ママのグーパンはいつものこと
アイリーンのご両親にはとりあえず許してもらえた。
「婿殿は頭がよろしいのに、時々とんでもなく愚かですね。それが全てアイリーンに関わることであるのは、娘にとって喜ばしいことなのかは分かりませんが。」
アイリーンそっくりのお母上はそれだけ言うと席を立ってしまった。
屋敷へ着いて早々、軍人であった過去を持つお母上から有り難い鉄拳を頂戴したが、それで許して頂けたらしい。
あっさりと解放されたことが腑に落ちないでいると、その気持ちが顔に出てしまっていたのか、お父上はくすりと笑った。
「いや、そんな不思議そうな顔をしなくとも。シャルル君のことは妻も私も本当の息子のように思っているよ。大公の若君の気紛れに付き合っているのだろう?あの家の方々もなぁ。悪いお人達じゃないんだが、愛情表現が少々独特なことは有名なんだよ。」
なんと傍迷惑な一族なんだ。
「それにしてもシャルル君も災難だったね。アイリーンはどうもシャルル君のことになると特に視野が狭くなるようだ。」
「いや、そんなことはありません。僕が愚かなだけです。アイリーンを巻き込んでしまった。」
しみじみと思い出す。アイリーンは冷静だった。驚いた顔はちょっと珍しかったけれど。
でも何となく、僕は若君が羨ましい。あのジュリア嬢が事を収められないほど、彼女はショックを受けたのだ。直接若君から言われた訳でもないのに、噂を真に受けて心を閉ざしてしまうなんて。それほど婚約解消が嫌だったんだろうな。
どうやら僕は冷静だったアイリーンが少しばかり怖かったようだ。アイリーンにとって僕は替えの効く存在だと言われているようで。
ぼんやり物思いに耽っていると、お父上が咳払いをした。いけないいけない。今はそんな場合じゃなかった。
「…シャルル君。君ばかりが悪いわけじゃないと思うよ。相手がいることだからね。二人はよく似てるんじゃないかな。お互いのことになると不器用なようだ。」
お父上とは思いの外和やかな時を過ごした。すっかり油断した僕は帰り際、きっちりと釘を刺された。
「シャルル君、それでもアイリーンにすぐに謝ればここに来る必要もなかったんじゃないか?あんまり娘をいじめないでほしいな。これから新しい婿を育てるのは面倒だからね。」
にこやかに微笑みながら言うお父上があんまりに怖い。何が怖いって目も笑っているところだ。
僕は防衛本能に従って文字通り逃げるように屋敷を辞した。
ママは辺境伯の傍系出身です。
軍人として辺境伯領に仕えていましたが、負傷し退役しました。
美貌の人ですが、結婚適齢期を過ぎていたことや負傷が原因で子を産めない可能性がありましたので、片田舎の下級貴族の元へ厄介払いされる形で嫁いできました。
ママは油断すると「この蛆虫が」と言ってしまいますので、肉体言語で語ろうとします。




