムリッヒはコウドウ達からも一目の信頼を置かれていた。
だが、そのペノムリッヒが裏切り者。
(王がそう言うのなら、そうなのだろう……)
皆がそう思った――ただ一人を除いて。
ゲミニだけは目を細めた。
(嘘をついている……)
だが、皆は知らない。
この中に、呼吸が乱れた者がいることを――。
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会議の後、静寂が広がる廊下にて怪しい人影が二人、交差する。
照明は薄暗く、光は差し込まない。
その他に人影はなく、その空間は二人だけの場と化していた。
「どうだった? ペノムリッヒ……」
「着々と、進んでおります――」
怪しく淡々と言葉を交わす。
ペノムリッヒの敬礼によってハルバードが擦れる金属音が廊下に鳴り響く。
それによって二人の緊張が増す。
「ですが、何であのニアスとアガツ、それにネルを、旧ロードブルクの牢へ送れ、と?」
ペノムリッヒが言葉を交わす相手は、一瞬言葉が詰まる。
だが、何かを決心したのか、ゆっくりと口を開いた。
「王様は誰かに操られている。その為には、アガツ、あいつを使わなければならない」
そう言われたペノムリッヒは何かを思い出したかのように声量を急変させ、荒々しい声を上げた。
「話が違うじゃないですか! もしかして、またアビリティを使ったのですか!? ダメですっ! 目が壊れてしまったら――」
「それだけじゃない! アガツは――あの子と一緒にいた! それが『見えた』の……」
柔らかい口調で話す人影はそう言い残し、闇の中へと消えていく。
ペノムリッヒは一人廊下の中で、唇を噛み締めながら立ち尽くすのだった。
〜 第四十四話 完 〜




