決着のティーパーティー①
アイリーン視点になります。
学園のティーパーティーが開かれる。
生徒の社交促進が目的というそれは形骸化した行事だったけれど、今回は大公家の若様が主催するということもあって、多くの生徒が参加するようだ。
先日、若様の婚約者が学園に戻られた。若様と婚約者のご令嬢はとても仲睦まじい様子だ。
あの婚約者解消騒動は、ひょっとすると今まことしやかに囁かれている噂が真実なのかもしれない。
それは、若様の情熱に慌てたご令嬢がしばし実家に身を寄せていたというものだ。例の平民の女生徒は、伯爵家が若様のために用意したプロの方だとか。婚前交渉を避けたい場合、令嬢家側がそのような対処をすることはある。結局若様は伯爵家の気遣いは受けず、ご令嬢を自ら迎えにいったらしい。
皆顔を赤らめてひそひそと囁きあっている。お二人のあまりに仲睦まじい様子がそれを助長しているようだ。
ちらちら見ては羨望の眼差しを向けている。なんやかんや言いながら皆羨ましいのだ。
政略結婚が前提の中、自身にだけ捧げてくれる夫というものは珍しい。愛など不要、そう割り切っていたとしても自分だけを見てくれる人がいたら嬉しいだろう。
「そうねぇ。嬉しいかもしれないけれど、物語のようで。物語は物語だから美しいのでは?」
ロッテはまるで興味が無さそうだ。カップを口元に近付け、香りを楽しんでいる。
「ロッテは相変わらずね。私も大人にならなければ。」
シャルル様との婚約解消は進んでいない。両親からは、きちんと話し合うようにと返事が来ただけだ。
「アイリーン。貴方の一途なところは美点だわ。でも望むものを望まないと言うことは愚か者のようで憂鬱だわ。」
ロッテはカップに口をつけ、何でもないことのように言葉を溢した。
「それは、一体」
ロッテに、言葉の真意を尋ねようとするもそれは叶わなかった。
人影を感じ、ふとそちらを見るとシャルル様がいた。
動揺してしまい、降ろしたカップがカチャリと音を立てた。
「少しいいか。」
シャルル様は真剣な表情だ。
シャルル様と顔を合わせるのは久しぶりのことだ。それを良いことに、シャルル様には婚約解消が進んでいないことは伝えられていない。
シャルル様の真実の愛の実現のために、いよいよ私は覚悟を決めないといけないのかもしれない。
「…私は失礼させていただきますね。」
ロッテがそっと席を立つ。思わず縋るように見てしまったが、ロッテは小さく微笑むばかりで、あっさりといなくなってしまった。
「…場所を変えましょうか。」
さすがに人の目があるところで騒動を起こしたくはない。前回と違って、今回は多くの生徒が周りにいる。
「それでもいいが、僕は知らしめたい。」
なんと残酷なことを言うのだろう。
真実の愛を見つけたから、私には親愛さえ与えてはくれないのか。
「…わかりましたわ。」
それでも私はシャルル様の幸せを願いたい。
立ち上がり、シャルル様と正面から向き合う。
怖いくらい真剣な表情だけど、目だけはいつものように優しくて。
シャルル様はすっと跪くと、壊れものをさわるようにそっと私の手をとる。
ああ、やっぱりシャルル様は優しい。最後まで私を大切に扱ってくれる。
でもひどい人だ。
自然と見下ろす形になって、シャルル様の顔がよく見える。
そんな優しい目をしてひどいことを言うのだ。
私は深く息を吸い、何を言われようとも受け入れる覚悟を決めた。
「アイリーン。僕は、勇気がなくて意気地がない駄目な奴なんだ。それでもアイリーン、君のためならなんだってできるよ。」
想定と違った言葉に、私は少しばかり思考停止してしまった。
シャルル様が発した言葉はあまりに甘い。
今、シャルル様は何と言った?




