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第12話 イカに祈りを



 ――うちは今迷っている。

 目の前にいるこの巨大イカ捌くか、戦闘に参加しないか。


 ウチは事なかれ主義だ。

 ここで不祥事が起きたら対処できない。


 だが、ここであのイカを捌かなきゃ不祥事が起こるかもしれない。


 どっちつかずの二択に頭を抱えていると、部屋の方向からニアスが出てきた。


「そっち、お願いしますよ!」


「おう! 任せろ!」


 ニアスの隣にはもう一人いた。

 うちはそいつを見たことがある。

 非合法ニキだ。

 非合法ニキとは、クハパリ達と共に大葉を採りに行った時に会った大葉でキマる人だ。


 顔はあまり見ていなかったが、彼が持つサラサラな髪には尊敬するものがあった。


 彼らはイカに立ちはだかる。

 ニアスは海に飛び込み、非合法ニキはイカに向かって盛大に飛躍した。


 すると非合法ニキが取り出すのは歪な形のナイフ。


 うちが彼のナイフに目を凝らしていると、イカの動きが鈍くなった。

 原因を探るとニアスが原因だと分かった。


 海に浸かるイカの体の一部を海と共に固めたのだ。

 イカはさっきまで海に浸かっていたから全身とまではいかずとも体の大元は硬直させることに成功したのだ。


 その隙を逃すまいと透かさずナイフを逆手に持った非合法ニキはイカの四肢を切り落とした。


 戦士たちが束になっても切り落とすことができなかったイカの体を彼は一人がかりで、しかもあんな小さなナイフで切り落としたのだ。


 イカは弱まった。

 ここを一気に叩き込む。

 非合法ニキは何かを唱える……いや、祈り始めた。


「猜忌たる罪は神をも滅する。余力を残したかの者に真の生き様を! 新たな生き様へ(リゴーアプストリーム)!」


 そう言い彼はナイフを眼球に突き刺した。

 イカの眼球からはイカとは思えない色をした血が吹き出す。

 だが、次第にナイフから放たれる神々しい光で血が見えなくなり――気がついたら跡形も消し去っていた。


 まるで最初から居なかったかのように。


「ふぅ! 終わったなッ!」


 そう言いながら髪を掻き上げる仕草をした非合法ニキの顔をうちは今初めて見た気がした。


――――――――――――――――――――――――


 イカの片付けを終えた頃、うちらは非合法ニキとイカを食いながら談笑をすることとなった。


「いやぁ! しっかしニアス君の能力はすげぇな!」


 そう褒め称えられたニアスは照れ臭くそっぽをむいた。


「お世辞ですか? やめてくださいよ」


 そんなことを言っておきながら内心嬉しいのだろう。

 もしかしたら褒められ慣れてないのか?

 いいとこあったら言って揶揄ってやろう。


「いや本当本当! 場所は限られるかもしれないけど今回に於いては優秀なデバッファーだったよ! ()()と気も合いそうだしウチの仲間にも欲しいくらいだ!」


 ニアスが敬語を使うぐらい慕っている!

 この人はやっぱすげえ人だ。


 彼の名前はシラゾノというらしい。

 ディッシュポートから来たが、ロードブルク出身というわけではないらしい。


 あと、ニアスたちはいなかったけど、大葉を取りに行った山でうちを見たことを覚えているらしい。

 あの時はタメ口を聞かせていたけど、今は誠意を持って敬語でいかせてもらおう。


 それにしてもさっきのが装石具。

 物によるかもだけど、アビリティを有していない人でも十分に戦えるのか。


「このナイフ、普通の武器じゃないですよね?」


「そう思うよな! 実はこれ、ただアビリティの術式を通しているだけなんだ。つまりは間接的に攻撃できるってわけ」


 なるほど、何か能力を相手に伝える系のアビリティは別に体の一部から能力を伝えるだけじゃなくてもいいのか。

 ってなると、ニアスもそれ系だから武器を使えばそこから伝えることもできるってことか。


「はぇ〜、凄い。じゃあ何で攻撃する前に何か祈っていたんですか?」


「あれは『祈り』。技名を叫ぶと体にその技が刻まれるんだ。だから君らも技名を考えとくといい。特にニアス君は祈った方がいい」


「……うっす」


 つまり祈りは“技名を叫ぶと体に刻まれる”……技名かぁ。


 何にしよう迷っちゃうな。

 そもそもうちはまだアビリティの術式を知らないんだよな。

 まぁ、普通のパンチにも技名つけたっていいのか。「サイクロプスパンチ」とかにしようかな。

 へへへ。


 すると誰かの声が船内に響き渡った。


「シラゾノさーん! もうすぐ着きますよ! 出てきてくださーい!」


 シラゾノさんの知り合いかな。

 彼を探しているのか。

 貸してもらっちゃって悪いね。


 するとなぜだかわからないが、シラゾノは渋面でそわそわし始めた。

 次の瞬間急に立ち上がってうちらに言った。


「おーっと! 用事ができちゃったねそれじゃあ僕は行くよ」


(え? もう行っちゃうの? 嫌ダァ! 行かないでくれぇ!)


 すると、彼はうちの顔に考えていることが出ていたのか相好を崩してうちらに言った。


「――君たち、行く場所はあるか?」


「いえ……ないですけど……?」


「船を降りて港の門を真っ直ぐ行くと、草のない道がある。その道に沿って歩いていくと僕の友達のやっている道場がある。“迷っているなら”そこへ行きなさい」


 迷っているとは、強くなりたいかということだろうか。


 うちらはまだまともに強くなったわけではない。

 どんなことがあっても強くならないといけない。

 己のためにも、仲間のためにも。


 そのためならたとえ四肢がもげようとも血反吐を吐こうとも強くなるべきだ。

 今うちらはこんなに強い人の友人の道場を勧められているんだ。

 行こう。


「ありがとうございます!」


 うちとニアスは深くお辞儀をした。到着の船の汽笛が鳴ると同時に颯爽と去るシラゾノを送った。


――――――――――――――――――――――――


「ふぇ〜つかれたぁ」


 ネルはそう言いながら腕に手を添えて体を伸ばした。

 うちも、落ち着いたところに来て一気に頭痛が消えた気がする。

 シラゾノさんと話していた時にも頭痛のせいであまり話せていなかったし、リアクションも取れていなかった。

 申し訳ないな。


 やっと着いたここは「ベルトポート」。

 ネヴァキュベート国の港だ。

 そして逃避行はこれでおさらばだ!


 ネヴァキュベートにはロードブルク兵が行き来できないはず。

 何故なら国境を渡って犯罪者を追いかけるのは国同士のいがみ合いに繋がりかねないタブーだ。

 これは地球でも同じだったよな。

 領事裁判権ってやつだろうか。


 ここには世界最大の文庫があったり、大層な建物がいっぱいある先進国だ。

 でもお金の単位は変わらず“ルト”。

 言語も全国共通らしいからその辺で苦労することはないだろう。


 文庫には行ってみたい。

 世界最大というのがどのくらいか把握しておきたいのだ。

 そもそもこういう世界に図書館なんてあんまりないだろう。

 紙は貴重でそれが束になっている本。

 それを集めているからな。


 でも、どういう本があるのかとかは興味が湧かない。

 元々あまり本は読まなかった。

 人によるかもしれないが、うちにとっては本は使い切りだと思っている。

 何回も読めるけどその気力がない。

 そのまま棚に飾ってあるだけだ。


 クハパリとか聖書を持ってるから好きそうだなとは考えたけど、ああいう性格の女の子って本とか読むのかな。


 まぁ、それも含めて文庫に立ち寄りたい。


「それじゃあいくか!」


 うちがそう言い一歩前進すると――


「その前に!」


 そう言ってネルはうちの服の裾を掴んで後ろに引っ張った。

 ――と同時にネルは近くの建物を指さして言った。


「風呂は入れないかもだけど、服ぐらいは清潔でいようよ」


――――――――――――――――――――――――


 来たのは服屋さんだった。

 機能性だとか安価気質ばっか気にした服ばかりだ。

 おしゃれはできないが、今の状況には打って付けだろう。

 なによりうちとニアスは泥が付着したばっかだからな。

 近くの川で洗い流した。


 ニアスの服は元から高級品っぽい装飾だったり染料だったけど、今の服は結構ラフでうちはこっちの方が好きだな。


 元々着ていた服を捨ててしまっていたけど良かったのかな?

 今晩寝込みに、もったいないお化けとして出てやろうかな。


 ネルは元々夢の世界の服を着ていた。

 地球で着ていた服はどっかやったのか?

 お前は地球から来たんだから3Rくらい覚えてろよ。

 と言いたいところだったけど、そんな愛想のない言葉を言うもんじゃない。


 少なくともこの世界ではな。

 って言うかこれは決めつけだなぁ。


 クハパリは……正直に言うが可愛いッ!


 制服とか着ていたらベクトル違いで可愛かっただろうなぁ。

 ストレイダーズの制服を作るってなったらクハパリ中心に作ってやるか。

 グヘヘッ!

 うちの性癖を暴露してまうぞ。


 元から着ていた服は修道着だった。

 だから、コスプレみたいで気に入っていたけど今の服はもう堪りません!

 修道院でシスターとして勤勉に働いていた女の子と街中でばったり遭ったら二目惚れしてしまうだろうな。


 うちはあまりオシャレには関心がなかった。

 おしゃれな服なんてここに元々ないし、似合う服がないんだよ。

 だから感想なんてある訳ない。

 強いて言うならあまり目立たない服を選んだ。

 黒色が主色の服だ。

 もうロードブルクの追手は来ないと思うけどね。


「それじゃあ気を取り直して……行くか!」


「おう」 「うん!」 「あい」


――――――――――――――――――――――――


 ベルトポートの門を抜けると確かに道がある。

 うちらはその道を歩いていく。

 その間うちは祈りの言葉を考えた。


 学校でことあるごとに決めるスローガンを積極的に考えていたが、あまり決まらなかった。

 優柔不断だしスローガン決めでも「この文字は入れたいよね」くらいしか発言していなかったし。


 少なくとも「神」は入れたいな。

 神に祈るんだろ?

 多分この世界の神が獏なんだよな。


 道半ばで草むらに入ることになった。

 シラゾノめ……草がないなんて言っていたのに嘘こきやって!

 やっぱり敬語は無しでいこう!


 前、ペザルティアに行く途中でネルがぐずっていた。

 うるさくて、我儘で、道中置いて行こうかなとも考えたけど、今回は前とは打って変わって豹変している。


 大人しくて、でも話題は振ってくれて飽きずに進んでこられた。

 何でこいつが友達いなかったのってくらいだ。

 思えばカンケル戦から大人しい気がしなくもない。

 うちらのことを仲間と認めてくれたのかな?


 そんなこんなで草むらを抜け、小川を越え、シラゾノが教えてくれた例の道場に着いた。


――――――――――――――――――――――――


「駄目だ。不合格」


「え?」


 ――突如下された不合格通知。

 一旦状況を整理しようか。

 

 シラゾノに紹介された道場に来た。

 そこの道場の師範代はシラゾノの友人だと言う。

 そしてやってきた。

 もちろん強くなりたいから弟子入りを申し出た。何も失言は言っていなかったはずだ。

 すると下された不合格通知。


「な、何で……?」


 そりゃ何で不合格なのか、納得できない!

 ポテンシャルは相当なものだろうと自負している。

 だが、自負留まりでもある。

 ……でも一目でわかるかぁ!


「……夢がないやつは嫌いだ」


「はぁ!? そんだけの――」


「そもそも、紹介されたのはそこの青髪だろ?」


 何を言って――いや、そう……なのか?


 確かにシラゾノからはそんな風にも聞こえた。

 だが、何でそんなことがわかる?

 シラゾノの言伝えで紹介されたんだ。

 この師範代の好みで判断したのではないのか?


「夢を持ったやつだけだ。それ以外は去れ」


――――――――――――――――――――――――


 うちらは道場から少し離れた場所で屯した。


「クソッ! 何でだヨォ! ちょっとイケメンだからって調子乗りやがって!」


 奴の非情な行動に腹が煮えくり返る思いをしたことへの愚痴をこぼしていた。


 ここの道場の名前は擎慄頼(きょうりつらい)名前の由来はなくただかっこよかったかららしい。

 師範代の名前まではわからない。


「それにしても、何であいつニアスを紹介したってわかったの?」


「え? あれ図星だったの? てっきり的外れな言動かと……」


 もしかして違うのか? 

 なんかちょっと只者ではないって思ってたけどそんなことない?

 じゃあ何であいつはあんな確証を持って発言している顔をしていたんだ?


 そう皆が思っていると、優遇された本人であるニアスが満を持して口を開いた。


「ある一説によれば、アビリティとはその人が持つ小さな夢によって生まれるらしい。例えば「髪の数が分かるようになりたいな」とか、「絶対に相手に聞こえる声になりたいな」とか。その夢が次第に強くなって生まれるのが『アビリティ』。」


 うちとネルは五感者だからアビリティを持っているはず。

 だからこの説に難癖をつけることはできないが、その説が本当ならば弱い能力ばかり生まれるんじゃないのか?


 するとクハパリも口を開いた。


「そおかなぁ? 私の友達に指で虫眼鏡作れる友達がいたけどそんな夢なかったと思うよ? それにアビリティって生まれついてのものだし。赤ちゃんが夢を持つとは思えないよぉ」

 

 痛いところを突かれたのかニアスは冴えない顔でクハパリを睨んだ。

 アビリティは生まれついてのものなのか。

 初めて知った。

 じゃあこの説は不成立になるのかな?


(本当なら……ウチは何になりたい……?)


 少し、考えてみた。

 でも――何も思い浮かばない。

 結局、師範代が言っていたことは本当のことなのかもしれない。


(何も……考えてねぇじゃねぇか)


 みんなでため息をついた。

 もう行くあてがなくなった。

 図書館にでも行ってみるか?

 でも遠いらしいし。


 そんなことを思っていると、遠くから人が歩いてきた。

 千鳥足で歩いていたのでただの酔っ払いかとも思った。


 こちらへ向かってきた。

 戸惑っていると、いつの間にか近くまできていた。

 そして、彼はウチの胸へと顔を疼くませた。


「お、おい。大丈夫か……? お前……」


 肩を掴んで起こそうとする。

 だが、何か違和感がある。

 顔も見てみると、気力がなさそうに窶れて


 肩の後ろへ手を周し、遂には背中に到達する。


「――っ!」


 この感覚をウチは知っている。

 手に何かが付着したのだ。

 それの正体は――血だ。

 


       〜 第十二話 完 〜

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