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第3話 獏と夢



 ――ネルと出会ってから一週間ぐらいが過ぎただろうか。

 やっぱりこの世界には慣れない。


 やっとの思いで大陸を渡り、別の大陸“ロードブルク大陸”の北部に来た。


 って言っても、ロードブルク大陸は一番北部のベガスディク大陸の真南をちょっと歩いただけみたいだから――やっぱ寒い。


 ベガスディグ大陸は、さっき寿屋があった所だ。


 ウチらが向かっているのは、この世界での最都会の王都であるロードブルクだ。


 ウチらは旅支度をしにこの王都へ来たと云うわけだ。


 ちなみに、この国は君主制らしく、ウチと同い年の子が王様らしい。


(くそッ! ウチは自堕落な生活で、王は多忙な毎日なのかな……羨まじい゙!)


 王都に着くと、待っていたのは立派な城塞に佇む兵士が二人。

 奴らは銀の甲冑を身に纏い、ハルバードを装備した、典型的な兵士だ。


 ウチらは門から延びている長蛇の列に並んだ。

 

「ここからは立ち入り検査があるけど……君、なんか変なの持ってないよね?」


 疑われるような(なり)ではないと思うのだが……ウチは盗賊のような姿なのか?

 

「上から降ってきたばっかのウチにそんな余裕ないよ」


 ネルの疑いに、アンサーを返した。

 ここに来るまで得たものは何もない。

 何か持つことができても、それはそこら辺に落ちている石ころだけだろう。

 

「降ってきたって……まだそんなこと言ってんの?」


 軽く一蹴された。

 そんなに信用がないのだろうか。 

 

(与太話じゃないんだけどなぁ……)


 そう。

 上から降ってきたこと。

 それは本当のことなのだ。


 そして、ウチはそこで見た。


 お尻のような形状の天空要塞を。

 ラ○ュタ宛らの天空城を。


 お尻の上は胴体がありそうだったが、雲が邪魔で見えなかった。


 そもそも、その雲は、雲ではなかったかもしれない。

 「上にあったから雲やろ」って考えたけど、霧だった気もする。


(やっぱ、何言ってんのかわかんね)


 そんなことを考えていると立ち入り検査のウチらの番が来た。

 

「えぇ…」

 

 兵士らはなぜか困惑気味だった。

 ネルが何かしたのだろうか。

 ……不安でしかない。

 

「お前ら……自分達の立場わかってんのか……?」

 

 立場?

 下民は入れませんとか?

 確かに周りには豪華な服を着た人がいる事が一目でわかる。

 でも、拙い服を着た人もこの国に入っている所は見た。


 それか、黄色人種は立ち入りが禁止されているのだろうか。

  

「いいえ……? 僕ら何かしました?」

 

「のぞきだろうがッ! それも、大胆に入ったらしいなぁ!!」

 

 こっぴどく叱られた。


 覗き?

 寿屋での話かな。

 でも、そんな怒ることないじゃん。

 無論のぞきは良くないけど……


 いや待てよ? なんでこんな遠くまで伝わっているんだ? 電話はないよな? この世界の技術?


 とりあえず、誤解を解くために弁明しておく。

 

「いや! あれは不可抗力で――!」

 

「不可抗力で風呂を覗くやつがあるか!」

 

 ウチらは軽く一蹴され抵抗する間もなく、変な力で拘束された。


(――何だこれッ!?)


 腕に巻き付いた何かを解こうとするが、とても強力すぎてウチには手に負えなかった。


 助けを求めてネルに声をかけようとすると――

 

「ん? ちょまて、私も!? なんでぇ!? 私が覗くわけないだろぉ!」


 何故かネルも拘束されていた。

 

「はいはい。やってない奴らはみんなそういうんだよ。話は城で聞きますからねぇ」

 

 ――そうして王城へ連れていかれた……というより連行された。


 連れてかれている間は暇じゃなかった。

 なにしろ見るものが全部、目新しいものばかりだったから。


 特にそそられたのはガントレット? のようなだった。

 それがこの世で二つしかないんだと。

 ネルの博識だ。


 だが、市場の商品というわけではなく、王に捧げるものとして、運ばれていただけだった。


 欲しかったという思いもあってか、若干萎え気味でただ道路を歩くのだった。



――――――――――――――――――――――――


 ――そんなこんなで、王城についた。


 ウチらは、王の御前に差し出された。

 ここは君主制の国。

 ウチらは今から裁かれるのだ。


 目の前には容姿端麗な王と側近の女メイド。

 ウチらの隣にはウチらを連れてきたおっさん。

 この差は何だ?


「汝ら、名はなんと申す?」


 こいつが王様? イケメンだな。

 肉を削いでやりたい。

 尤も、そんなことしたら即死刑だろうけど。


「……ネルです。」


亜月眞月権左衛門あがつまがつごんざえもんです……」


 なんか変な目でネルがこっちを見てきているが、こういう時は偽名を使うのがセオリーじゃないのか?


「そうか。変な名前だな。特にそこの女子(おなご)。」


 さらにネルの目がかっぴらいたが、ウチのせいじゃないよね。ってか、女子って……江戸っ子ですか?

 

「こいつらは、覗きをしたのだな」


「おっしゃるとおりでございます、シルベル様」


「それでは、文句もあるまい。死刑」


 あまりの軽さにネルとウチは絶句だった。

 

(え? 何で? 覗きごときで重すぎないか!? 確かにいけないことだとは思うけど――)

 

「ちょ、ちょっと待て……私は麗しい女の子だぞ!?心も女だ! タイプの人は竹内涼真だ! そんな奴がのぞきするわけないだろ……!」

 

「女だからって覗かないとは限らないだろ。今そういう世の中になってきてるらしいしな……それにしても竹内涼真? 誰だそいつは……」


(は? え、竹内涼真!? なんで日本人の名前がネルの口から……?)


 あまりの衝撃に思うように言葉が出ない。そして、さっきからこの場の空気が歪だった。 


 この世界でも性的マイノリティが重視される時代なのかと親近感を覚えると同時に、王が何やら声を荒げる。


「はぁぅぐっっ! あ、頭がぁっ!」

 

「無礼だぞ女!」


「え、えぇ……? 私、何かしました……?」


 すると次の瞬間、王が関節をつけ外す仕草をした。

 それが何故かウチには胸の奥がざわつく感じがした。


「そうだ……もっと私を女呼びしろ! 女を強調しろ!」

 

 何か妙だ。

 ネルは急に日本人の有名俳優の名前を出すし。


 ――だがそれよりも、もっと衝撃なことがあった。


 関節をつけ外すあの王の仕草。

 こんなに独特な仕草をする人は一人しか見たことがなかった。


 それに何だか胸騒ぎがする。


 ウチには何故かわかる。

 勘で済ませていい問題じゃない。

 それでも何故か()()がある。


 あの王の正体、それは――


「新庄……?」


 容姿が違うことはわかっている。

 性格も違う。

 それでも、何故か新庄にしか見えなかった。


「新庄なのか……?」

 

 新庄は全然聞く耳を持ってくれない。

 何故か頭を抱えながら苦しんでる。


「なぁ! 聞こえてるだろ新庄!」

 

「うあぁぁ!!!」

 

「おい! 今すぐやめんか犯罪者!」

 

 兵士はウチらに怒鳴り上げた。


(せっかく会えたんだ! やめるか……絶対に諦めない。新庄が心から嫌というまでは!!)


 ウチは新庄に忘れられている悲しみを噛み締め、再び新庄の名を呼んだ。

 

「新庄! ウチだよ! 白憧(つくもしょう)ぅ!」


「しょう……憧、憧!! 何だこの、感覚はッ! 胸が、苦しい!! 憧! 憧! 思い出せない!! 何なんだッ! これはぁ!!」

 

 今、思い出せない、って言ったか……?

 やっぱり、新庄なのか……?


 すると、ネルも急に声を上げた。

 

「はぁ!? 日本人!?」

 

 ネルは眉間に皺を寄せた。

 もちろん怒っているわけではない。

 疑問に思っているのだ。

 それはなぜか――やっぱりあいつも現実の人だからだ。

 

「そうだ! 白憧だ! 思い出してくれ!!」

 

「ゔがぁっ! づ、づれでいけっ!」

 

「はっ!」

 

 一人の兵士はウチらに向けて指先を突きつける。すると、いつの間にか、どこかの牢の中に入れられていた。


「いでッ!」

 

 痛くはなかったけど、癖で反射的に言ってしまった。

 ウチとネルは同じ牢に入れられてしまった。


(せっかく新庄に会えたのに……)


 これをどう捉えるべきか。

 新庄の居場所はわかった。

 だが、王となると、再び会えるかどうかが分からない。


 そもそも、今は牢に入れられている。

 脱する方法を考えないと。 


 だが、牢に入れられる前の記憶がない。

 まるで目の前の景色が変わったかのようだった。

 そんなのは今どうでもいいか……?


 そもそも、なんで新庄は顔が違う?

 新庄なのは確かだ。

 なんでかはわからない――けど! あいつが新庄だってことはわかるんだ。


 引っかかるのはあの頭痛だ。

 操られているのかもしれない。

 SFではそうだった。


 だが、まぁ、今直面している問題を片付けよう――

 

「お前、地球の奴だな」「君、日本人だよね?」

 

 やはりそうか。

 だったら最初から言ってりゃよかったのに。

 ……無駄な恥かいちゃったしな。

 

「教えてくれ。この世界について。……前よりも、この世界に来たばかりのウチにもわかりやすく」

 

 ネルは、また困惑している。

 前にこの世界について聞いた時もそうだった。

 ネルも結構無知なのか?

 

「そもそも、君、獏に会った?」

 

「いや? バク? 何、それ?」

 

「そこからかぁっ!」

 

 ネルは顰蹙顔を手で覆った。

 そして、胡座をかいて説明を始める。

 その様は、男子が理想とする女の子の姿とは程遠かった。

 

「いい? 通常、『五感者』は獏に出会い、この夢の世界に来れる」

 

「ごかんしゃ……」

 

「まぁ、要はこの世界の住人ではない人のことね。君や私……あと、その新庄さんのことだね」


「名前と意味の脈略が見えないんだけど……」


「五感者の五感は、聴覚とか、視覚とかそういうの。寝てる時って五感が働かないでしょ? そう言うイメージ」


 なんか訳のわからないことを言っているが――

 

「その……獏ってやつは何者?」

 

「五感者をこの夢世界に呼んだ神()()()な感じ。願いを叶えてほしい私らと、美味しい夢を食べたい獏で、Win-Winの関係にあるんだよ」

 

「つまり……ウチ含め、この夢の中には地球人が5人いて、そいつらを五感者と呼ぶ……と」


「そういうこと!」


 ウチはこの世界に、“新庄を返してほしい”という願いを込めたから、この世界に来れたのか。


「じゃあ、ネルは何を願ったの?」


「友達がいないから……」


 ネルの言ったことが、この世界ではどうなるのか、よく分からなかった。


 友達が作れないのなら、この世界で作れるかどうかも分からないのに。


 それでも、深く介入するような話題ではないと思い、この話をやめた。


 全然関係ないが、一つ疑問が湧いた。


(あれ? なんでウチは獏に会えなかったんだ?)


 少し考えてみた――嫌われていた?

 そんな訳はない。

 面識はないしな。


 その後もずっと考えた。

 だが、何も思いつかなかった。


 三人寄れば文殊の知恵。

 今は二人だが、相談というのは大切だと、嫌いな先生が言っていた。

 

「でも、ウチ獏に会ってないよ?」


「嫌われてんじゃない?」


(こいつ使えねぇ……)


 心底そう思った。

 もういい。

 別の質問に変えよう。

 

「なんで五感者っていうの?」


 唐突に聞いてみた。

 それでも、困惑せずに自分の考えを伝えてくれた。

 

「異能力が五感に関するからじゃない?」

 

「ん? やっぱりあるのか? 異能力」

 

「というか、この世界の人の少数は異能力を持ってるよ。正式名称は“アビリティ”だけどね」

 

 やっぱり、この夢には元の世界には持たざる、なんらかの能力が人間に備わっているらしい。


「とりあえず、獏とアビリティだけ覚えてて」


 でも、だとしたら、モーレン宿場であの牛の近くにいたやつに触れられた時のあの違和感。

 あれが能力だとしたら、何かされたんだ?

 

「ウチも? ウチも能力があるの?」


「アビリティね。君、五感者なんでしょ?」

 

(まじかよ! ウチに能力!? これを使えば、新庄に会えるかもしれない)


 あまりの展開に、心が躍った。

 いや、この主人公的展開は、“あまりの展開”とは言えないかもしれないが……

 

「ねぇ、ウチの……アビリティって何?」


 やっぱり、これが気になる。

 “俺tueee”であればあるほど良いねぇ。

 

「それは君にしかわからないよ。無意識に出るもんじゃないから」


 ウチは一瞬――


(本当にこいつ使えねぇ……)


 と、思ったが、今回は仕方がないだろう。


 でも、それならネルはどうやってアビリティを知ったのだろう。


 そう思っていると、ネルは会話を続ける。


「でも、私のアビリティは聴覚だから、君は聴覚ではないでしょ」


 聴覚……

 聴覚を操る能力は、果たして強いのだろか……

 

 盗聴とかできるのなら、強いかもしれない。

 だから、斥候的な役割になるだろう。

 

(それでも、異能力なんて使い方次第だ)


 そう思っていると、あることに気がつく。


(なんかウチ、いつもより血の気多くね?)

 

 急に戦いのこと考え出している気がするんだ。


 恐らく、()()()()()()()()()と思っている節があるのだろう。

 別に考えること自体は悪くはないのだが、そのせいで戦いに発展しかねない。


 もしかすると、五感者は全員がこんなハズレスキルなのかもしれない。


(えー、いやだなぁ……)


 本当は別に戦闘は避けるのがベストだと思う。


 そもそも、この世界で死んだらどうなるのだろう。

 そのまま死ぬのだろうか。

 それとも、現実に戻るのだろうか。


 まぁ、今考えることではない。


「じゃあ今からどんなアビリティを持っているのか研究するか!」


 ウチは意気揚々に声を上げた。

 その声はこの監獄の中で響きまくり、他の囚人から怒られる事態となった。



       〜 第三話 完〜

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