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第39話 ステラ


 


「エザスタ……」


 この部屋での戦いは終わりを迎えた。

 みんな勝利した。


 だが、エザスタだけが重症だ。


 そんなエザスタの下に、マダグが駆け寄った。

 予想していた……のだろうか。


 仲間がこんなにも重傷だというのに、マダグは顔色ひとつ変えなかった。

 いや、これも信用なのかもしれない。


「ごめん、マダグ。私……守ってあげられなかった」


 ネルは通り過ぎるマダグを横目に、自責の念に駆られていた。


 エザスタが先走ったり、油断していたことの結果でもあったが、それでも一緒に戦った。

 ネルを責めることはないにしろ、ネルが自分を責めることには、誰も否定ができなかった。


「こいつの責任だ……」


 マダグはそう言った。


 その同情によって、場の空気は最高に辛気臭くなった。


 気まずい、ギスターナはネルがそう思っていると予感すると優しく声をかけた。


「何でこんなにどんよりした空気を帯びているんだ……?」


 “優しく”というより、恐る恐るというべきだった。


 ネルは少し、腹が立った。

 こんなにも考えているのに、ギスターナが空気を壊す。

 まるで、ネルの仲間にいる問題児の様だった。


「何でって! 私のせいで……」


「え? いや、死んでないからな?」


 ギスターナは鼻で笑い、それでも何とか笑わないように口を塞ぐ。

 漏れ出た鼻息は不快感を漂わせる。


「へ……?」


 それでも、ネルはギスターナが何を言っているのか分からない。

 ただ、ギスターナが気持ち悪く笑っただけに見えていた。


 マダグは二個の指輪を外す。

 そして、指輪の縁を広げようとする。


 指輪は脆いのか、安物なのか、あっさりと広がった。


「ちょ、ちょっと……何やってんの……?」


 マダグは、「まぁ見てろ」と言わんばかりの顔で広げた指輪をエザスタの失った足と腕に嵌め込んだ。


 ブチュっという音が聞こえる。

 肉にめり込んだ音だった。


 鳥肌を立たせて見ていると、エザスタの四肢が生え始めた。


「これは装石具だ。“引導式”な」


 ネルはそう言われると、ホッと胸を撫で下ろし安心した。 


「それにしても……ぶくっ! し、死んだと思ったのかッw?」


 終いには、ギスターナが腹を抱えて笑っている。


「あんだけ疲労困憊な人を労らない方がおかしいってもんでしょ!?」


「疲労困憊なんてもんじゃなかったけどな」


 ニアスは若干引き気味でそう言った。


(何だか心配していた私が馬鹿みたい……)


 ネルがそう思っていると、それに勘付いたギスターナは嘲笑の笑みをやめた。


 それと同時にエザスタの目が覚めた。

 今は目が虚だ。

 だが、時間が経つにつれはっきりとしてくるはずだ。


 と、思っていたら、目をキッパリと開かせてマダグに言った。

 

「もしかして、その指輪、使わせちゃったか? ……ごめん」


「俺がずっとハメて、使わないより、お前に使った方がずっといいだろ?」


(マダグの指輪はお洒落のためにはめていた訳ではないのか……)


 話を聞く限り大事な物そうだったけど良かったのだろうか。

 そう思っていると、マダグはエザスタの背中を押して言った。


「その代わりに、前よりもっと働いてもらうからな!」


 これがリーダー。

 ギスターナの方がリーダーっぽいが、メンケアもしつつ後味もスッキリさせる。

 何となく、こいつのリーダー格を掴めてきたかもしれない。 


 そして、その場の空気を流すように、先へ進むよう促した。

 ニアス達はクハパリとコクバを助けに、先を急ぐ。


――――――――――――――――――――――――


 遂に最奥の部屋に着いた。

 ここにクハパリ達がいるはず。


 虱潰しだが、道中の壁や床はなるべく見てきた。

 逃走経路とかあったら面倒だからな。


 なんか途中で穴があったが……クハパリ達を連れて行かれたわけではないだろう。


 コクバさんは怯えているのかもしれない。

 だが……クハパリはどうだろうか。


 勿論、不安ではあるだろうけど、相当の問題がない限り、狂乱と化すまではいかないだろう。


 そして、ドアの前に立った。


 ニアスはみんなの顔を見合わせて頷きあう。


 ここから先に、ヌベツミがいるのかもしれない。

 司教がいないことは、エザスタが知っていた。

 何故知っているのかは分からないが、嘘をつくような奴には見えない。


 ニアスはドアノブを握ってドアを開ける。

 が、鍵がかかっていた。


「誰……? 別の信徒……?」


 クハパリの声だった。

 忘れるはずがない。


「俺達だ! ニアスだ! 待ってろ! すぐ開けるから!!」


 ニアスはすぐに解錠して、ドアを開けた。


「よし……! 大丈夫か、クハ――」


 ドアを開けた先には、クハパリとコクバロッテスがいた。

 彼女らはベッドの上で不安な顔をしていた。


 だが――


「オオオオォォ〜……ニアスぅぅ!!」


 ――シロもいた。


 シロの顔はグチャグチャだ。

 鼻水を垂らして、涙も流して。

 この場で一番不安な顔をしていた。


 シロはニアスに飛びついて、顔をうずくませた。


「ちょッ! マジで汚い! 離れろ!!」


 なんとか離そうとするも、シロは一向に離れなかった。

 力が強くて、ニアスの服が液体で侵された。


「ってかッ! 何でお前もいるんだよ!!」


「え? 上見てみ」


「上……?」


 上。

 クハパリ達がいた部屋の天井を見てみた。

 すると、天井に穴が空いていた。


 落ちてきたのだろう。


 天井を見て思ったが、随分とメルヘンな部屋だった。

 ここでコクバロッテスを装石具にすると思っていたのだが、とてもそうは思えない。


「司教は!? ヌベツミは!?」


「いやぁ、それがさぁ――」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ――ニアス達が鉄格子で仕切られた部屋で戦う直前。

 シロはミミックに食べられて、ワープした。


 ワープした先は何処かの個室だった。

 そこは密室。

 この部屋には逃げ道はミミックしかなかった。


 ここにニアス達がいるとは思えなかった。

 それでも、地口教の素性とかを掴むためにも、その個室を散策してみた。


「紙……?」


 最初に見つけたのは紙だった。

 横には炭。

 この世界では炭で文字を書くらしい。


 文字が読めるか不安だった。

 ここは夢の世界といえど、独自の文化が多種多様。

 この世界でも文字が日本語でなかったら不便と思っていたが、そう言えば、モーレン宿場で見た文字は日本語だった事に気がついた。


 中身を見てみた。

 それは、ヌベツミの手紙だった。


「“ゴールデンアカマムシがない”……?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ちなみに、ゴールデンアカマムシって何?」


「魂装する時に、その魂の力を爆増させる虫だ。そいつに毒があるから、魂装する時に人が死ぬんだ」


 ギスターナが教えたくれた。


 何故かニアスが苦い顔をしているが、今はそれよりも話を続ける。


「手紙にはその虫がいないから、隣国のウェイシアに逃げますって書いてあったんだよぉ。ご丁寧に名前まで」


「じゃあ、司教は何処に行ったんですか?」


 エザスタも苦い顔をしている。


 ウチはその問いに首を振った。


 司教が如何とか書かれていなかったし。

 おそらく、元からいないんだろう。

 

 “司教”なんて大層立派な肩書き背負っているんだ。

 多分、本拠地みたいな場所にいるんだろ。


「で、そしたら急に天井が破壊されて、焦ってたらここにいたってわけよ」


「何で破壊されたんだろうな……」


 ウチは原因を知っている。

 コクバロッテス。

 ウチは彼女をみる。

 外方を向いて、“ここにいない”を貫こうとしている。


 彼女が天井を素手で壊したらしい。

 この人には逆らえないね。


 一応、彼女に仲間に言わない理由を問い詰めてみたが、何か知られたらまずい事らしく、彼女は一向に話そうとしてくれない。


「――そんな事よりぃ!!」


 敵地で談話していると、クハパリが急に声を荒げた。


「私の聖書がなくなっちゃったんだよぉ!!」


 聖書。

 別名、預言の書と言われた本。


 中身を見たことはないが、それってやばいことだった気がする。

 すぐに追わないと行けないけど――


「確かウェイシアって、大量のお金がいるんじゃなかったっけ?」


 ネルの言う通り。

 周りに生態系を漏らさないように、見えない壁が設けられている。


 確かマダグ達、素人組はコクバロッテスさんの家系のステラ家に護衛を依頼されて、その報酬としてその壁を越えるチケットを貰える。


 だが、ウチらはステラ家に伝がないィィ!!


 お金も財布に収まる程度しか持っていない……


「それなら、私が保証しますよ?」


 コクバロッテスさんが最高のカミングアウトした。


「え、ええ、えあ、えあど、いい、良いんですか?」


 そのカミングアウトに、流石の挙動不審になってしまった。

 

 だが、その行動原理がよく分からない。

 

(この人にとって何の徳がある?)


 確かに、このお姫様救出作戦に名乗りをあげたが、それはクハパリを助けるためだ。


 そう思っていると、またもやカミングアウトする。

 

「勿論。助けていただいたというのもありますが、私の家がステラ家ですもの」


「それが何の――」


「え? 知りません? ウェイシアの国王、ガリバー・ステラ。ウェイシアはステラの国でございます」


「くぁwせdrftgyふじこlp!!」


 何処かの貴族とは思っていたが、まさか上位互換。

 と言うことは……次期国王?


 よく見れば、なんか華麗で高貴な容姿な気がしてきた。

 

 犯罪者と女王。

 国王と話すのは新庄だけだと思っていたが、まさかこんな凄い人だったなんて。 


「その代わり――」


「え?」


 不安がウチに伝染してきた……

 何か無茶苦茶言われそうだぞ?


「また今度、王位継承するための選戦が行われるのですが、そこで側近として護衛してくださらない?」


(ステラ家の周りには、危険が伴うのだろうか……)



      〜 第三十九話 完 〜

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