第11話 三翼
カンケルは去って行った。
あまり負傷者はいない。
が、今回の策が効いただけだ。
あまり天狗になってはいけない。
「終わった……? やった……やったぁ!」
ネルはコウドウの騎士に太刀打ち出来たら事が半信半疑であった状態から、徐々に確信を得た。
声のトーンがだんだんと元気になっていった。
だが、前述の通りだ。
カンケルはおそらく別の目的でここへ訪れており、この巨人兵は移動用兼池に設置されたでかい機械を運ぶ用だろう。
しかも、完全に無力化できたわけではない。
しかもコウドウの騎士は新庄を省いて11人。
ここからより厳しい戦いになるだろう。
用心をしよう。
すると、ネルは気が抜けたせいかウチをおちょくり始めた。
「ってか、さっきの何!? 勝ったからって調子に乗って『ウチらはストレイダーズでぇすぅ』とかなんだいっちゃって!」
ニヤついたネルの表情が泣き喚くことになるほどぶん殴ってやりたいと思った。
でも、単純な疑問なんだったらそういう考えが浮かぶのは自然だ。
そう思いながらネルの方へ近づき、デコピンをしてやりながら言った。
「ニアス、クハパリ。お前達にも言わなきゃならない」
デコピンのやり返しでウチの腕にネルは噛み付いていて話しづらかったが、それに耐えながら話を進めた。
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昨日のネルとの話をニアスとクハパリに伝えたところで二人は考えだした。話を聞いたばっかで一旦整理しなきゃいけないんだろ。
「えぇと、ギャングを組みたいけど別に悪いことはしない。あくまで本当は悪くない人を助ける……と?」
「そゆこと!」
ニアスは自分が理解した言葉を連ねて状況を再確認。
というか、これだけ話しても何を伝えたいかわからないと思うが……それはゆっくりと待っててくれるだろ。
「お前なぁ。そもそも金銭面はどうなんだよ? 人が増えればそれだけ必要な費用は増える。当たり前だろ。もちろんテメェの金は自分で稼がせるけど、その分こなす依頼が増える。そもそも、俺らは犯罪者で、戸籍を偽造とかしない限り冒険者ギルドは多分もう使えない。皿洗いでもしろってか!? 人が集まること自体は問題ない。……が、集団で行動するのか!? バカか? 気を配る相手が増えるだけだ! 必要最低限の仲間さえいればいいだろ。それこそ、俺らのアジトとか作ってそこに集めた仲間を入れるんなら賛成だ。でも、その資金を集められないんだろうが!」
吐き出された言葉の数々は棘だらけで、多すぎで、到底ウチが理解することは難しかった。
でも、それだけ真剣に考えてくれているってことでもある。
嬉しい限りです。
「ま、まぁ話はまだ終わってないから……」
や、やゔぁい!
これで万策尽きた……!
ニアスの全てが正論すぎて反論の余地もない!
確かにメリットもあると思うけど、今に思えばデメリットが多すぎる。
内心焦って脂汗がおでこにテカってきたが、ここで反論しなければぁ!
宿ってくれ孔明!
俺に策をぉ!
「そんなに仲間なんて集めないよ……確かに仲間は多ければ多いほど……できれば千人とかできたらいいなぁとは思っているけど――」
(まず根本からおかしいけどな……。)
ニアスはそう思った。
「けどあくまでビジネスパートナーねっ!」
「――確かに」
え?
「ビジネスパートナーは親密度の範囲が広い。だからシロが言っているビジネスパートナーがどこからどこまでとする仲なのかは分からないけど、用がある時だけ会うという仲ならば、別に互い同士の目的に支障はきたさないか」
「え、あ……うん。そうだね」
結構無理ある言い訳だったけど……なんか言ったわ!
っぶねぇ、バカでよかった!
「……で、『ストレイダーズ』は何なの?」
またもネルはニヤつきながらウチに言う。
そしてウチは団体名であることを言う。
別に団体名は恥ずかしくないけどね?
すると説明を求む……とネルが言う。
「英語で逸れるというStrayにerをつけて逸れる人って、日本語にしたらなんかこれから逸れますって言ってるみたいだから――strayeder――!」
カッコつけて言ってみた。
「でもこれって文法的におかしいよ?」
「それもまた一興よ」
その場に取り残されたニアスとクハパリの二人は、ボケーっとした顔で立ち尽くしていた。
そして痺れを切らしたのかクハパリが割り込んだ。
「あの……早くここ去った方がいいんじゃない? カンケルがここ通報してたしぃ……」
そしてニアスがこれに便乗した。
「そうだ、すっかり忘れてた……! 早く去ろう!」
逃げることには賛成だった。
でも、ここに来た理由は元はと言えばお金儲け。
依頼を受注したんだし、依頼主にも失礼じゃん。
「え? でも、お金は?」
「そんなこと――命より大事なものがあるか! それで死んだら元も子もねぇよ!」
「いやでもどこに!?」
ネルが目を見開きながら疑問を呈する。
「ここはディッシュポート、船に乗ろう! 船ならロードブルク兵も撒けるし他国に行ける!」
そうして、ウチらはディッシュポートの港へ向かった。
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さて、着きましたよディッシュポート。
鼻にツンとくる潮風の匂い。
まさに海ですねぇ。
しかも港の横にはビーチもあります。
思春期真っ盛りなウチはビキニのお姉さんを想像しただけで竿を用意してしまいます。
釣られるのはウチですがね。
そんな想像をしていると、豪華な客船が現れる。
今からこれに乗るのか。
ウチは前傾姿勢でその船へ向かう。
白塗装の外見に所々金色で装飾される高級感が漂うこの船は、ロードブルクの貴族も乗船する船だそうだ。
新庄は王の特権としてこの船を自由に使えるのか。もっとも今はシルベル王だけど。
「ウチに似合う豪華な客船じゃないカ! どれ、内見もさせていただこうかナ」
貴族ごっこを楽しんでいたが、ウチらって今金ないよな?
(何でこんなんに乗れるんだ?)
そんなことを思っていると、難破船とも言っていいように、潮が染み込み経年劣化した木材が波に揺られる度に軋む音を立てる、いかにもバイキングな船が来た。
「あ、来た来た。おーい乗るぞ」
何を言っているんだ……!? もう船は来ているではないか。
(ま、まさか!)
「お、おい……。まさか歩いただけで船底が破れそうな、この船に乗るのか……?」
「何言ってんの。金銭面的に私たちはこれしか乗れないよ」
――ウチは膝から崩れ落ちた。
確かにちょっとでかいけど……パイレーツやるってんじゃないのよさ。
さっそくウチらは乗り込んだ。
ウチは嫌々乗り込んだ。
ニアスとクハパリは楽しそうだった。ネルが駄々を捏ねると思っていたが、案外普通だった。
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――船に乗船した後。
ウチらが最後の客だったのか、乗ったと同時に汽笛が鳴り出航した。
軽快な足取りで甲板に移動したクハパリはハイテンションで喜んでいた。
「うわぁ!」
クハパリは海を見たことがないらしい。
だからこそ、言葉にできない感情が湧いてしまい、言葉が詰まってしまったのだろう。
そんなクハパリを見るウチらは笑みが溢れる。
ウチはある。
車を走らせれば結構すぐ着く。
でも、地球の海よりここの海の方がより鮮明で綺麗だ。
すると、何やら近くから話し声が聞こえる。
船の従業員たちの会話だった。
「知ってるか? 深海に王国があるらしいぜ」
「知ってるよ。本の中の話だ。なんて言ったかな『リトルマーメイド』?」
「おとぎ話じゃない、本当だ! かの有名な『三翼戦争』の北の『リュミエール』が見つけたって話だぜ」
「お前なぁ、三翼戦争自体、本当の話かどうかも分からないんだぜ? 疑いが増す一方だ」
三翼戦争?
なんだそれ。
この世界の世界史か?
名前からは何も推察できない。
三と翼は関係ないよな。
翼は普通二本生えてるはず。
天使とかの種族同士の喧嘩か?
「おーいシロ! チェックイン終わったぞ!」
話を盗み聞いていたら、ニアスが部屋をチェックインしてくれたようだ。
部屋に移るか。
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やはりニアスと同じ部屋で他二人は別部屋だった。
男同士、密室、二日半間。
何も起きないはずもなく。
――何もなかった。
二日が過ぎた。
もう半日で目的地に着きます。
別に男性愛者じゃないけど。
船に乗ってから何も話してない……。
ふとニアスの方を見た。
こいつも暇そうだ。
何か話題を振った方がいいのかな?
「ねぇ、ニアス。三翼戦争って何?」
ウチは結構世界史とか歴史とか興味があったから、ちょっと興味を持っていた。
三翼戦争。
何かの戦争なのは確かなんだろう。
「三翼戦争? 何でそんな事聞きたいんだよ」
「従業員の人が言ってたんだよ」
ニアスはそう聞くと、二つ返事で話してくれた。
「昔の大戦だ。三つ巴の勢力同士が争い、ペザントゥールってやつが勝った。ソイツが勝たなきゃ今の俺らはいない」
ペザントゥールは良いもんだったということか。
それでも、三翼の意味がわからない。
どこかで調べてみよう。
他にもニアスがなんか言ってた気がするけど、船酔いでダウンしてしまった。
もとより酔いにくかったからなお辛い。
激しい頭痛、吐き気、めまい、若干の熱りがあった。
ニアスはもうこの部屋にはいないし、介護してくれる者は一人もいなかった。
「うぁ、ああああ゙あ゙……」
うめき声を上げながら天井を見ていた。
やっぱり木の天井か。
所々にヒビが入っていて、今にも木屑が落ちてきそうだ。
何なら頭ぶつけただけで壊れそう。
「んん……」
そもそも船じゃなくてよくね?
ニアスの能力の詳細までは分からないけど、要は水を固めるんだろ。
……いや、駄目か。
滑ってきたあの滝でも固めるのに弱音吐いていたんだ。
「いたぁい……」
あれ? そういえば何か忘れているような……
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カンケルとの死戦があった後、海ぶどうマンは孤独に途方に暮れていた。
「あいつら……お礼も言わずどこか行きやがって……! まぁいいか。物事を一様に決めつけてはならないということを学ばせてもらった」
海ぶどうの衣装のせいで普通の笑顔が気持ちの悪い笑顔を浮かべた後に言った。
「アガツマガツゴンザエモン!! 次会う時は、“海の底”で会おう!」
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悪寒がした。
気のせいかもしれない。
そうであってほしい。
それとは別に、船内が静かな気がした。
それのせいで悪寒が走ったのかもしれない。
何だか、嫌な予感がする。
「うわわわわ!?」
唐突に船内が振動した。
揺れで頭をより痛めたけど、そんなんどうでもいい。
何だ?
変な音が聞こえる。
ネチョネチョしたような音だ。
しかも最近嗅いだ匂いが漂っている。
これは……新庄の家で嗅いだあの匂いだ……
イカだ。
いや嘘。
やっぱりあの匂いとイカの匂いはちょっと違う。
これはモノホンのイカだ。
よろめきながら甲板へ向かう。
隣の部屋からはネルとクハパリが出てくる。
「あ! シロ、無事でよかったぁ!」
これはクハパリはウチのことを心配してくれていたのだろうか。
優しいなぁ。
その反面――
「これ何ぃ? 私、寝てたんだけどぉ!」
こいつはどうだ。
ネルの言っていることはおそらく本当だろう。
服装は仕方ないとして、だらしなく逆立った髪の毛、半開きの目なのにでかい瞳孔。
髪の毛の形からして膝枕をクハパリにしてもらったのだろう。
羨ましい。
「多分イカ……」
「は?」
なぜか騒がしい船員の声は、静まった空気には効果音のように聞こえた。
海の漣が不穏な空気を漂わせていた。
ネルの声は寝起きなのに10m離れていてもしっかりと聞こえるくらいでかい声だった。
だから、頭痛を患うウチには辛く、余計に衰弱してしまった。
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「……あ」
甲板に上がったウチらが目にしたものは巨大イカだった。
ウチは思わず感動してしまった。
色々なゲームの中で見てきた巨大イカ。
もっと言えばゲームの中でしか見たことがなかったのだ。
船首に巨大な足を使って自身の体を絡めつけながら、残った足で船員に攻撃をする様は見事だった。
船員たちは斧や剣などで冒険者と思われる人達と応戦するが、イカの足はとても柔らかく刃なんて入ったものではない。
弾き返されて腹立つ戦士たちを見るのは圧巻な光景であった。
もっとこの攻防を見ていたいのと同時に、そろそろ船がイカに縦にされそうだからウチも応戦するべきという辛い葛藤に苛まれてしまった。
〜 第十一話 完 〜




