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第二話



 戦いから帰還して少しした日の夜、三浦大喜の通夜が行われた。


 遺体は回収出来ず、遺品だけとなった三浦を弔った。




 あの日から相良は表面は普通だけど心の奥底には何か暗いものを抱えているような…




 通夜の夜、食事が終わり古河は歩けるくらいまで回復した足で屋上へ向かう。


 そこには相良がいた。





 相良は夜空を見上げて遠い目をしている。


 そして、相良はふいに口を開いた。


「なぁ、真。そっちは今どうだ?」


「そうか。楽しくやってるんだな。こっちは散々だぞ」



 古河は目を見開いた。

 今まで神野から避けてきたと思っていたがこの時になって急に相良の口から名前が出てきた。



「でも、お前も手紙に書いてくれればよかったじゃないか。あんなことになるならもっと早くに知れたら………いや、変わらないか。」


「結局俺は守れなかったんだろう。いつもそうだよな。お前に出来ないことは俺にも出来ないよ。」



 相良はふいに手を空へ伸ばす。


 それはまるでその場にいる神野に向かって手を伸ばしているみたいに。


「ん?そこに奈津がいるのか?いない?また散歩?あいつ…!ジッとしてるの苦手すぎだろ!」


「え?俺がどう思っていたか?うーん……それはなんとも言えないな。でも、俺は大事な守りたい人が出来た。奈津よりもだ。」



 それを聞いて古河は口に手を当てる。


 もしかしたら自分じゃないのか……そんな淡い気持ちを抑えるかのように手に力を込める。



「俺か?俺はこの前ようやく金村さんに認めてもらえたよ。でも、お前と比べられたらお手上げだ。お前に敵うやつなんていないと思ってるからな。俺も金村さんも」


「でもな、唯一近いのが真奈美だ。あいつは努力家だよ。何もなかったのに何でもあるようになっちまった。努力で天才になったよ」



 それを聞いた古河はさっきの気持ちなんて忘れて飛び出していた。


 そして、柵に肘をかけていた相良の胸に向かっていつものようにダイブした。



「たーくーみー!うぅぅぅ!」

「なっ、真奈美!?なに泣いてんだ!?」



 相良は優しい手つきで古河を支える。



「まさか…今の聞いてた?」


「………」



 古河は相良の胸の中で頷く。



「はぁー、まぁいいか。真、またな。」



 相良はそう呟いて神野との会話を止める。そして、胸の中にいる古河を少し強く抱きしめる。



「まったく…いつからいたんだぁ?全く気づかなかったぞ…」


「………」



 古河は少し涙ぐんでるように思える。


 それでも相良の服で涙を拭くかのように顔を擦り付けて、すぐに顔を上げて笑う。



「私は大丈夫!そんなことよりたくみこそ!あの日あのまま倒れたんだからね!そっちこそ大丈夫なの!?」



 目を赤くしているのを隠すように相良に近づいて顔を合わせる。


 それに対し相良は目を背けるしか出来ない。



「い、いやぁ、こうして元気なんだし大丈夫なんじゃないかな?」


「まったく!私が目を離すとすぐに無茶するんだから!」

「いや…あれはしょうがないだろ…。真奈美も危なかったんだから」

「うっ……。まぁ、今回はありがとう。でも!次はちゃんと自分のことも考えてよね!」



 古河はまるで相良のお母さんみたいな叱り方をする。夫婦ではなく親子にしか見えない。

 それを古河に言うと怒られるらしいので他の隊員たちは心の中に仕舞っている。



 と、そこに小鳥遊が呼びに来た。なにやら食事会のお誘いらしい。



 相良と古河は顔を見合わせ了承する。




 ○



「相良、お前に話がある」



 そう金村に言われた相良は金村と一緒に食事会を抜け出し、店の近くを歩く。



 ザッ、ザッ。



 歩き始めて5分。金村が靴を地面に擦る音だけが響いている。


 そして、先に口を開いたのは金村の方だ。



「相良、お前体は平気なのか?」



 あの時相良は笑いながら現実を受け入れることが出来ずに体ごと強制シャットダウンしてしまったのだ。そのせいでまるで気を失ったみたいに倒れ込んでしまったらしい。

 医者によるとそういう判断らしいが……相良は、



「はい、おかげさまで。しかし、何があったのかあんまり覚えてないんですよね。三浦さんを見たあとの記憶が無いっていうか…」



 どうやら覚えがないみたいだ。記憶喪失は前後の記憶も無くなると聞いたことがあるがその類なのかもしれない。




 金村は心の中で息を吐いてから意を決したように口を開く。



「それで……俺が話したいのは神野についてだ」

「真の……?」


 相良は顔を強張らせて睨んでいるように目を細める。

 相良は正直あの話を聞いて以来神野に向けての考えが変わった。今までは人並外れた化物だと思っていたが金村の話以来あいつも人間だったんだと認識している。

 他の人から見れば相良は頭おかしいんじゃないかと言われるかもしれないが、相良の中ではそう思わざるを得なかったのだ。


 小さい頃からずば抜けており、一緒に隊員を目指し始めた頃には追いつけなくなっていた。


 神野の小さい頃にこんな話がある。


 --------------------


 神野、相良、清水は近くに住んでいた幼馴染だった。


 そんなある日、清水が体よりも大きい犬に追われていた。どうして追われていたのかは今もわからない。

 おそらく余所見して歩いていたら尻尾を踏んだんだろう。

 そんな犬に追いかけられていた清水を助けるために相良は犬と清水の間に立った。



「やい犬め!奈津のことをいじめやがって!かかってこい!」



 犬は突如現れた相良を前にしても普段と変わらぬように「ハッハッ」と息を吸う。


 いや、息荒いのは気のせいだ。よく聞いてみたらグルルルルと喉を鳴らしている。


 相良を敵認定してからというもの、より犬の顔が険しく鋭くなっている。


 内心「あちゃー、俺ヤバイかも?」と楽観視している相良は事態の急激さをわかっていない。


 この雰囲気を理解してるのは清水だけだった。



「巧!なにしてるの!早く逃げないと!」


「いや、そんなこと言っても……ってウワッ!」



 犬はここぞとばかりに相良の喉めがけて大きなジャンプをしてきた。


 相良は勢いを殺すために後ろに仰け反った。しかし、犬は止まる気配がない。


 相良は勢いのそのままに尻餅をつく。犬は頭を飛び越えて背中のほうへ。

 もしそのままの体勢だったら喉を掻き切られていたに違いない。



 相良は冷や汗が背中一面を濡らした。



 しかし、状況は変わらない。相良が一回回避しただけに過ぎない。



「くそっ!やべぇ!」


「巧!逃げて!」


 犬は相良に向かってもう一度牙をむいて襲い掛かってくる。しかし、犬は犬と相良との間に立ちふさがった清水のせいで相良に辿り着くことはなかった。



 清水は犬と相良の間に入ると大きく手を広げてまるで壁のように立ちふさがる。

 犬が迫ってくるにつれて恐怖が増してきたがもう逃げることなどできない。


 腹をくくり、清水は目を閉じた。



 しかし、いつになっても痛みはおろか何かがあたる感触すらやってこない。


 ゆっくり目を開くとそこには神野の姿が……。


神野は少し遠くからパチンコらしきものでこちらを覗いていた。そのパチンコで清水に向かっていた犬を狙ったというのだから相当な腕を当時から持っていたのだろう。


 犬は一瞬ひるんだものの顔をブルルと震わせると今度は神野のいるほうを見ると神野に向かって走り出していく。


 神野はそれを見て自分も犬に向かって走り出した。


 相良と清水はそんな神野を見て何を考えて走り出したのかわからなかった。普通、犬が向かってくるというのに自分が犬に向かって走り出すなんておかしいはずなのに。



 神野と犬との距離はどんどん縮まっていく。


 15メートル、10メートルと縮まっていく中で神野のほうは何も動きを見せない。ただ前に走っているだけのようにしか見えないのだ。

 対して犬のほうは動きがみられる。走りながらなにやら神野の足元を見ている。


 さっきは相良の喉をめがけてきたから今度は足を目掛けて咬みつきに行くのかもしれない。 



 犬は狙い道理、神野の足を目掛けて咬みつきにいった。


 犬はまさしく足を狙いにいった。しかし、そこに足はなかった。

 そこにあったのは空気、犬自身が閉じた口で起きた風のみ。


 神野の姿など微塵も無かった。しかし、姿は無くとも匂いはあった。

 犬にとってはそれで充分。


 神野の匂いを辿ってみるとすぐ後ろ、犬の背中側へ続いている。

 すぐさま後ろを振り向いた犬のその先にはジャンプして犬を飛び越えてこちらを見て笑っている神野の姿があった。


 犬はまさしく腹の煮えたぎるような感覚であろう。

 自分の狙いを読まれた挙句にこちらを見て笑っているんだから。



 神野はもう一度走ってきた犬に対して今度は背中を向けて走り出す。またもや相良達は意味もわからず見ているしかなかった。



 神野は近くに立っている木に向かって走っているみたいだ。もちろん木には何か仕掛けてあるわけじゃない。


 神野は脇目も振らずに走る。



 木との距離が残り五メートル近くになった時、神野がスピードを落とした。

 そのせいで犬との距離がみるみる縮んでいく。




 次の瞬間、犬は木に当たって頭を打ち付けていた。




 何が起きたのかというと、神野はあえてスピードを落とし距離を縮めた。そして、木が近づいた途端に速度を上げてその勢いを使って木を壁にして宙返りをしたのだ。

 そのおかげで犬は走ってきた速度のまま木にぶつかり、頭部を打ち付ける結果となったのである。



 ちなみにこれがまだ訓練学校に入る前の子供の時の話である。このときからほかの人よりずば抜けていたことがわかる出来事だった。



 --------------------


「…という話があるんですよね」



 金村は神妙な面持ちのまま口を閉ざす。



「その頃から才能が開花して、何をしても一番を取るようになってました。そして、対アトムス部隊に入っていったわけです」



 相良の声には感嘆や尊敬の念が込められていたに違いない。それくらい当時から凄かったのだ。



「…………」



 依然金村は口を閉ざしたまま。ただ靴を擦る音だけを発している。



「そして、俺は神野が先に部隊に入ってから奈津と二人で遊んでいました。それから奈津のことを好きになったんです」


「お前の恋愛相談は聞いてねえよ」



 金村はそこで久しぶりに声を発して相良にツッコんだ。



「まぁいい、お前の話はわかった。昔から凄いのは聞いていたがそこまでだったとはな」


「はい、当時から尊敬してました」


「俺が話したいのは隊長になってからだ」


「隊長になってから?」


「あいつ、隊長になってからみるみる痩せて顔色が悪くなっていってな。若くして隊長になったから大変なんだろうと思っていたが、よく考えてみたらあの頃からアレについて知っていたのかもしれない」


「だとすると、アレを知っていたのに隊長になった。もしくはアレを聞いたから隊長にさせられた…」


「そう考えるのが妥当だろうな」



 二人はお互いの考えが一致したところで足を止めた。

 そして、相良が大きく息を吸い込み小さく吐いた。


「じゃあ、今回の三浦さんのは………」


「もしかしたら知ってしまったからなのかもな」


「!?」


「だとすると次に狙われるのは、相良か俺。どっちかだ」




「嫌な予感がするぜ…」


 そういった金村は唇を噛んで夜空を見上げた。まるでそこにいる三浦を見ているみたいに。



 ○




 三浦の通夜も終わり、帰路に就くために二人は一度会場へ戻った。


 戻ったころにはもうすでに食事も終わっていて片づけをしていた。

 その部屋の端になにやら横たわってる人が…。


「うーん、たくみぃ…」

「……」


 真奈美が酔いつぶれている。


「はぁー、真奈美は何をやっているんだ…」



 と思ったら、真奈美に重なるようにもう一人潰れている。という


「真奈美ちゃんは私が飲ませたから許してあげてぇ」


 小鳥遊だ。


 彼氏と何があったのか知らないが周りを巻き込み真奈美を道ずれしたというわけだ。


「たくみぃ」

「わかったから!落ち着けって!」


 とりあえず真奈美をなだめて金村の所に向かう。



「隊長。今日はもうお開きでも大丈夫ですか?こいつ送って行くんで」

「あぁ、構わない。ただ……今日のことはよく考えておけよ」

「………」


 相良は首肯すらもしないで無言のまま金村の目を見る。

 そして、軽く頭を下げてから真奈美のところへ向かう。


 金村は息を吐いて自然と力が入っていた肩から力を抜く。



「大丈夫ですか?隊長」



 小鳥遊は酔って顔が真っ赤ながらも真面目な顔で金村に尋ねた。



「あぁ、ちょっとまだ…な」



 周りから見ると三浦のことをまだ悔やんでいるようにしか見えなかっただろう。だから、小鳥遊もそうやって言葉をかけた。


 金村のため息の本質に気づいていたのはその場では相良だけだった。




 ○




 それから相良は真奈美のところに向かい肩を貸す。



「ほら、真奈美!帰るぞ!」

「えー?まだ帰りたくなーい!」



 まるで子供のように駄々をこねる姿は一見とっても可愛く見えてしまうがなんとか理性を保つ相良。



「ほら、肩貸してあげるから。行くぞ!」

「むー………巧の家に泊めてくれるなら行く」

「はい?」




 相良は声が裏返って素っ頓狂な声を出してしまった。

 酒に酔っているせいなのかいつもよりも密着して耳元で呟かれる。



「私をとめてよ…」



 真奈美の言葉には2つの意味が込められている。しかし、相良はそれに気づくことなんてなかった。

 真奈美は相良に枝垂れるように寄りかかり、体重をかけている。それを耐えている相良は顔が引きつっているようにも見えるが…。



「真奈美…、当たってるんだけど…」

「んー?当ててるんだよー?じゃないと、どっかいっちゃうじゃん…」



 古河は口をとがらせて、さらに相良に体重をかける。

 相良は顔を染めつつも、古賀を引き離す。



「とにかく!部屋まで送ってやるから帰るぞ!」

「おんぶ~!」



 相良は黙って後ろを向いて古河を背中に乗せる。

 こうやって背中に古河を乗せるのは何度目かわからない。しかし、乗せるたびに思うのは、小さな体で大きなものを背負っているように相良は感じている。見た目や体格は普通のどこにでもいるような女の子だ。しかし、生まれる時代が悪かった。この時代に生まれてしまったから、背負うものが出来てしまったのだと思う。対アトムス部隊に入ったことで背負う必要のなかったものをこの小さな背中に背負わせてしまっていると、相良は自分自身に憤りを感じていた。

 だが、相良が悩んでも解決されないし、おそらく古河は自分から背負ってるから巧が気にすることないよ、とでも言って笑い飛ばすだろう。




 そうこうしているうちに古河の部屋の近くまで来ていた。ここから先は男子は入れるものの、完全なる女子のプライベートゾーンなので相良は躊躇った挙句、ここで古河を下ろしていくことにする。


「ほら!真奈美!着いたぞ。」

「んー?」


 相良は後ろを向いて話しかけるが、思っていたより顔が近くて少し驚く。が、その顔をじっと見つめてしまう。黙っていれば本当に美少女なのになあ、と思うけど古河には無理な話だろう。彼女はその明るさがあるから素敵なのだから。



「ほら、帰ってすぐに寝るんだぞ!明日も訓練あるんだからな!」

「んーー?」



 そう言って廊下においてある近くのソファに座らせる。


 相良は自分の部屋に戻ろうとするも、一歩歩いたところで立ち止まる。

 その場で数秒間立ち止まり、後ろを振り返ると、服の裾を引っ張られていて、ピンと張られていた。


 鼻から息を吐きだし、そっと手を伸ばしガラスに触れるような手つきで裾を掴まれていた手を服から離し、水の上に浮かべるようにソファにその手を置いた。

 そして、寝息のようにも聞こえる息づかいを背にしてその場から離れた。


「誰か通ったときに起こしてもらえよ」


 その声はその場に響くものの、古河の耳に入ることはない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 相良は自分の部屋に戻って、シャワーを浴びていた。シャワーを浴びている間に考え事をしてしまう相良は、今日もついつい長く入ってしまっていた。


 明日からの戦いはこの前と同じ国との闘いである。この前は『アトムス』は前線に来ていなかったが、今回の戦いでは接触する可能性が高いと言われ、対アトムス部隊が出動となった。

 さらに、『アトムス』との戦い以外でも形成が悪いらしく、援護にも回らないといけない。二度目の出撃にしては簡単な内容ではないことは少し考えたら誰だってわかるだろう。

 前回の戦いであった建物の倒壊。相手国によるものだったが、何故ピンポイントで古河たちのいる建物を狙うことができたのかわからない。たまたまだったのか、それとも…。


 そう考えるだけで震えが止まらない。さらに、あの時の三浦の光景が微かに頭に思い浮かんだところで頭を振って忘れようとする。シャワーの強さを最大にし、耳に入る音をシャワーから出る水の音だけにする。そうすることで今の頭の中に残っているものを洗い流そうとした。



 そうやって水の音だけが頭の中を埋め尽くしてから数分後、水とは別の音が頭の中に入ってきた。そうまるでドアを開けたような…。



「たくみ?」

「えっ!?真奈美!?な、なんでここに?」


 相良は突然のことにビックリするも、咄嗟に近くにあった体を洗うタオルで局部を隠すことに成功する。

 しかし、そんなことはおかまいなしに古河はどんどん相良に向かってくる。


「ちょ、ちょ!真奈美さん!?どどどうしたの?」

「……。」

「いまシャワーしてるんだけど!?真奈美!?」

「……。」

「なんとかいってくれよぉぉぉ!!」



 そのまま壁まで来て、古河は壁に手をついて相良を見下ろした。そう、壁ドン状態になっていた。


 相良は何が何だかわからず壁に追いやられ、壁にもたれかけるような状態になり古河を見上げるしかなかった。しかし、ドアから入ってきてから古河の顔はずっと硬いままだ。最初は緊張からなのからかもしれないが、今は真面目な話をするときのように目を細めて相良の目を見つめていた。



「ねえ、たくみ」

「は、はい」

「わたし、話があるの」



 その言葉を聞いて、相良の顔も強張った。古河の雰囲気がいつものふざけているようではないと察し、相良もきちんとした対応をしなければならないと感じたからだ。しかし、依然として上裸で局部だけをタオルで隠しただけだが、今は真面目な話だと古河の顔から伝わってきたために、相良もそれらを忘れて古河の次の言葉に集中する。



「わたしね、たくみのことが好きなの。それは前から変わらない。わたしね、本当は隊員になるつもりはなかったの。でもね、養成所のときにたくみが私に話しかけてきてくれたから、そこで頑張るたくみを見て隊員を目指そうと思ったの」


 相良はそれはおかしいと心の中で答える。だってあの時に話をしてきたのは古河のほうで自分自身は神野に追いつくために必死になっていただけだった。


「それからは何とかしてたくみと同じところにいれるように必死に練習した。あのままだったら入隊テストも受けられないところだった。だから頑張ったんだけどダメでさ…。テストは受けれなかったんだよね。でも、たくみは入隊テストを受けていてさ。申し訳ないなとは思ったけど、落ちちゃえ!、って思ってたんだよね。だって、そうすればもう一年はたくみと一緒に過ごせるなって思ってさ」


 相良は実際に入隊テストには落ちてしまった。神野と清水と一緒に受けたはいいけど相良だけ落ちてしまったのだ。落ちてしまったショックで寝込んでしまった。


「そこでいつも頑張ってるあのたくみが落ち込んでるのを見てさ、支えてあげなきゃっ、って思ってさ。清水さんに負けないようにって思ってからたくみにアプローチしてるのにさ、当の本人はこっち向いてくれないしさ…」


「真奈美…。俺は…」

「あぁ、いいの。確かに振り向いてもらいたいけど、無理矢理なんてそんなの嫌だからさ。でも…」



 そこで古河は下を向いてしまう。目をつぶり、口を閉じて、次の言葉を探す。いや、次に口にするべき言葉は決まっている。今までと変わらない同じ言葉を言えばいいだけなのにその言葉を出すための準備ができていない。

 目を閉じたまま瞬きを繰り返し、渇ききった喉に何度も唾を流し込む。そして、ようやく口を開き、言葉にするための準備を整えることができる。



「でも…、わたしはたくみ、あなたが好きなの。だから、私だけを見てほしい。私だけを守ってほしい。私だけが……、あなたを見ていたいの…」



「………」



 相良は黙ることしかできなかった。古河の思いは知っていながらずっと先延ばしにしてきた。でも、清水亡き今、護る人がこうして目の前にいる。清水の時は手が届かず見ることもできなかった。でも今は手が届き触れることができる。それも護れないとなったら天国にいる清水に怒られてしまうに違いない。



「わかった。でも、次の戦いが終わるまで待っててくれないか?戦いが終わったら今度は俺がお前に思い切り胸を張って告白するからさ。」



 相良はそう宣言した。女の子から一方的に好意を伝えさせるなんてかっこ悪いことはできない。だから、明日の戦いが終わったら自分から思いっきり恥ずかしい言葉を並べて告白してやろうと考えた。


 しかし、その高らかな宣言は古河には聞こえなかった。



「zzz…」

「この流れでねるぅ?」



それでこそ古河らしいと相良は呟く。






 これから『アトムス』との戦いが始まる。誰も止めることのできない戦いが。

 

久しぶりの更新です。ようやく真奈美がヒロインっぽくなってきました。次の更新はいつになるやら…。

※誤字・脱字があればご指摘よろしくお願いします。

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