「僕のこの美貌が憎いっ」「若君がおっしゃると説得力がありますねぇ。」
そもそもジュリア嬢は大公家の若君を誤解していた。天使のような見た目が災いしたと言えよう。
若君はそれほど優秀な人物ではない。もちろん大公家の人間として最低限必要なものは持ち得ているが、それだけだ。
だからこそ優秀なジュリア嬢が婚約者として選ばれた。
いずれ次期大公当主となる現当主のご子息はまだお小さい。そのため、中継ぎとして莫大な大公領を守っていくだけの人材が必要だ。そのことは若君もジュリア嬢も理解していた。
しかし問題は若君の容姿にあった。王都の教会にある天使画を思わせる若君は、見た目だけは人外じみた万能感に溢れている。そんな若君に釣り合うようにとジュリア嬢は一心に努力を重ねてきた。元から出来の良かったジュリア嬢は、今や比類なき才女となった。
しかしながら、ジュリア嬢は自身の容姿にコンプレックスを抱いていた。充分貴族令嬢らしい美しさをもつ彼女だけれど、天使が横に並んでいたら誰だってそうなるかもしれない。
若君はジュリア嬢のコンプレックスに気付き、寄り添おうと努力してきた。男なのに女よりも美しいことがジュリア嬢のプレッシャーになっていると考えた若君は、男であることをジュリア嬢に意識させないことにした。ある時は女装し、ある時は本当に天使の扮装までしたらしい。同じ男として、ちょっと感動する。若君の努力の甲斐あって、ジュリア嬢は若君はそういう生き物だ、と受け入れるようになった。
しかし今度は若君が辛くなってきた。婚約者に男として見てもらえないのだ。
そこで若君は一計を案じた。ちょっと嫉妬させて僕だって男だよって思い出してもらおう作戦だそうだ。頭の悪さが滲みでている。
都合の良いことに(あるいは悪いことに)、平民の女生徒の中には大公家の若君に言い寄る強者がいた。天使のような見た目をしているが、若君は存外親しみやすい。バカっぽいともいう。平民の女生徒たちも話しやすかったのだろう。
女生徒たちにちやほやされている若君を見て、ジュリア嬢が何を思ったかは想像するしかないが、ある程度若君の思惑通りになったようだ。そこで若君は調子に乗った。引っ込みがつかなくなったともいう。
そして、あわよくば貴族の愛人になろうと考えた女生徒にまんまと乗せられた。女生徒の策謀により二人きりでいるところを、ジュリア嬢は目撃し正しく誤解した。
その女生徒が若君に見劣りしない容貌をしていたことはジュリア嬢を追い詰めた。女生徒の強かなところは、ジュリア嬢に対し、噂によって若君がジュリア嬢と婚約を解消する気だとを思い込ませ、そしてジュリア嬢のコンプレックスを的確に抉る言葉を浴びせたところだ。
本来であれば噂を鵜呑みにするようなジュリア嬢ではないが、こと若君については一途で愚直になってしまうらしい。
すっかり自信を失くし若君へ心を閉じたジュリア嬢は、実家へ帰ってしまった。




